終わった後

 ハーディスを倒した俺達は、気絶したハーディスを持って、皆と合流した。

 そこには皆だけではなく、先生、浅羽さん、岩下もそこにいた。

 歩美は泣きながら抱きついて来て、馬鹿力で、また死にそうになった……。

 そして……この戦って荒れ果てた町をどうすればいいのかという話になった。

 すると、アーネにいい方法があると言って、俺達はハーディスを近くにあったホームセンターにあったロープで縛り、移動を始めた。


「アーネ、いい方法ってどうするんだ?」


「いいから黙って着いて来て。成功したら町も直るし、この場にいる皆以外のこれまでの記憶も消すこともできるから」


「マジで!? そんな便利なのがあんの!?」


「ここよ」


 着いたのは市役所前、ちょうど市の中心辺りの場所だ。

 そして……なぜかガムテープにぐるぐる巻きにされたまま気絶しているエルサレムがいた。


「ノーマルディア、ハーディスをエルサレムの脇に置いて」


「はぁ……あ、なるほど!」


 フクロダさんはアーネの考えがわかったようだ。


「しかし、二人で足りますかね?」


「こいつらの魔力なら……まぁ、この町の規模ならなんとかなるでしょ」


「試す価値はありますね。ニコ、マジックポーションを注射器で二本」


「え、あ、はい」


 ニコがマジックポーションという、たしか、魔力だけを回復する薬だったはず。

 ニコはそれを注射器に入れて、フクロダさんの指示で、気絶してる二人に投げるのではなく、普通に腕に注射した。


「あの~そこの魔法使いズ。こっちに説明してくれません?」


「『魔対価の儀』を行います」


「魔対価の儀?」


「簡潔に言えば、魔力を完全に無くす代わりに願いを叶える儀式のことです」


「それで町をなんとか出来るんですか?」


「魔力というのは我々の世界では誰でも持っていて必要不可欠な物。それを捨てるというのは、それ相応なこと。願いを叶えるには妥当な代償です」


「それにこいつらは相当な魔力を持っているわ。二人で町の修復と記憶の改竄。なんとかなるはずよ」


 アーネはそう言っているが、人の魔力を勝手に無くして…………いいな。魔力を持ったままだと、また暴れたらたまらない。

 フクロダさん達はなるべく平坦の所を選んで、ハーディス達を置いた。

 そしてフクロダさんに頼まれた父は軽トラで、学校から白線を引くライン引きと石灰を持ってきた。

 そして俺達全員で魔法使い二人の指示のもと、大まかな所は俺達、フクロダさんとアーネが細かい所を書いた。

 そして……ハーディス、エルサレムを中心に大型の魔法陣が完成した。


「ではやりましょう。これは三人必要なのでニコも参加してください。魔法陣に魔力を注ぐだけですので」


「は、はい!」


 フクロダさん、アーネ、ニコが魔法陣の周りに広がった。


「じゃ、いくわよ」


「「はい」」


 アーネの号令と同時に三人は魔法陣に触れた。

 すると魔方陣が淡く光った。


「力の神よ。この生きとし者の力をにえとし、我らが願いを叶えたまえ……」


 アーネが呪文を唱え始めた。

 すると、中心にいるハーディスとエルサレムから白い光の粒子が出てきた。

 そしてその光は上に上がり、その後、光の粒子が花火のように空に弾けて広がった。

 光が町中に広がり、今度は光が雪のように降り注いだ。

 光の雪が壊れた建物やえぐれた地面に触れると、その建物や地面が光り、まるで時間が戻ったかのようにどんどん直っていく。


「おお……」


 俺達は全員驚いた……。

 今まで火を出すとか、岩を出すとかみたいな攻撃的な魔法は結構見てきたが、これはいつもと違う幻想的な魔法だ。

 光が消えていくと、いつの間にか町はすっかり元に戻っていた。

 だが、町の人はまだ地べたで寝たままだ。


「なんとかなりましたね」


「フクロダさん、寝てる人の記憶は?」


「これまでのは消えているはずです。二人分使いましたから『町を直す』と『記憶を消す』二つの願いを叶えました」


 本当に便利だな……。

 ただ町の人が皆、地べたで寝てるから起きたら誰しもが疑問に思うが、この際まぁいいか……。

 とりあえず俺達の丸々市は無事に直り、平和になったとさ、めでたしめでたし。



 ***



『続いてのニュースです。丸々市の市民が集団で倒れるという事件が発生しました。市民には健康に問題はなかったのですが、ここ2日ほどの記憶がないと、警察は近くの工場などのーー』


 あれから一日が経った。

 俺は家のテレビで地元のローカル局のニュースでこれまでのことが流れてあった。

 テレビでは工場の毒ガスが原因ではないかとか、感染症の疑いだとかで、警察が色々検証するようだ。

 まぁ当然だ……これまでニュースにならなかったのがおかしいくらいだからな。

 今学校はそれが原因でしばらく休み。とりあえずそんなに大事おおごとにならないことを祈ろう……。


「あの~フクロダさん?」


「何ですか?」


 俺は隣で一緒にテレビを見ていたフクロダさんに話しかけた。


「町に平和が戻ったのはいいんですけど……」


「けど?」


「どうしますか……?」


「………………」


 あれからハーディスとエルサレムは俺ん家にいる。

 家の縁側には手足に手錠をつけたハーディスが無言でこちらを睨み付ける。それはまるで猛獣のようだった。

 はっきり言って怖いよ! サファリパークに車なしで来て、大人しめのライオンが近くにいる感覚だよ!


「エルサレムさん、お茶をどうぞ」


「おお……すまないね」


 エルサレムはニコに熱い日本茶を渡されて、ズズズとお茶をすすっている。

 まだ残暑厳しい九月上旬なのに熱い日本茶ってそうじゃないよ! エルサレムがすっかり老けこんでるよ!

 元々老人だけど、なんか縁側が似合うおじいちゃんになってるよ!


「一応今のエルサレムはともかく、ハーディスは魔力がなくても危険ですからね。今はこのまま見張っておくしかありません」


 あれから二人に魔力は本当になくなっていた。

 エルサレムは元々魔獣を操るのが取り柄の調教師テイマー。召喚する魔力がなければただの動物に懐かれるじいさんだ。

 現に縁側に茶をすすっているエルサレムの周りには、エサもないのに雀や鳩が寄って来ている。

 ハーディスは元兵隊だから魔力の他に体力があるため危険だ。

 だから手足に手錠をつけて、飯の時はフクロダさんに食べさせてもらっている。


「とは言ってもさ~、こうずっと睨み付けられたらさすがに気が滅入るといいますか……」


「そうですね……何か方法はありませんかね……」


 この騒動で俺達に残っているのは、この二人のことについてだよな……。


「やっぱり、ハーディスに黒髪に慣れるとか?」


「無理ですね。何十年も忌み子を嫌悪していますからね。だとしたら……犯罪者に仕立て上げて刑務所にぶちこみますか?」


「あんた一応先輩なのに容赦ないね!」


「あ、ですが、色々警察に事情聴取とかなると面倒なことになりますね」


「「ん~~……」」


 俺達は悩んだ。

 相手は敵意むき出しの奴だから、仲良くするっていうのも無理だろうし……。


「まぁまぁ二人とも! お昼でも食おうよ! 今日は店のメニューにあるスープ料理だよ!」


 同じく店が休みの父は台所から料理を運んできた。

 それはエビやら肉やらが入ったとろみのある具だくさんスープだ。

 店のと言ったからアメリカ料理なんだろう。

 父よあんたはお気楽だ……これまでの状況を見たはずなのに、そしてこの状況の張本人が目の前にいるというのにお気楽だ。


「父よ、少しお気楽や過ぎないか?」


「いいじゃないの。終わり良ければ全てよし、って言うじゃない」


「はぁ、もういいわ……」


 この気楽魔神の父は放っとこう……俺はそう思いながらスープ食べることにした。

 意外にうまいな……。


「きゃ!」


 スープを食べていると、いきなりのニコの叫びに驚いた。

 全員振り向くと、戸棚近くにいたニコの周りに何かが落ちていた。


「ご、ごめんなさい! その……黒い虫がいきなり足元に……」


 ああ、Gに驚いて戸棚にぶつかったのか。なら仕方がない。

 エルサレムが飲み終えた湯飲みに、戸棚の上にあった赤ベコやらの置物などが落ちていた。


「す、すぐに片付けます!」


「ああ、いいよいいよ。ニコちゃんは湯飲みを台所にやって」


 ニコが片付けようとすると、父も手伝った。

 父は何かと置物の配置にこだわる人だ。

 趣味のエアガンコレクションもそうだったし、見映えをよくしたいんだろう。

 父か黙々と戸棚の上に物を置いているとーー。


「おいお前!」


 俺達は再び驚いた。

 なぜなら、捕まってからずっとしゃべらなかったハーディスがいきなりすごい形相で怒鳴ってきたからだ。

 しかも父に向かって、どういうことだ?

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