大空の戦い2
ハーディスの拳をモロに受け、大空の彼方まで吹き飛んだ。
「フクロダさん!」
フクロダさんだけが……。
フクロダさんが最後のウインドガードを破られた瞬間、俺を
俺はハーディスの真上に飛び、ハーディスがどんどん遠くに見える。
「くそ……」
俺は悔しい……フクロダさんに守られてばっかりで、何にも出来てない……。
このままだと、ハーディスが町が滅ぼして……皆が死ぬ……。
俺には何も出来ないのか……。
……いや、俺はハーディスが怖いだけで何もしなかっただけ。
フクロダさんがいない以上、町のため、皆のため、自分から進んでやらないといけないんだ!
だけどどうすれば……。
「あ!」
俺はポケットからニコにもらった薬の入った小瓶を調べた。
小瓶のラベルには材料にした植物の名前が書いてある。
落とさないようにしっかり小瓶を握りしめ、一個一個調べた。
ビンを見終わって、今度はスマホを取りだし、メモ機能を表示した。
これは夏休み、ニコと効果を調べた時にメモしたやつだ。
それで持っていた小瓶の効果を調べた。
残念ながらポーションはフクロダさんに使ったのが最後だったから回復も出来ない。
フクロダさんが吹っ飛んだ今、これでなんとかするしかない。
ずっと上に上がっていた俺は、空中で止まり、今度は下に落ちていく。
落ちていくと、ハーディスが見えてきた。
ハーディスはまだこっちに気づいていない。
「やってやる!」
決意した俺はある小瓶を取り出した。
そしてハーディスの背中にしがみついた。
「うぉ!?」
ハーディスはしがみついた俺に驚いた。
「お前、生きて……! くそ、離せ!」
ハーディスは俺を振り落とそうと、体を振り回している。
俺は振り落とされないように、足でしっかりとハーディスの腰にからみ、空いた手で薬を飲んだ。
すると、俺の体が黒くなった。
そして顔がどんどん体の中に入り、手足が細く長くなっていき、体中から触手のようなうねうねが現れた。
これは前にニコが飲んだ「桜の葉」の薬の効果だ。
謎の触手生物と化した俺は、全ての触手を駆使し、ハーディスの手足に絡み付いた。
一本の触手が指一本のような感じで、すごい動きやすい。
「ぐ……! くそ! 何だこれは!?」
ハーディスは力を振り絞ってはいるが、触手が体のいたるところに巻き付いて身動きが取れない。
とりあえず俺がやれることは時間稼ぎ。
フクロダが帰ってくることを信じてるのもそうだが、ハーディスの「マッスルアップ」っていう魔法にも制限時間はあるはず。
だったらその効果が切れるまで稼ぐ。
フクロダさんやアーネも言ってたけど、空を飛ぶのにも魔力が消費するらしい。
だから魔力が切れて疲労してくれるという願いも込めてやっている。
「この……! ガキがぁぁぁぁぁぁぁ!」
ハーディスの手が肩に絡んだ触手をつかんで、強引に引き剥がそうとした。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
ちぎれる! 強引にやったらちぎれる!
「こぉぉぉぉぉぉぉのぉぉぉぉぉぉぉ!」
だが触手は伸縮性のあるゴムのようになかなかちぎれない。
ハーディスは両手を使って身体中の触手を引っ張り、俺は痛みに耐えながら、必死に触手を締め付けて、剥がれないようにしている。
そんなやり取りをして約五分ーー。
俺の体に異変が起きた……。
触手がどんどん太く、短くなっていき、形もどんどん人の形になっていく。
そして体が肌色になり、とうとう薬の効果が切れて元に戻ってしまった。
今の俺はハーディスの背にしがみつき、ハーディスに右手をつかまれた状態になった。
「ふん!」
ハーディスがつかんだ俺の右手を自分の肩を支点に、関節を逆にしようとし始めた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
これ痛い! 骨がある分、さっきのちぎれそうなやつより痛い!
「この~! コチョコチョ」
「んぅ!」
俺は左手でハーディスの脇をくすぐった。
すると、不意を突かれたハーディスは、手を放した。
危ねぇ危ねぇ、あやうく骨折れるところだった。
「このガキが!」
「こっちだって町を守ろうと必死なんだよ! 」
「うるせぇ!」
ハーディスは思いっきり俺の顔に裏拳を食らわしたが、忘れているかもしれないが、こっちは空にいた頃からずっと金山が被せてもらったフルフェイスのヘルメットを被っているから安心! ……だと思った。
強力になったハーディスの裏拳一発であまりの衝撃で意識が飛びそうになり、ヘルメットにヒビが入ってしまった。
このままだと、あと一発で粉々にーー。
「邪魔だ」
「あ……」
ハーディスがヘルメットの顎の部分をつかみ、下から上に引き上げられて、ヘルメットが取れてしまった。
ヤバいヤバいヤバいヤバい! 確実に死ぬ!
「おらぁ!」
命の危機を感じた俺は、咄嗟にハーディスの頭上にげんこつを食らわした。
「これで俺を倒せると思ってるのか?」
だが、歩美に殴られる専門だった俺に、そんなに力はなく、ハーディスにダメージはないようだ。
「ふん!」
「おわっ!?」
ハーディスが頭上の俺の腕をつかむと、強引に引っ張られ、不意を突かれた俺は前に引きずり込まれた。
「待っーー」
「くたばれ!」
ゴン!
俺の顔面にハーディスの左ストレートが放たれた。
ヘルメットがなく、強力な力が直に来たため、衝撃で脳が揺れ、鼻血も出た。
「がっは……!」
さすがに丈夫な俺も意識が失いそうになった……。
痛い……やっぱり勝てるわけがなかったんだ……。
ハーディスの腕をつかまれながら、俺はぐったりとしている。
「しぶといなこいつ、この一発で決める」
ああ、これは確実に死ぬな……。
フクロダさんはまだ来ないし、もしかしたら気絶したのかな?
このまま俺も死んで……下にいるアーネ達もやられたら町は崩壊するのかな……。
歩美も金山もニコも皆、死ぬのかな……。
死ぬ……死んだら皆一緒になるのかな? そしたら母さんも一緒になれる……母さん?
『だからお父さんみたいに笑って生きて』
俺は小さい頃に聞いた母の言葉を思い出した。
……生きないと。
母さんと約束したんだ……生きないと天国の母さんが悲しむ……。
「ん?」
俺はハーディスの肩をつかみ、腕の力で自分の体を持ち上げた。
「しぶといな……本当にここの人間なのか?」
「歩美の……プロレス技にも……負けず」
「あ?」
「飛んでくる岩にも、鉄パイプにも、あんたの拳にも負けないこの頑丈な体ーー」
そしてハーディスの肩をつかみ、頭を後ろに振り上げーー。
「なめんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ゴン!
「ぐぁ……!」
ハーディスに思いっきり頭突きをした。
その頭突きにためらいはなく、ハーディスのおでこから、俺のおでこからも血が出た。
危うく諦める所だった……。
死んだら何も出来ない。波乱万丈ながらも面白いフクロダさん達との生活が出来ないじゃねぇか。
「この……くっ……!」
俺の頭突きが効いたのか、ハーディスが頭を押さえて、高度が下がっていく。
「このガキが!」
「うぉっ!」
ハーディスは掴んだ俺の腕を離し、俺は落ちていく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は地の底へと落ちていく。
一瞬イケるとは思ったが、やっぱりダメだったか……。
「耀助さん!」
「ぐおっ!」
いきなり下から声が聞こえると、俺が謎の衝撃と共に、いきなり浮き上がった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐふぉ!」
そしてまたハーディスの元に戻って来て、ハーディスの胸元に思いっきりぶつかった。
ハーディスは飛ばされたと思ったが、ブレーキのようにすぐに止まった。
だが、腹を抱えてるってことは相当効いているはず。
「おのれ……ノーマルディア!」
声の正体はフクロダさんだった。
体がボロボロで口から血が出た跡があるが、元気ではある。
「耀助さん、大丈夫……ではないようですね」
「すみません。俺、全然役に立てなくて……」
「何を言ってるんですか。私が来るまで時間稼ぎしましたし、何よりあのハーディスにダメージを負わせた。ちゃんと役立ってます」
「フクロダさん……」
フクロダさんの言葉に俺は少し泣きそうになった。
「それに見てください」
「く、く……!」
ハーディスが頭を抱えたまま止まっている……。
なんか動こうとしても動けないような感じだ。
「体が思うように動けなくなるのが『マッスルアップ』の後遺症です。おまけにこれまでの魔法と『フライ』の継続。さすがに魔力が尽きて、浮いているのがやっとのはずです。これは耀助さんが時間を稼いでくれた勝機です」
俺が勝機を……。
俺がやったことは無駄じゃなかったんだ。
「耀助さん、行きますよ!」
「はい!」
俺とフクロダさんはハーディスの真上を飛んだ。
ハーディスが蟻のように小さくなった所で止まり、フクロダさんが手を挙げた。
「風よ! 竜巻となれ! 『サイクロン』」
フクロダさんが魔法で竜巻を起こし、俺達を包んだ。
「行きますよ!」
「はい! …………え? 行くって何を?」
勢いで言ってはみたものの、一体何をするのかわからなかった。
フクロダさんは俺の首根っこを持って、思いっきり振り上げた……なんだかすっごい嫌な予感が……。
「力を入れてくださいね! ふん!」
「三回目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺はまた投げ飛ばされた。
フクロダさんの魔法のせいか俺の周りは竜巻に包まれている。
「耀助さん!」
ミサイルのようなスピードでハーディスに向かっている俺の隣で、フクロダさんが同じように竜巻に包まれていた。
「このままハーディスに突っ込みます!」
「だとは思いましたけど、前もって言ってください!」
「すみません! ですがハーディスを倒すには今しかありません! 行きましょう! 朝のヒーローのように!」
「ヒーロー……なるほど!」
フクロダさんの言ってることがわかった俺は、クルっと半回転をし、ハーディスに足を向けた。
フクロダさんも同じように足を向けた。
そして動かないでいるハーディスに向かってーー。
「「ダブルサイクロンキーーーーック!」」
俺達は二人同時に、まるで朝のヒーロー番組のように蹴りを入れた。
「ぐっふ……!」
俺は顔、フクロダさんは胸に蹴りが当たった。
フクロダさんが起こした竜巻がドリルのようになり、衣服が削り、蹴った部分のハーディスの皮膚が螺旋状に食い込んだ。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
気合いをこめた俺達の蹴りを受けたハーディスは、駒のように回転をしながら下に一直線に落ちていった。
そして竜巻は解かれて、俺はフクロダさんの背中に乗った。
「やったんですか?」
「わかりません……」
***
フクロダさんに乗って、ゆっくり下に降りた俺達は、ハーディスが落ちたとされる場所に着いた。
ここは都会側と村側をつなぐ橋近くの川だ。
フクロダさんは辺りを見渡しながら、川に沿って飛んでいるとーー。
「いました!」
フクロダさんが指差したのは、ある河川敷。
そこに地面がクレーターのように大きなくぼみができていて、その中心にハーディスが倒れていた。
フクロダさんはくぼみの近くで降り、近づいても、フクロダさんが触っても、ハーディスは起きなかった。完全に気を失ったようだ。
「勝ったん……ですか?」
「はい……我々の勝利です! 町は救われたんです!」
「「いぇい!」」
俺とフクロダさんはハイタッチをして、喜びを表した。
俺は緊張が一気にとけて、その場で倒れた。
勝った……俺達は勝ったんだ!
皆死んでない……ちゃんと生きてる……。
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