大空の戦い
上空でハーディスと戦う俺とフクロダさん。
この丸々市を守るため、俺もフクロダさんと戦う! …………と、意気込んで見たものの……。
「火よ降り注げ!『ファイアレイン』」
「く……! ふん!」
「ぬ……こんなにたくさん!?」
フクロダさんが火の雨を降らし、それをハーディスが必死に避けている。
隙を狙って、今度はハーディスがたくさんの風の刃をフクロダさんに向けて放ったが、フクロダさんは素早い動きで避けている。
やはり鳥だから空中ではフクロダさんの方が速い。
俺はというと……。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
振り落とされないようにフクロダさんの腰を必死につかんでいる。
魔力を与える「マジックギブ」で力が抜けるはずなのに、耐性がついたのか、死にたくないがための本能なのか、力が入っている。
「落ぉぉぉぉぉちぃぃぃぃぃるぅぅぅぅぅ!!」
もう無理! 戦うの無理!
だってこんな空中で、ジェットコースターもびっくりの速さで、安全ベルトなしで飛び回ってますから!
離したら必ず死ぬ! まさに必死!
「どうしたどうしたノーマル! 強くはなったが、動きが鈍いぞ!」
ハーディスこの野郎! こっちは俺というハンデがあるっつうのに! 手加減なしか!
ていうかアーネと違って本気度がすごいんですけど!
俺はハーディスの攻撃を避けているフクロダさんに話しかけた。
「フクロダさん! やっぱ俺、降りた方がいいっすかね! 正直怖いっす!」
「大丈夫です! 必ず勝機があるはずです! あとはあなたの町への愛と勇気だけです!」
そんなパンでできたヒーローアニメの歌みたいなこと言われても!
「大体なんでハーディスは呪文を唱えずに魔法を出せるんですか!?」
「ハーディスは存在がごく稀の『無詠唱』の使い手です。どんな魔法でも感覚で発動出来ます」
「何それずっこ! チートじゃんチート! じゃあ何かそれに弱点とかないんすか!?」
「強いて言えば、呪文で唱えるより発動までに時間がかかりますが、ハーディスは戦いに慣れているため、状況を先読みして魔法を発動させてるので無駄ですね」
「さらにずっこ! だったら何!? 先読みしないように考える隙を与えないか、なんか予想外なことをすればいいの!」
「考える隙をって……ハーディスは忌み子のことになること以外は冷静沈着です。それを……ん? ……いや、もしかして……」
お、フクロダさんが何か思い付いたようだ。
「耀助さん、予想外なことだったら可能かもしれません」
「まじっすか!?」
「お力お貸しできますか?」
「お、俺にでもできるこのなら」
「では……」
「ん?」
フクロダさんが腰にしがみついた俺のシャツの後ろの首根っこをつかんだ。
そして、ハーディスの魔法を避け続けたフクロダさんが一瞬だけ動きを止め、そして俺を持ちながら大きく振りかぶりーー。
「えっと……フクロダさん?」
「お願いします!」
「いやちょっと待ーー」
斜め上に向かって思いっきり投げた。
「二回目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
俺は再び、空を大砲のように勢いよく、天高く飛んでいく。
何!? 何で!? WHY!?
何で俺を投げ飛ばすの!? ハーディスに予想外なことって言ってたけど、こっちにとっても予想外過ぎるわ!
フクロダさんはハーディスの攻撃が当たり、煙で見えなり、投げ飛ばされた俺は被害を免れた。
俺は二人の上を飛び、ハーディスは気づいていない……んで、俺はどうすんの?
そして徐々に高度が落ち、このままではハーディスの真上に落ちてしまう。
「ん?」
「あ……」
ハーディスが俺に気づき、睨み付けた。
すごいな、そこからだと俺の姿はまだ小さいのに……。
「忌み子が……」
「ん?」
「忌み子が俺に近づくなぁぁぁ!」
「嘘ぉ!?」
ハーディスが右手に火の玉を出し、どんどん大きくし始めた。
ちょっと待って! こっちハーディスに向かってまっすぐ向かってる! そしてフクロダさんがいないから、方向転換もできない! あんなの当たったらひとたまりもない! つまり死!
この人、黒髪嫌いらしいけど、近づくだけでこれなの!?
「死ね!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「…………!」
ハーディスがいきなり別の方を向いた。
何だ? と思い、俺もハーディスの向いた方向を見るとーー。
バサバサバサバサバサバサバサバサ!
そこには若干焦げたフクロダさんが羽をバサバサと羽ばたかせながら、風の玉を大きくした。
あれは見たことがある。アーネと戦った時に、羽ばたかせて起こした風を力に変えて、大きくするやつだ。
そして風の玉は自分の体より大きくするとーー
。
「食らえ!『ビックウィンドボール』」
フクロダさんはその大きな玉はハーディスに向かってまっすぐ、勢いよく放たれた。
「ぐっ……!」
ハーディスはとっさに空気の壁を作ったが、フクロダさんの豪速球と、とっさに作った壁が脆かったため、すぐに壊れてハーディスに直撃した。
風の玉をもろに受けたハーディスは後ろに吹き飛んだ。
「耀助さん!」
そして、フクロダさんが魔法を繰り出した直後に、すごい速さで俺に向かい、お姫様だっこをされた。
「はぁ、死ぬかと思った……」
「耀助さんご無事で何よりです」
「ご無事じゃないですよ! いきなり投げるわ! 狙われるわで、死を覚悟したんですから!」
「すみません、黒髪嫌いのハーディスを動揺させるにはこれしか思い付かなくて……」
まぁ、たしかにそれでダメージを負わせたから……まぁいいのか?
「……! 危ない!」
フクロダさんがいきなり声を出したと同時に、上昇した。
そして、下からギリギリの所で火の玉が通りすぎた。
「ハハハ、ハーハッハッハッハ! 今のは効いたぞノーマル!」
服がボロボロになった状態でハーディスが笑っている。
傷はあるようだが、まだまだ戦える様子。
というかハーディス、テンション高くなってません?
「久々に思いっきり戦える!」
うわー、笑顔が怖いよ……。
「ねぇフクロダさん、ハーディスってそんなに力をもて余すくらい強いんすか?」
「複数のドラゴンを一人で余裕で倒すという噂があります。元々全力で戦った様子はなかったですから……」
マジすか……こっちは必死だというのに「俺はまだ本気を出していない」状態ですか……。
「ふん!」
ハーディスが体に力を入れ始めた。
「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
そしてボロボロになった服から見える、おっさんとは思えないくらいの筋肉がより盛り上がり、髪の毛が逆立った。
何!? あの金髪じゃないスーパー何たら人は!?
「なんすかあれ!?」
「あれは筋力上昇魔法の最上級といわれている『マッスルアップ』です。おそらくパンチ一発でドラゴンの鱗越しでも骨を粉々に砕けます」
「マジすか……」
ドラゴンの鱗がどうなのかはわからないが、これからが本気な上に、更に力を出すなんて……。
さすがに俺もフクロダさんも息を飲んだ。
「風よ我を守れ! 『ウインドガード』『ウインドガード』『ウインドガード』ーー」
フクロダさんが風のバリアを何層も張っている。
そんなにすごいのか……。
「さぁ、死ぬんじゃねぇぞ!」
ハーディスがすごい勢いで、こっちに向かって来た。
ゴーっと風を切る音が聞こえて、まるでジェット機だ。
「うぉらぁ!」
「ぐっ……!」
ハーディスがその勢いに乗ったまま、ウインドガードを殴った。
何層にも重なったウインドガードを一枚、また一枚と割っていく。
そしてあと一枚、フクロダさんが片手をかざしながら、踏ん張ってウインドガードを固くしている。
だがーー。
バリン!
「しまっ……」
最後のウインドガードにヒビが入ったと同時にガラスのように割れた。
そしてだっこされた俺の目の前に、ハーディスの拳が見えた。
人は死にそうになるなどの極限状態になると、使われない脳細胞が活性し、周りがゆっくりに見えると言われるが、今の俺は目の前にあるハーディスの拳がゆっくりに感じる。
俺…………死んだかも……。
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