その頃の耀助

 それは俺がまだ地上で苦しんでいた時のことだ……。


「ニコちゃんいた!?」


「はぁはぁ……いえ……」


 歩美とニコは諦めきれず、苦しんでいる俺を隅に寝かせて、フクロダさんを探していた。

 学校に戻り、自転車を使って走り回ったようだ。

 そして十何分くらい経ったか、全力疾走で自転車を走らせても、フクロダさんは見つからなかったらしい……。


「耀助、腕輪は!?」


 歩美達が俺の元に来たが、歩美の思いは届かず、腕輪は点滅したままだ。


「だめだな……」


「そんな……耀助……死なないでよ……」


「歩美……」


 歩美が弱気になりながらポロポロと涙を流した。

 後ろにいるニコも泣いて、涙をぬぐっている。

 こんな顔をした歩美は初めてみたかもしれない。


「すまん……こんな別れかたで……」


「別れるなんて言わないでよバカ!」


 俺は歩美の頭を撫でるが、歩美が俺の手を払った。


「弱気にならないでよ……いつもアタシの技を食らっても石にぶつかっても、鉄パイプで頭を叩かれても平気だったんだから、こんなので死なないでよ……」


 歩美よ、いくら丈夫でも、さすがにこれはどうにもなんない……くそ、フクロダさん、こっちはこんなことになったのに、どこにいんだよちくしょう……。

 父よ……死んだら一人ぼっちにしてごめん。


「ねぇ、耀助……」


「ん?」


 泣き顔の歩美がこっちに顔を寄せた。


「もし死ぬかもしれないんだったら……アタシ、悔いを残したくないの」


 歩美の顔がどんどん近づく、それはもうキスするかのような近さで、吐息が当たっている。

 顔を赤くした涙目の歩美の姿に腕輪による心臓の痛みがあるというのに、少しドキッとした。


「アタシね…………耀助のことがーー」


「よーーーーすーーーーけーーーー!!」


「「「!?」」」


 歩美の言葉を遮ったのは、聞いたことある叫び声とエンジン音だ。


「歩美さん! 何か来ますよ!」


「あれ、うちの軽トラ!」


 猛スピードで近づいて来たのは、見覚えのある白い軽トラ、歩美の家の軽トラだ。

 そしてブレーキをかけて、俺達の前に止まった。


「耀助!」


「耀助、生きてるか!」


「おじさん!? と……金山?」


「父……?」


 窓から顔を出したのは父と金山だ。


「どうしておじさんが? あとなんで金山まで?」


「梨花……先生達を田舎の方まで逃がしたら、そこに光太さんがいたんだよ。それで耀助さんを探してるって言ってたからここに案内したんだ」


「耀助生きてるか! 死んでねぇよな! 立て! 立ち上がるんだ耀助ぇ!」


 父が降りると同時に寝ていた俺の体を、グラグラと前後に大きく揺らした。

 父よやめてくれ、脳が、脳が揺れる……。


「おじさん落ち着いて! 耀助本当に死ぬから!」


「おお、そうか! アーネちゃんお願い!」


「「え?」」


 軽トラの荷台から顔を出したのは、アーネだった。

 それだけじゃない。荷台には人間バージョンのスネーリアとウルルンがいた。


「アーネ! 一体どこ行ってたの!?」


「エルサレム倒して力尽きてたのよ。それで気がついたらこいつと女っぽい気持ち悪い奴がいたのよ」


「道端で蛇と狼の近くで倒れてたから、こっそり運んだ! そしてアーネちゃん。年上にこいつはよくないよ!」


 女っぽいって……サブリナさんのことか。


「そんでスネーリア達を人化させて、回復させてここまで来たんだけど、まだ本調子じゃないわ。黒髪、ポーションあったらちょうだい!」


「は、はい……」


 アーネは荷台から降り、ニコはポーションを渡した。

 飲む途中で「臭っ!」って言ったから葉ニンニクのなんだろう。

 アーネは準備を済ませ、歩美は俺のとこまで引っ張った。


「早速だけどアーネ、耀助のこの契約の腕輪ってやつ? これ、なんとかなんない?」


「無理ね?」


 即答だった……。


「あんた……死にたいの?」


 歩美が殺気を放ちながら、手をポキポキと音を鳴らした。


「ちょちょちょ! さすがにこればかりは契約したノーマルディアを見つけないとどうにもなんないの!」


「嘘……じゃあ、耀助は死ぬの?」


 歩美が落胆した……。

 今この場に重苦しい空気が漂っている。

 やっぱり、もう俺は助からないのか……。


「あのー……フクロダさんかどうかはわからなかったけど、人が浮いてたのは見たよ」


「え!?」


 そんな重い空気の中、口を開いたのは金山だった。


「どこ!? どこにいたの!?」


「えっと、光太さんに会ってすぐ、人となんかの塊みたいなのが、僕の頭上を……」


「つまり田舎側の方、アーネ、なんとか居場所をーー」


「大まかな方向さえわかれば……あんた達、こっから話しかけないでよ……感知よ上がれ『マジックセンス』」


 アーネは目をつぶって呪文を唱えると、淡く光り出した。


「ニコちゃん、あれは?」


「あれは『マジックセンス』といって、魔力の感知をより遠く、どんな微かな物でも感知が出来る魔法です。残念ながら私は使えませんが……」


 つまり今にうってつけの魔法ってことか。


「う~…………」


 なんか、だんだん心臓がより苦しく感じる……。

 腕輪の点滅が早まってるし、もしかして、死が近づいてる?

 そして少し待って、約数分……。


「…………見つけたわ! 二人分の魔力! やっぱり空にいたわ」


「本当!」


 どうやらフクロダさんを見つけたようだ。しかしーー。


「空って、どうやって上がるのよ!」


「落ち着きなさい! 契約の腕輪の点滅が早まってる! だったら早くノーマルディアの所に送らなくちゃいけないわ」


「じゃあどうしたら……」


「いい方法があるわ」



 ***



「えっと…………何これ?」


 今の俺は軽トラの上にいて、なぜかアーネが作った小型の竜巻に包まれている状態だ……どういう状態だよ!


「アーネ、これどういうこと……」


「あんたをこの竜巻で固めて、足にある竜巻を含んだ風の爆弾を作って、その爆発によって遠くに早く飛ばすわ。私みたいな天才なら、この程度の新技の開発、数秒で完成するんだから」


「えっ、いや……これ死ぬんじゃね?」


「あんたの丈夫さを信用してるわ」


 アーネ待てよおい! これ最大風速どんくらい!? というか、これ仮に当たったら、いくら丈夫な俺でも死ぬから!


「耀助、念のためにこれを」


「耀助さん、これ、ノーマル様の分とポーションとか色々持っておいてください」


 金山がその辺にあったバイクのヘルメットを被らされ、ニコに薬が入ったたくさんの小瓶を渡らせた。

 ああこれなら安心……なわけない!


「風速右に二メートル、誤差修正確認完了。そんじゃ行くわよ」


 まさかの有無を言わさず!?

 俺の足元には風の玉が現れて、どんどん大きくなった。


「ちょっと待ーー」


「このための新技! 風よ飛ばせ!『サイクロンバズーカ』」


 ドーーーーーン!


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 足の風の玉が爆発し、俺は大砲のように空高く飛んだ。

 すごい風速に顔がひきつり、前が見えない。

 そしていつの間にか心臓の苦しみなんか忘れていた。

 だが薄く見えた俺の目に、何かが映った。

 あれは……フクロダさんだ。

 岩に固まってまん丸状態のフクロダさんが見えた……っていうか太陽みたいにデカい火の玉があるんですけど!? 俺、あれに突っ込むの!?


「フクロダさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 俺は叫んだ。

 そして…………軌道がずれて、もう一人の股間に当たった。



 ***



 こうして現在に至る。


「ほう! ほう!」


 謎の男が痛そうにほうほう言いながら股間を押さえていた。

 そして俺はというと、頭の痛みに耐え、股間激突の後、岩にくるまっているフクロダさんにしがみついた。


「無事ですかフクロダさん!?」


「耀助さん……あなたこそ無事ですか!」


「意外に平気でした! それよりこれニコからもらったポーションです」


「耀助さんの頑丈さには、驚かれってニンニク臭い!」


 あ、葉ニンニクのやつか……。

 フクロダさんがポーションを飲み干すと、顔の傷が治っていく。


「よし、力よ上がれ! 『パワーアップ』」


 回復したフクロダさんが力をいれると、体の岩にヒビが入りーー。


「ホォォーーー!」


 岩が割れ、下に落ちた。

 そして岩と一緒に落ちそうになった俺をフクロダさんは拾った。

 今気づけば、腕輪の点滅も、心臓の痛みもなくなった。


「耀助さん、あなたは無茶が過ぎます」


「いや、好きで無茶してるわけじゃないです

 よ。それに自分の命と仲間の命があるんです。賭けるのはあたり前です」


「このガキがぁぁぁぁぁぁ!」


 おお、謎のおっさんが股間を押さえて怒り狂ってる。

 今思えばヘルメットとはいえ、俺の頭……おっさんの股間が当たったんだ……なんか嫌だ。


「お前もろともぶっ殺してやる!」


「耀助さん、彼、ハーディスはこの町を滅ぼそうとする私の元上司であり、私が知る中でかなりの実力者です。もしかしたら負けるかもしれません」


「うん……」


「ここから全速力で逃げて、あなたを下に送ることも可能です。どうしますか?」


「愚問っすね……フクロダさんが死んだら、この町なくなるんですよね。だったら足手まといになるだろうけど、俺も一緒に戦いますよ。俺達の居場所を守るために」


「そうですか……では、お願いします」


「よし、我が力よ! 我が使い魔に分け与えたまえ!『マジック・ギブ』」


 俺は呪文を唱えると、俺の契約の腕輪が光り、腕輪の光がフクロダさんの腕輪に吸い込まれた。

 俺の力がフクロダさんの魔力となり、俺はその力を吸われ、力が抜けた。

 そしてフクロダさんは俺を背中に背負った。


「ふん、力を上げたようだが、人がいては力が出まい」


「それは違います。守るべき人がいるから、力が出るんです! 覚悟してください!」


 こうしてハーディスとフクロダさん(プラス俺)の空中の戦いが始まろうとしている。







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