学校戦線
俺達は目の前の状況に困っている……。
グラウンドで倒れていた人達が再び立ち上がり、学校に向かっている。
岩下が倒したはずなのにダメージを受けた様子もない。
「ど、どうすんだ……」
「お、おちおち落ち着きましょう! まずは深呼吸です。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
「先生が落ち着いて! そしてそれラマーズ法!」
先生テンパってるよ……。
とりあえず状況の整理だ。
こっちは負傷の岩下を除けば歩美ぐらいしか戦力になるのがいない。対するあっちはさっきまで倒れていたたくさんの人…………ん? さっきまで倒れてた人が起きた……ってことは……。
「歩美! ドア閉めろ!」
「え?」
「うぉああぁぁぁぁぁ~~」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドアの近くにいた歩美が、突然ゾンビもどきの人に後ろから抱きしめられて大声を上げた。
グラウンドの人が起きてるなら、学校で寝てた人達も起きているはずだったのに……くそ! もっと早く気がついていれば!
しかもあの襲ってる人、校長先生だし!
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐっ!」
歩美は叫びながら、思いっきり頭を振り上げて校長に頭突きを食らわせた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドゴン!
そして怯んで手を離した校長に、片足を軸に勢いよく回転し、強烈な回し蹴りを校長の腹に叩き込み、廊下まで吹っ飛んだ。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ガラガラガラピシャン! ガン!
校長が保健室から出たことを確認し、歩美は
保健室のドアを掃除用具のほうきを引っ掻けて開かないようにした。
「ああ……怖かった」
「「うそこけ!」」
あざとくもじもじとした歩美に、俺と金山がツッコミを入れた。
今更きゃあきゃあと女の子ぶっても遅いわ!
あとあの衝撃で校長先生大丈夫!?
「でもナイス! その間にどうするか考えよう」
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……」
「先生はいつまでラマーズしてんの!」
「すみません……」
もう頼むよ~唯一の大人……。
「とりあえず改めて状況を整理しよう。周りは操られた人に囲まれている。対してこっちには何かあるんだ?」
「一応、剣道部から使われてない竹刀と防具、アメフト部の防具、ラクロス部のスティック、掃除に使うT字のほうきーー」
金山が岩下が寝ている隣のベッドから調達したたくさんの武器を見せた。
「おお、意外にあるな」
「あと野球部からバットとキャッチャーのプロテクター、理科室から硫酸、家庭科室から包丁」
「危ないのはパスで!」
後半危ないのがあるよ!
「歩美とニコさんは何か薬とかありますか?」
「えっと……薬なら家から持ってきたのが、たくさんあります」
ニコが持ってきたバッグからたくさんの液体が入った小瓶を取り出した。
「ほとんどがこちらの世界で作った物で、人の動きを止めるには最適だと思います」
「「「おお!」」」
「シウラさんって……一体何者?」
唯一状況を知らない先生が疑問に思ってはいるが、俺達は聞かなかったことにした。
「実はこの世界でもポーションを作ることに成功したんです」
「マジで! 一体どうやって?」
「葉ニンニクというのを使いました」
「葉ニンニク!?」
まさかの葉ニンニク!?。
なんか匂いそうなポーションだな……。
「ただ、あの大人数を相手にすると注射器が足りるかどうか……」
「ならアタシが回収するわよ」
「私も手伝います」
歩美と浅羽さんが手を挙げ、ニコと協力するようだ。
「ありがとうございます歩美さん、浅羽さん」
「歩美は何を持ってきたんだ?」
「グローブとヘッドギア!」
歩美はボクシング用グローブを持ってきた。
こいつの戦闘力ならそれで充分だろ。
「耀助は何持ってきたの?」
「俺は一応父にもらったエアガンを……」
俺は昔、誕生日に父にもらった本格的なハンドガンタイプのエアガンと大量のBB弾を持ってきたが、怯ませるぐらいしか出来ないだろうな……。
「とりあえずこれで時間を稼ぐか……あとはいつまで続くかだよな……」
チラッと外を見てみると、外は人でいっぱいだ。
知能が低くなってるのか、ドアを叩き破らないのは幸いだ。
「それじゃあ、女性陣は防具を着けて。もしドアが限界になったら、各々武器を持って戦うしかないね。ユイは僕がなんとかするからあとはなんとかして安全な田舎側に逃げ切るしかないね」
金山の言葉に俺達は首を縦に振った。
「勝手に人を足手まとい扱いすんじゃねぇよ……」
寝ていた岩下が起き上がった。
「ユイ! 大丈夫なの?」
「ああ、一日寝たら動けるくらいにはな……」
「あの、ポーションをどうぞ」
「あ、ああ、悪いなシウラ……ってニンニク臭っ!」
ああ……やっぱりそうか。
岩下が恐る恐るそれを飲むと、みるみる顔の傷が治っていく。
体を動かしている限り、どうやら体も治ってるみたいだ。
「これ、すげぇな……」
「シウラさんって本当に何者……?」
先生、悪いけどこの話はスルーします……。
「それじゃあ皆、頼むよ」
『おーーー!』
俺達は手を挙げて、気合いを入れ、俺達はいそいで準備を始めた。
それから約数分後ーー。
『うぉぉぉぉぉああぁぁぁぁ~~』
ガシャァン!
保健室のドアが、廊下の人の密度に耐えきれなくなったのか、とうとう倒れてしまった。
そして人がどんどん保健室に入ってきた。
「うわ、入ってきた!」
「よし! 兵藤こっち持て!」
「おっしゃあ!」
岩下と歩美が保健室にある大きいテーブルを持った。
「「せーーーーーっの!」」
ガシャン!
そして外に向かって投げ飛ばした。
外に通じるドアのガラスを割り、近くにいた人が吹っ飛んだ。
さすが我が脳筋武闘派コンビ……超強引。
「走れぇぇぇぇぇ!!」
俺の声に全員は外に向かって走った。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
歩美は自分が持ってきたグローブとヘッドギアを身につけ、向かってくる奴らを殴りまくった。
岩下も山のようになってた二高の連中を中心に保健室にあったパイプイスで容赦なく殴りまくった。
二人とも~、相手はまだ生きてるんだよ~。
「はっ!」
ニコは持ち前の投擲スキルで、相手の体に注射器が見事に刺さった。
その隙にアメフトの防具をつけた浅羽さんは、ヨタヨタとおぼつかない足取りで、刺さった注射器を回収した。
そのまま倒れたのもいれば、松の薬をやったのか、刺さった人の背中から足が生えて歩き出した。
そして背中から足が生えた大量の人間が、俺達に向かってくるゾンビもどきの進行の邪魔をして丁度よかった。
「やぁ!」
「えい! えい!」
その妨害により動きが遅くなった所を、ラクロスのスティックを持った金山と、剣道の防具を着けて竹刀を持った船橋先生が叩いている。
そして俺はエアガンで後ろから追って来る人達を撃って動きを止める。
歩美と岩下が道を開き、ニコと浅羽さんが二人の援護兼相手の動きの妨害、金山と先生が残った人達の追い討ち、そして俺が後ろを食い止める。
行き当たりばったりの作戦にしては結構うまくいってるな。
「行ける、行けるぞ! このまま皆で生き残るぞ!」
『おーーー!』
俺の声に皆が気合いが入った声をあげた。
俺達は安住の地を求め、学校を出るのだった。
***
「…………まぁ無理だわな!」
あれから約数時間後、俺達はゾンビもどき達に捕まった……。
正確には大人数にのしかかられて身動きとれない状態だ。
そりゃそうだろう!
だってほぼ市民全員に対して、こっちはたった七人だもの!
相手は躊躇なく向かってくるし、皆の体力は限界になるし、大量あったBB弾はなくなるし、俺が捕まって「俺に構わず先に行け!」って言ったら金山は「わかった!」って言って皆行っちゃうし! くそぉ皆の薄情者! 「皆で生き残るぞ」って言ったのに!
「ぐ~、は~な~せ~」
「お、重いです……」
捕まった俺を助けようとした歩美とニコも俺と同じようにのしかかられて捕まった。
馬鹿力の歩美にいたっては、もうなんか人が山のようになってる……。
「ああもうどうしよう!」
フクロダさんもアーネもいないし、捕まって動けないし、皆いなくなったし、どうすればいいんだ……。
「耀助さん、なんかおかしくありませんか?」
ニコさんこんな状況なのに冷静だなおい!
「おかしいって何が?」
「昨日の操られた人達は暴れまわっていたはずなのに、今日は武器も持たずにただ捕まえるのが目的みたいです。それに他にも操られていない人がいましたし、金山さんも逃げたのに見向きもせずに耀助さんだけに向かってきました」
「まぁ、たしかにそうですね……」
全然気づかなかった……そんな分析してたんだ。
たしかに金山達が逃げたけど、誰も追って来なかったな。
「まるで……耀助さんの動きを止めるのが目的みたいです」
「俺が……目的?」
なんで俺の動きを止めるのが目的? わけがわからん。
「あ」
ニコが何かを感じたようだ。
「どうしたんですか?」
「今遠くから突然すごい魔力を感じました。一人……いえ、一緒に微弱なのがもう一人……」
魔力ってことはフクロダさんかアーネとか?
いや、ハーディスかエルサレムかも……。
「今空を飛んで、どんどん遠ざかってます」
「一体誰が飛んでるんだ?」
「ねぇ、耀助、ニコちゃん!」
人の山で見えないが、歩美が何か言っている。
「どうした」
「動かなくなったんだけど、この人達」
「は? …………あ、本当だ」
俺達は人を強引にどかして起き上がると、人々がまた眠ったように動かなくなっていた。
「どういうことなんだ?」
「わかりません。多分ですが、もう人を操る意味がなくなったのかと……」
つまり目的が達成したってこと?
でも俺達を押さえるのが目的ってどういうことなんだ?
ドクン!
「ぐっ!?」
いきなり心臓から大きな鼓動が聞こえると同時に激しい痛みが走った。
ドクン! ドクン! ドクン!
その心臓から来る激痛は繰り返し現れ、痛みに耐えかねた俺はその場で倒れた。
「「耀助(さん)!」」
歩美とニコが俺の元に駆け寄った。
「耀助! どうしたのいきなり!」
「あ、歩美さん! 耀助さんの手!」
手……?
俺は痛む胸元を押さえながら、ニコが言った手を見ると、フクロダさんと契約した時に現れた腕輪が点滅して光っていた。
現在の時刻、午後十二時三十分。
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