フクロダさん達捜索隊
ハーディスの言葉に私の思考が止まった。
「私が死ぬって……」
「お前……自分がした腕輪を忘れてるのか?」
ハーディスが言っている腕輪とは、「グランドバインド」で見えないが、おそらく私が身につけている腕輪だ……ろう……。
「…………あ!」
「それ、『契約の腕輪』だろ? それは契約者と長い間離れるとお前も契約者も死ぬ。自分でやったのに忘れてたのか?」
忘れてた……。
これは家に住みたいがために、私が耀助さんの使い魔として契約した腕輪……。
契約者と一キロ以上離れて一日過ぎると死ぬことになってる。
まさかこの世界で戦うなんて思ってもみなかったから安心しきって今の今まで忘れていた。
「お前が俺に会ったのはこの世界でいう『1300』という時間。今は……『605』くらいか……」
ハーディスが遠くから見てるのは、駅のすぐそばにある大きなビルについてある大きなデジタル時計。
おそらくハーディス言っている「1300」とは「13:00」、つまり午後一時。今は「605」、つまり六時五分。
つまり残りはあと七時間ほど……このままでは私はともかく耀助さんまで……。
どうする……ケガを負った上に「グランドバインド」で身動きがとれない状態。
たとえ全快したとしても、ハーディスは先ほど戦った「ゴーレム」より強いはず。
アーネもエルサレムとの戦いに行ってから来ないし、助けが来る見込みもない。
今はなす術がない……。
「さて、この世界は黒髪ばかりだが、酒はうまい……酒ばっかだし、どっかからつまみでもくすねてくるか」
ほろ酔いのハーディスは、余裕をもった表情でビルの非常階段から、降りていった。
「……耀助さん」
今私、そして耀助さんも生命の危機です……。
***
「さて、行くか!」
「うん!」
「はい」
朝……俺、歩美、ニコはおじさん達が寝てる間に、フクロダさん達を探すため、都会の方に向かうことにした。
起きてると、絶対に止められるからね……。
それに昨日金山にメールをしたが、返信が来てないことも心配になり、探すのと一緒に金山達の様子を見に行くことにした。
準備を済ませ、俺達は玄関前にいる。
「いいか、今回はフクロダさんとアーネ達、それから父探しをメイン、その前に金山達と合流して安否の確認でいい?」
「「うん」」
「フクロダさん達ら魔法使いについてはニコさんが魔力を探知してくれるからいいとして……問題は父だよな……」
父は一体どこにいるんだ?
ずっと外国にいたから、どこに行くのかなんてわかんないし……。
「耀助、とりあえずおじさんのやってる店に行ってみる?」
「店? …………あ、そうか、父は店やってたんだ」
「あんたどんだけおじさんに興味ないのよ……」
「ハハハ……とりあえず、まずはそこに行こう」
俺達は行く場所を決め、自転車を走らせるのだった。
約30分かけて走り続け、俺達は都会側に着いた。
都会側は静まりかえり、建物の窓ガラスが割られ、中の室内も荒されている。思った以上に被害がすごい……。
俺はスマホで父の店の「波浪屋」と検索し、地図の通りに進んだ。
やっぱり店の名前からして一件だけヒットしたため、わかりやすかった。
俺達は案内通り、駅の西側へと向かった。
自転車を持って歩いていると、人々がまるで魂を抜かれたかのように、そこら辺で雑魚寝をしていた。
目が覚めたら面倒と思い、かわいそうと思いながらも、俺達はそのまま放置することにした。
「……ここか」
地図が示したのはここのようだ。
普段は人が多い大きな通りに小さなアメリカ国旗が掲げてあって、全体的に洋風な建物に上には書道で書いたかのように「アメリカ家庭料理・波浪屋」と大胆に書かれてある。
父よ……アメリカか日本かどっちか統一しろよ……。
中を覗きこむと、誰もいなかった。
「……裏はどうだろ?」
俺達は店の裏側に回った。
裏にある従業員入口のドアノブにガチャガチャと回しても、鍵がかかって開かなかった。
父の手がかりになる唯一の当てが外れた。
「……やっぱいないか」
「耀助、きっとおじさんもどっかに無事に生きてるわよ」
「そうですよ。だから落ち込まないでください」
歩美とニコが慰めた。
「だな、じゃあ次は金山の家にでもーー」
「こ~~~う~~~た~~!」
「「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
ビビったぁ! 急に店のドアから派手なおしゃれ衣装を来たおっさん、つまりオカマが現れた!
「あら、光太じゃないわね。誰よあなた達?」
「え、いや……鯵坂 光太の息子です」
「あら、もしかして耀助君! あらいやだ、こんなに大きくなって! よく見たら光太に少し似てるわね!」
「おおぅ……」
派手衣装のおっさんがオネェ口調で、まるで親戚のおばさんのように俺の頬を触りながら話しかけてきた。
「だ、誰ですか?」
「あら、光太から聞いてない? 私はサブリナ。光太の古くからの知り合いで、フクロダちゃんが働いてるフクロウカフェの店長よ」
「「「えぇ!」」」
マジか……この人がフクロウカフェの……コスプレ衣装をたくさん持ってる変わった人とは思ったけど、本当に変わった人だった。
「えっと、そのサブリナさんはどうしてここに?」
「この町でいきなり人がゾンビみたいに暴れてるでしょ~、それでフクロウちゃん達を守るために、自前のボクシングでボコボコにしたんだけど~」
意外にたくましいオカマだなおい……。
「そしたら、光太がエアガン抱えて現れて、ビックリしたわ」
エアガンって……もしかして父はコレクションのエアガンで戦ってたの? それで街中で戦うってゾンビ映画が出来上がってるよ……。
「それで少なくともうちよりは安全って行って、フクロウちゃん達を連れてここに匿ってたのよ」
「なるほど……」
あ、本当だ。サブリナさんの後ろには、かごに入ったフクロウ達がいるという衛生上飲食店にあるまじき光景があった。
「父は帰ってないんですか?」
「深夜にはいたけど、朝起きたらいなかったわね」
つまり父の行方は未だわからずか……。
帰って来る可能性があるならここで待った方がいいかも。
「あの、俺達もここで待ってもーー」
「あ、耀助!」
いきなり歩美が呼び掛けて来た。
「どうした?」
「金山からメールが来てた」
「マジで! ちょっとすみません」
俺は話の途中、サブリナさんに謝って、ニコと一緒に歩美に近づいた。
「えっと……『今に学校いる』だって」
「学校?」
昨日学校で別れたけど、もしかしてあれから動いてないのか?
「とにかく行ってみますか?」
「そうだな……すみませんサブリナさん」
「行ってやりなさい。友達なんでしょ。光太が来たら伝えてあげるから」
「はい」
俺はサブリナさんに見送られながら、学校に向かった。
それから5分後、丸々一高にやって来た俺達。
「おお……」
学校のグラウンドにはどういうわけか、二高の奴らが山のようになっていた。
こんだけの人に襲われたら帰れないわな。
「金山達は『保健室にいる』だってさ」
俺達は自転車置き場に置き、保健室に移動した。
下駄箱の方から入ると、学校の中も先生や一般人が倒れていた。
一階の廊下を歩くと、保健室が見えて来た。
開けようとしたが、鍵がかかっていた。
「金山! 俺だ! 歩美とニコさんも一緒だ!」
俺は保健室のドアをガンガンと叩いた。
すると、ドアが開いた。
「耀助!」
ドアを開けたのは金山だった。
「無事だったのか金山!」
「うん、だけど……」
保健室に入ると、金山の他に浅羽さん、船橋先生、そしてーー。
「岩下!」
「ぐっ……お前ら」
保健室のベッドで顔に傷がついた岩下が寝ていた。
見た限り、体中が痛そうだ。
「金山、岩下は一体……」
「昨日耀助達と別れた後、外を見てわかるように二高の連中や町の人々が現れてね、それでユイが戦ってくれてたんだ」
「他にも生徒はいたんですが、岩下君が囮になってくれて、帰らせることが出来ました」
金山と先生が状況を話してくれた。
「じゃあ岩下は……その操られた人達の餌食になって……」
「いや、人を倒し終えた後、二階の階段から足を滑らせたんだよ」
「うっかりかよ!」
半分心配して損した!
「でもユイ、一人でよく倒せたよね」
「ん、ああ……あいつらは動きが大振りだから、一回避ければ簡単に反撃出来る」
おーさすが元柔道経験者。
「そうだ金山、フクロダさんかアーネか父見てない?」
「いや、僕達はこっちに必死だったから……もしかしてお父さんも帰って来てないの?」
「ああ、まったくどこに行ったんだか……」
「皆、見てください!」
いきなり窓側にいた浅羽さんが大声を上げた。
「どうしたの浅羽さん? ……って」
俺達は全員窓の外を見た。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~』
それはグラウンドに倒れていた人達が起き上がり、ゾンビのようにゆらゆらと歩いてこっちに来ていた。
「くそ! 魔法使いが起きて、また操ってるのか!」
「あの鯵坂君、魔法使いっていうのは? 今回の騒動のこと何か知ってるんですか?」
「梨花、今は話がややこしくなるから、後にして」
「あ、うん……」
金山が先生を止めた……あれ? 今先生を呼び捨てにしたような……って今はどうでもいい!
再び操られ、襲いに来る人々。俺達7人は一体どうすればいいんだ……。
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