ハーディスの過去

 フクロダさんがどっかに行ったまま、とうとう夜になってしまった。

 俺とニコは一緒に歩美の家にいる。

 夕方までふれあい会館までいて、元村長が家に戻っても大丈夫だろうと言われ、村の皆はそれぞれ家に戻ることにした。

 俺とニコはおじさんに泊まるように言われて、今に至る。


「耀助兄ちゃん。アーネ帰ってこないよ~」


「ウルルンもスネーリアも~」


 パジャマを着た飛鳥と角人がアーネ達が帰ってこないことに気付き、俺に問いかけてきた。


「あー……大丈夫だ。明日になったらちゃんと帰ってくるから。だからもう寝ろ」


「「はーい!」」


 俺は双子の頭を撫でてそう言うと、双子は寝室に行った。

 ……フクロダさんだけじゃなく、アーネ達も父も帰ってこない。

 都会側にいる金山、浅羽さん、岩下も心配だ。


「一体何してんだろうな……」


 行った所で俺には何も出来ないし、足手まといになるのは目に見えてる……。

 俺はただ待つことしか出来ない……。

 今日は心配で眠れそうになさそうだ……。



 ***



「くっ……」


 私はハーディスにやられた。

 あの後怪我を負った私は、ハーディスに首をつかまれて、そのままどこかのビルの屋上に連れられた。

 私はハーディスの地面を変化させて相手の動きを止める「グランドバインド」で体はコンクリートに包まれて動けない。怪我を負っているから力ずくも出来ない。

 気がつけば外はもう暗い……。

 町の暴れた人達は力尽きたように、地べたで寝ている。

 多分朝がくれば起きるだろうが、また人々を襲うだろう。

 ハーディスはどこから持ってきたのか、木の枝を大量に持ってきてたき火をし、リンゴなどの果物をかじり、酒を飲んでいる。


「この世界の酒もうまいもんだな。魔法兵の頃の酒場を思い出すなノーマルディア」


「…………」


 ハーディスが雑談をしようとしてるが、私は無視した。


「なんだつまらん。せっかく思い出話を肴にしようとしたのにな……そういやエルサレムの奴はどうしたんだ?」


「ハーディス……さん。質問よろしいですか?」


「あ?」


 私はハーディスの今まで聞かなかったことを聞くことにした。


「どうして忌み子を……黒髪の人間を嫌うのですか?」


「…………」


 ハーディスは黙った。

 私がまだ魔法兵だった頃、ハーディスと仲がよかった者達は皆、この話題をタブーとしていた。私自信もの思い出したくないかもしれない過去を聞くのも失礼と思い聞かなかった。

 でも今は別。今は私の敵である彼にためらう必要もない。


「あなたがこの町を滅ぼそうとしているのですからそれ相応のことなんですよね?」


「……まぁいいだろ。冥土の土産に教えてやる」


 私はあっさりと答えてくれることに内心少し驚いた。


「俺は忌み子に人生を滅茶苦茶にされたんだ……」


 ハーディスは憎しみを込めた顔をしながら自分の顔を話し始めた。



 ***



 今から約四十年ほど前、ハーディスは王都の隣の村で生まれ育ち、鍛治屋を営む両親と十歳離れた妹と平凡に暮らしていた。

 若い頃のハーディスは魔法の才能に秀でていていて将来は魔法兵になるため、近くの森で動物を魔法で狩る毎日を送っていた。

 そんなハーディスが十五歳になったある日のこと。ハーディスは家族と王都で買い物をした帰り道、森からボロい布を被った集団が現れた。

 その集団は全員黒い髪をしていた。

 ハーディスの両親は身を挺して子供をかばった。

 何度も言うがこの世界では黒髪の人間は古くから悪魔の生まれ変わりと伝えられ、忌み嫌われている。

 だがよく見ると、黒髪の集団の中で抱かれていた子供が赤い顔をして苦しそうにしていた。

 人がいいハーディスの両親は、村に連れて行くことにした。

 黒髪の忌み子説は元々王都を中心に発祥したことであり、そしてハーディスのいる村はその王都から離れた場所から来た人が開拓、そして移住して出来た村であるため、村人はそこまで信じておらず、村人達は受け入れた。

 黒髪の集団は同じ忌み子同士協力しあい生きていくことにしたのだが、どこにも居場所はなく、さ迷っていたらしい。

 ハーディスの両親は村長と話し合い、黒髪の集団は子供が治るまで村にいることとなった。

 しかし、これが最悪の事態になることをあの頃のハーディスは予想にしなかった……。


 黒髪の集団を村の空き家に住まわせて約三日のことだった。

 ハーディスは少し離れた森で魔法の練習がてら狩りをし、。

 ハーディスが川で汚れた衣類を洗っていると、どこからか声が聞こえた。

 それは熱を出して倒れた黒髪の子供だった。

 ハーディスに向かって歩いていると子供は転んだ。

 川で転んでびしょ濡れになった子供をハーディスは向かうと、ハーディスは驚いた。

 子供の濡れた髪の前の部分が黒から金色に変色していたのだ。

 ハーディスが子供の頭を触ると、ハーディスの手が黒ずみ、子供の金色の部分が増えた。

 どうやら子供の髪は炭で黒くしていて、この子供は黒髪の忌み子ではなかった。

 子供の話によると、自分は王都の貴族の息子だったらしく、黒髪の集団に誘拐されたらしい。

 彼らの目的は忌み子呼ばわりした者の復讐であり、簡単に言えば王都を中心に無差別に人を殺すことらしい。

 だから子供を薄着にし、わざと風邪を引かせ、人のよさそうなハーディスの村に侵入したらしい。

 それを聞いて、ハーディスは村に向かって全速力で走った。

 ……だがすでに遅かった。

 ハーディスが急いで向かっていると、村の方から大きな煙が出ていた。

 村に着いた時にはすでに村は火の海だった。

 燃え盛る村の中、ハーディスは生きている村人を探しても死体ばかり……。

 ハーディスが煙に目が痛くなり、村の外に出ると、そこには黒髪の集団とそれに連れ去られる五歳になるハーディスの妹が馬車に乗っていた。

 追いかけようとするも、馬車はすでに走り始め、王都に向かっている。

 ハーディスは最近覚えた飛ぶ魔法「フライ」を発動させ、黒髪の集団を追うが、慣れていない「フライ」で馬車を見失わないのがやっとだった。

 そして着いた所は王都だった。

 門を強引に破り、町を爆走する馬車。

 馬車はまっすぐ向かったのは、処刑場だった。

 馬車はそのまま処刑場の中に入り、壁に激突し、バラバラに壊れてしまった。

 ようやく追い付いたハーディス。馬車から出てきた黒髪の集団はハーディスの妹を強引に連れて、次元の穴の方へと向かった。

 ハーディスは黒髪達に妹を放すように言った……だが……。

 黒髪は「お前も俺達のようにどう頑張っても無駄だということを思い知れ」と、黒髪の男はそう言って、妹を次元の穴へと落とした。

 ハーディスは一気に絶望へと変わった。

 その後、誘拐された子供は保護され、黒髪の集団は王都の衛兵に捕まり、後に処刑されることとなった……だが、ハーディスは村を燃やされ、村の仲間、両親、妹を失った……。

 ハーディスは心の中で誓った……この世に生きる黒髪の忌み子を根絶やしにすると……。



 ***



「ーーそれから俺は魔法兵になるために、死ぬもの狂いで努力した。王都の魔法兵になれば黒髪の忌み子を殺せば手柄になるからな」


 知らなかった……ハーディスはそんな過去があったなんて……だけどーー。


「ですがここが次元の穴の中の世界なら、妹さんが生きてる可能性があるのでは?」


「あるわけねえだろ! もう四十年も経ってるし、周りは忌み子だらけなんだぞ! たとえ生きてたとしても、あいつも俺みたいに忌み子を嫌って、誰にも頼れずに餓死にでもなったんだよ……」


 ハーディスが頭を抱え、悲しそうにしていた。

 たしかに同じような被害にあったなら、そうなったのかもしれない……。


「ようやく叶う……この世界の忌み子共を滅ぼせば、もうあっちの世界に生まれなくなる。俺の長年の夢が叶うんだ……」


「夢?」


「世界の平和だ。俺が小さい頃から魔法兵になる理由であり、俺の夢だ」


 ……ハーディスは決して悪い人ではない。

 彼は世界の平和という夢を追い、日夜悪と戦い、仲間を思っていた人だった。

 だけど、忌み子に殺された過去……いや、黒髪忌み子の言い伝え自体があったから、彼は罪のない黒髪の人間の殺戮をし、この世界を滅ぼすという真似をするんだ。

 私はこれほどまでに忌み子の噂を恨んだことはない。


「さぁノーマル、朝だ」


 暗かった空に東から朝日が昇る。

 もう朝か……。


「さて、昼になったら空に移動だ。お前の仲間がいつ来るかわからないからな」


 ハーディスが朝日を見ると、立ち上がり、これからの行動を言った。


「ハーディス、あなたはどうして私を仲間から遠ざけるのですか?」


 ハーディスは私の元味方とはいえ、今は敵。敵に容赦しなかった彼ならば、すぐに私を殺すのに……やることは私を遠ざけるだけ。


「どうせなら、戦友の最後を見届けようと思ってな」


「最後?」


「お前は……何もしなくても死ぬからな」


「…………え?」






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