フクロダVSハーディス

「はぁ、はぁ……」


 俺は歩美とニコと一緒に自転車で村の方に、息を切らしながら向かっている。

 フクロダさんや町のことも心配だが、うちの父や村の方の人達も心配だ。


「耀助! 見えて来た!」


 歩美が指差し、見えてきた大きな建物は「ふれあい会館」。

 子供会や村のイベント事で使う何かあった時の村の避難場所。

 俺達は駐輪場に停めて、会館のドアを開けた。


「お父さん! お母さん!」


「歩美!」


 会館の中には歩美の家族の他に、村の皆がいた。

 歩美はおばさんに抱きつき、おじさんも安心した顔をした。


「アーネちゃんに避難するように言われて、何事かと思ったら、町の方から爆発と煙が出て来たり、テレビでは人が暴走したり、一体何が起こってるの?」


「「えっと……」」


 おばさんの質問に俺達は何も言えないかった。

 さすがに魔法使いが戦ってますなんて信じてもらえないだろうな……。


「耀助、光太は一緒じゃなかったのか?」


「……え?」


 おじさんの言葉に俺は戸惑った。

 父は今日は休みのはずだ……なのに会館には父はいない。


「……え? 父、あっちに行ったんすか?」


「ああ、さっきニュース見てすぐ、俺の軽トラ借りてお前を探しに行ったんだよ」


 父が町の方に……今あっちはフクロダさん達が戦って戦争状態なのに……。


「俺、ちょっと行ってくる!」


「おい待て!」


 行こうとする俺をおじさんが手をつかんで止めた。


「お前まで行って、また行き違いになったらどうする。今町は危ないんだろ」


「でも……」


 もし父に何かあったら……もしかしたら死ぬのかもしれない。

 もしそんなことになったら、俺は……。


 バン!


「痛っ!」


 歩美が俺の背中を思いっきりはたいた。


「何て顔してんのよ! あのおじさんがそう簡単に死ぬわけないでしょ!」


「だな。あいつは曜子、お前の母さんのために傷ついてもしぶとく生きてるからな。お前を置いて逝きはしない。だから心配するな」


「……わかった 」


 俺は行くのを止めて、会館に残ることにした。


「ノーマル様、ご無事でしょうか……」


「そういえばアーネも……」


 ニコや歩美が皆を心配している。

 たしかに父も心配だけど、フクロダさんも黒幕と、アーネ達もあの骸骨使いの爺さんと戦ってる。

 ……考えても仕方ないか。今はフクロダさん達の無事を祈るしかないな。



 ***



 丸々駅上空ーー。


 ドドドドドドドドドドドド!


「くっ……!」


「どうしたどうしたノーマルディア!」


 私はハーディスと戦闘中。

 私はハーディスが人に危害を加えないよう空に誘導し、ハーディスは「フライ」を使って着いてきた。

 誰もいない、障害物がない方がこちらとしても戦いやすい。

 だが、こちらは魔力は半減、相手は普段の状態であり、魔力も魔法操作も一流。明らかに不利だ。

 ハーディスが放つ炎の弾丸を私は必死に避ける。

 だが、絶対的不利というわけではない。


「水よ、霧と化せ! 『ミスト』」


 私はハーディスの周りを飛び回りながら白い霧を放った。

 霧はやがて白い球体となり、ハーディスの視界は濃い霧に包まれているはず。


「ほぅ……」


「火よ放て! 『ファイアボール』」


 私はそのまま回りながらファイアボールを撃ちまくった。


「それで当たると思うか!」


 霧でうっすらと見えるハーディスは、霧でどこかわからないはずなのに、放ったファイアボールを余裕で避けている。

 私は撃つのをやめ、さらに上空を飛んだ。

 霧の球体がすぐに晴れ、私の下には米粒ほどしかないハーディスの姿が見えた。


「ホォォォォ!!」


 私は真下にいるハーディスに向かって足を出し、ものすごい勢いで急降下した。


「ぐっ……!」


 音もなく、そして猛スピードで放たれたキックをハーディスは右手で防ぐが、このまま急降下を続けた。

 今の私は魔法は半減しているが、このフクロウの羽、視力、脚力がある。

 羽で空中を自由に動き、視力でどんな小さな標的も見え、脚力で強力な攻撃が出来る。

 それを生かせば、ハーディスに勝てる可能性はゼロではない。


「うっ……くっ……!」


 ハーディスはこのキックの衝撃と急降下の圧に耐えている。

 このまま地面に激突しダメージを与えればよし。

 だが、ハーディスがそう簡単に倒せるとは思えない。


「邪魔…………だぁ!!」


 ハーディスは右手で蹴りを防いだまま、左手で呪文無しで火の玉を発射した。


「うぉっ!?」


 私は咄嗟に避け、そのせいでスピードが落ち、ハーディスは素早く蹴りから逃げた。


「くっ……無詠唱ですか」


 無詠唱……呪文無しで魔法を発動出来ること。

 普通魔法は呪文を唱え、その言葉の効果と魔力が反応することによって発動する。しかしごく稀にハーディスのように呪文を唱えずに感覚で発動出来る者もいる。


「はぁ、はぁ……魔法は弱いが、その鳥の身体能力は厄介だな」


 ハーディスは息を切らしている。効果はあるようだ。


「まだまだ行きます!」


 私は自分の羽をバサバサと羽ばたかせながら、ハーディスに両手をかざした。


「風よ! 無数で放て!『ウインドマシンガン』」


 そして一度に何十発という小さな風の玉を発射させた。

 これは私がこの世界に来て、風の玉を放つ風の初歩魔法「ウインドボール」をアレンジした魔法で、一発一発の威力はそうでもないが数が多く、羽ではばたかせた風の力を使えば、魔力が続く限りいつまでも放つことが出来る。


「ちっ……!」


 ハーディスは体中に無数の風の弾丸が当たり、ダメージを受けている。


「地味にくるな……」


 だがハーディスは無詠唱で風の盾を出し、自分の身を守った。


「まだまだ!」


 私は「ウインドマシンガン」を撃ちながら、素早く後ろに回り込んだ。

 ハーディスも後ろに回り込むが、空中での速さは私が有利。後ろに回り込んだらさらに後ろに回り込んで少しずつダメージを与え続けた。


「チョコマカと! はあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ハーディスは唸るような力んだ声をあげると、無詠唱で竜巻を発生させた。

 そして私の風の弾丸はことごとく弾かれた。


「どうだノーマルディア! これが魔力がない今のお前には出来ない力の差という物だ!」


 たしかに今の私には到底無理だ。

 フクロウの身体能力でも越えられない壁がある……しかしーー。


「私にはまだ魔法兵でつちかったという武器があります!」


「!?」


 ハーディスが上を見上げた。

 なぜなら竜巻の上に私が喋ったからだ。

 ハーディスが使った魔法はおそらく風の魔法「サイクロン」。

 それは術者の周りを竜巻に囲ませる魔法で、術者に近いほど風は強い。

 だけどこの世界のニュースに出てくる竜巻とは違い、規模は小さく、中心ががら空きである。

 だからハーディスから遠ざかれば、風は弱くなり、中心に入れば風も効かない。

 私は竜巻が発生したと同時に素早く上昇し、風が弱い所に中心に侵入した。

 これは向こうの世界で数々の魔法使いと戦った経験とフクロウになった私が出来る技である。


「ホォォォォォォォ!」


 私は再びハーディスに足を向けながらすごい勢いで急降下をした。


「ぐふぁ!」


 私の蹴りはハーディスの顔面にヒットし、そのまま下にへとまっ逆さまに落ち、地面に激突した。

 竜巻も止み、下は砂ぼこりが舞ってよく見えないが、どうやら私はハーディスに勝利したようだ。


「はぁ、はぁ……勝ったん……ですか?」


 私はこの勝利に疑問を覚えた。

 ハーディスは私よりも強い魔法兵だったはず、なのに魔法が半減している私に負けることなんて……。

 十年以上も会ってない間に体が鈍ったのか、それとも年のせいか……だけど、なんとなく勘ではありますが、この勝利に違和感のようなものを感じている。


 ドォォォォォォォォォン!!


「がはっ……!」


 私は一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 私の背後から突如、爆炎が出て来たのだ。

 翼にダメージを食らったため、私はクルクルと回りながら落ちていき、ハーディスが落ちた場所の近くに頭から落ちていった。


「はぁ……はぁ……」


 私は体を引きずらせながら、ハーディスの落ちた場所に向かう……。


「ぐ…………なっ!?」


 そして私がハーディスが落ちた場所に着き、目にしたのは、ハーディスの姿をした岩が割れた姿でそこにいた。


「これは一体……」


「俺がそう簡単にやられると思うか? ノーマルディア」


「!?」


 突然目の前に現れた足が、岩で出来たハーディスの頭を踏んづけて割った。

 見上げるとそこにはハーディスだった。


「これは一体……」


「土魔法『ゴーレム』。自分に見立てた岩人形を操り、ある程度魔法を込めれば魔法も使える俺のオリジナルの魔法だ」


「そんな……いつから」


「おまえが『ミスト』をした間に、あらかじめ用意しあ人形をすり替えたんだ。そして『ミラージュ』で姿を消して眺めてたってわけだ」


 光魔法『ミラージュ』。

 光の屈折を利用して姿を見えなくする魔法。

 まさか偽物と戦っていたとは不覚だったた……どうりで簡単に勝てるわけだ。


「さてーー」


「う……」


 ハーディスは私の首根っこをつかみ、片手で私を持ち上げた。

 年を取ってもこの力……やはり本気の彼はあの「ゴーレム」より強い。


「ほぅ、これはわざわざとどめを刺さなくてもいいみたいだな」


 彼は私の何かを見て、何か思い付いたようだ。

 満身創痍の私に、無傷のハーディス……私は一気にピンチに陥ってしまった。

 一体私はどうなるのだろうか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る