アーネ組VSエルサレム

「ガァァァァァ!」


「シャアァァァァァァ!」


 私は征服王、エルサレムと交戦中。

 スネーリアとウルルンがアーマーリザードと戦っている。

 だけど、アーマーリザードはすばしっこく、ウルルンの目にも止まらない速さの攻撃を直前で見切り、スネーリアは体を絡み付かせようとするも、持ち前の身体能力で避ける。


「グルルルルルルルル……」


(くそ! 全っ然当たらねぇ!)


(こいつ、戦い慣れてるわね)


 スネーリアとウルルンは苦戦しているみたい。


「さぁ、ぼさっとしてる暇はないぞ!」


「くっ……!」


 隙を突いて、エルサレムがワイバーンに乗って私に突っ込んで来た。

 アーマーリザードも、高くジャンプして、大きな剣を片手で軽々と振り、スネーリアに攻撃を仕掛けた。

 スネーリアはその攻撃を避けるが、アーマーリザードは攻撃を続け、スネーリアも避け続ける。

 だけど建物が邪魔なのと体の大きさが仇となり、避けるのに苦労している。


(く……! この!)


 スネーリアは尻尾で反撃するも、アーマーリザードは軽々と避け、大剣がスネーリアの尻尾に刺さった。


(ぐあ……!)


(スネーリア! くそがぁ!)


 ウルルンがアーマーリザードに向かって噛みつこうとしたが、尻尾に刺さった剣を抜き、素早く避けた。


(ちくしょうあいつちょこまかと!)


「しっかりしなさい!」


「フハハハハ、我がアーマーリザードは数々の軍隊に勝利した優秀な兵士、ただデカいだけの蛇と狼に負けるわけがない」


「この……!」


 エルサレムの言葉に私達は苛ついた。

 ……ダメだ。これじゃエルサレムを倒せない。

 なんとかして倒さないと……ああもう! 作戦なんて考えることないからわからない!


「そろそろ終いとしようか」


 エルサレムがそう言うと、手をアーマーリザードに向けて構えた。


「我が従順な下僕よ。主従の契約により、我が魔力を食らいて、最強の戦士となせーー」


 エルサレムが長めの呪文を唱えた。

 呪文は長ければ長いほど効果が高い。

 つまりあれは私のサンフレイム以上の力ってことだ。


「ーー理性を失えども、目の前の敵を蹴散らせ! 『バーサーク』」


 エルサレムの手から青い魔力を放出し、アーマーリザードに当たった。

 するとアーマーリザードの体が一回りも大きくなり 、筋肉が膨張し、その膨らみで身につけた鎧が壊れた。


「ギャオォォォォォォォォォ!!」


 目が赤く光り、よだれをダラダラと垂らして、明らかにさっきよりヤバい状態になっている。


(なんだあれ!?)


「支援魔法『バーサーク』術者の大量の魔力を相手に注ぐことによって対象を何倍も強化させる魔法よ。ただし強化される代わりに理性を失って凶暴化するけどね」


 あれはかけた術者も攻撃対象になるけど、エルサレムはワイバーンで飛んでるから安全。


「ギャオォォォォォォォォ!!」


 剣と盾を捨てたアーマーリザードは蹴った地面をえぐるほど足を踏ん張らせ、勢いよくこっちに突っ込んで来た。


(ぐふっ!)


(がっは……!)


 アーマーリザードの勢いに乗った最初のパンチがウルルンの胴体に当たり、すぐにスネーリアの尻尾をつかんで投げ飛ばし、建物に叩きつけた。


「ウルルン! スネーリーー」


 二人の心配した瞬間、アーマーリザードはいつの間にか私の目の前にいた。

 そしてーー。


「ぶふっ……!」


 私の腹部にパンチを食らわせた。

 私は吹き飛び、建物の壁に激突した。


「ギャオォォォォォォォォォ!!」


 私を倒したアーマーリザードは雄叫びをあげた。


「はぁ……はぁ……」


 痛い……殴られたお腹も壁に当たった背中も痛い。肺をやられたのか口からも血が出てるし、腹も……これはアバラ、イッテるわね……。

 スネーリアもウルルンも気を失っている。

 これはヤバい……死ぬんじゃないかしら。


 モルト家の三人兄妹の末っ子として生まれて、お父様達に愛されて育った。

 兄妹の中でたぐいまれない魔法の才能を持ってると言われて魔法使いになることを決意。

 森で拾ったウルルンとスネーリアを私が駄々をこねて飼って育てるようになった。

 魔法学校を主席合格、学校に行きながら先輩や魔法師の依頼にしゃしゃり出たり、自分で悪事を解決して最年少で「王都名誉魔法師」になった。

 ……そういえば初めて一人でやった依頼にノーマルディアに手柄を取られてから付きまとう様になったんだっけ?

 それと同時に私以上の実力を持ったあいつが私の目標だったんだよね……。

 ああ……なんか走馬灯みたいに今までのが思い出していく。


「さぁ、哀れな弱き少女よ。朽ち果てるがいい」


「…………弱い? 」


「この征服王に楯突いたこと、そして瀕死になっていること、弱い以外何者でもない。貴様は哀れで弱いまま、ただ朽ち果てるだけだ」


 弱い……この私が弱い……。


「フフ、フフフフフ……」


「?」


「ふざけんなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「!?」


 私は叫びながら立ち上がった。

 突然の大声にスネーリアとウルルンは目覚め、エルサレムは驚いた。


「光よ我が全てを癒せ! 『ハイパーヒール』」


 私は回復魔法を唱え、全身を光に包むと、傷が完全に治った。


「私は……私はバカと言われても、ブスと言われてもいい。だけどね、弱いって言われるのが一番嫌なのよ! 私は誰しもが崇み、恐れおののく最っ強の魔法使いになるんだから!」


(さすがマスター、最強の負けず嫌い……)


(おまけに粘着質だから、倒すまでやめねぇ。あいつも哀れだな)


「あんた達、目覚めてるなら集合!」


 スネーリアとウルルンは私の元に集まり、同じように「ハイパーヒール」で回復させた。


「ふっ、回復したところで我々に勝てるとは思えんな」


「ギャオォォォォォォォォォ!!」


 たしかにアーマーリザードは強い。

 パワーに加わってあの身のこなし、私達であいつに勝てる可能性は少ない。

 だったらーー。


「こうなったらやるわよ」


(マジかよ……)


(あれはまだ完全ではないはず。場合によっては全員今日一日再起不能になるかもしれない……)


「いいの! あんなやつに負けるのは絶対嫌! 絶対勝つわよ!」


((ホント、後先考えないな……))


「聞こえてるわよ! 」


 私達は一つに固まった。


「さてさて、何をするのやら」


「行くわよ!」


 私は右手を挙げた。


「我が魔力よ。契約により生まれし使い魔と体、そして心を一つにせよーー」


 私が呪文を唱えると、私達の周りに大きな魔法陣が現れた。


「我らを一つにし、あらゆる敵を蹴散らす力を授けよ! 我を纏え!『キメラ』」


 呪文を唱え終えると、私達は白い光に包まれて、爆風が放たれた。

 エルサレムとアーマーリザードはその爆風と光の眩しさに怯み、目を隠した。

 そして少し経ち、風と光が弱まった。


「く……! 一体何を……なっ!?」


 エルサレムは私達の……いや、姿を見て驚いた。

 今エルサレムの前にいるのは金色に赤と紫が混ざった色の髪。

 そして頭には狼の耳に口には牙。

 手には伸びた爪に腕には紫の鱗、そしてお尻には蛇が尻尾のように一人でに動いている。

 そんな化け物のような姿をした少女がいるのだから。


(うしっ! 成功したな)


(ええ、でも長くは持たないわね……)


「わかってるわ。さっさとやるわよ!」


 私達はエルサレムを倒すために合体したのだ。

 一人と二匹が一体の体になった「キメラ人間」として。


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