エルサレム
私とアーネはハーディスと戦うことになった。
だが、相手は前の世界でも人間だった頃の私でも必死になるほどの魔法の腕前。
魔力が半減された私とアーネで勝てる可能性は五分五分。
しかし、別の所では大罪人エルサレムがどこかにいる。
耀助さん達の身も心配ですし……。
私はアーネに小声で話し始めた。
「アーネ、あなたは耀助さんの方に行ってもらえますか」
「はぁ!? あんなやつちゃっちゃと倒しちゃえばいいじゃない!」
「ハーディスは私以上の魔法使いです。戦闘になると時間がかかるのは確実です。それだと耀助さん達がエルサレムに殺されるかもしれません。歩美さんが死んで、宿無しになってもいいんですか?」
「それは……」
「でしたらエルサレムはあなたとニコ、そしてスネーリアとウルルンで倒して、終わり次第全員でこちらに来てもらえますか?」
これが私が考えた皆が生きる最善の策である。
「……わかったわよ。大丈夫なの? そんな相手を一人で」
「多分ですが……時間稼ぎぐらいにはなると思います」
私は手をコキコキと鳴らし……鳴りはしませんが、準備運動を始めた。
「じゃあ、がんばってよ」
そう言ってアーネは耀助さん達の所に飛んで行った。
まさかあのアーネに応援されるとは思いませんでした。
「さて……」
私は再び、ハーディスに視線を向けた。
「お前一人で相手か? ノーマル」
「はい。この町のためにも倒させてもらいます」
私はハーディスに一礼をした。
「相変わらず敵にいちいち律儀に挨拶か……かかってこい」
次の瞬間、ハーディスから出た殺気で空気が変わった。
これは明らかに私のことを殺そうとしている。
これは本気でやらないと骨が折れそうですね……。
***
前略、天国の母さん。お元気ですか?
耀助は元気にしてます。今俺は……。
ドドドドドドドドド!
……骸骨の群れに追われています。
『いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
俺達全員叫びながら走っている。
フクロダさんがどこかに行ってしまい、なぜかアーネもついていったその後、俺はこの近くで待っていた。
そして少しして近くで爆発が起きてびっくりし、その爆発した方向から、骸骨の群れが俺達に向かってドドドドと走って来て、現在に至る。
ちなみに気を失っている浅羽さんは岩下がおんぶしている。
もう何なの! 人が暴れるわ爆発するわ骸骨に追いかけられるわ!
おかげで天国の母さんに話をして現実逃避しちまったじゃねぇか!
「もう何なんだよあの骸骨は!」
「知るか! とにかく走れ!」
「というかスネーリアとウルルンどこ行ったのよ!」
いつの間にか、いや、走り出した時からスネーリアとウルルンはいなかった。
くそーあの蛇&狼! まったく役立たない!
「うぉっ!?」
俺達が走っていると、浅羽さんをおぶった岩下がこけた。
浅羽さんは岩下の上で無事だが、岩下はアスファルトに少し引きづられて痛そうだ。
「ユイ!」
「浅羽連れて先に行け!」
「そんな……!」
だが、岩下の言葉は骸骨はスピードを変えず岩下と浅羽さんに襲いかかる。
「くそ!」
「だっしゃあぁぁぁぁぁぁ!」
ドォォォォォォン! バキバキバキバキ!
歩美が猛ダッシュで骸骨達に向かった。
そして一番前の骸骨に向かって飛び蹴りを食らわした。
すると一番前の骸骨が吹き飛び、その衝撃で後ろ、またその後ろの骸骨も吹き飛び、骸骨の群れの大半がバラバラになった。
「ほら岩下! 浅羽さんはアタシが持つから立って!」
「あ、ああ……」
岩下は骸骨を吹き飛ばした歩美に少し恐怖を感じた。ホントに化け物だよなあいつ……。
「ほう……この町の連中にスケルトンに対抗する輩がおるとはな」
聞きなれない男の声が上から聞こえた。
上には手が翼の紫色の竜に乗った誰かがいた。
そして男が現れてから骸骨が止まった。
「何だあれ?」
「あれはワイバーンです。凶暴で人にはなつくことはないはずなのに……」
ニコが言うことが正しいなら、あの男は相当なここのモンスター使いってことか。あの骸骨の群れもおそらくあの男の仕業だろうし。
「全く……苦労して召喚したスケルトンをこんなにしおって、まさに骨折り損じゃわい」
うまいこというな……なんて思ってる場合じゃないな。
ワイバーンがゆっくりと降りると、姿を現したのは苔みたいな色をしたフードを被った老人だった。
「誰だあんた!」
「我が名はエルサレム・ロット。『征服王』を欲しいままにした最強の
「ごめん知らない」
「なぬ!?」
「ニコさん知ってる?」
「いえ全く」
「なぬ!? ……我が名声はこの地まで轟かぬというのか……」
あーあー爺さん落ち込んじゃったよ……。
ここ世界が違うから知らないのは当然だから。
「こいつはこの事件の黒幕の一人よ」
今度は上からアーネが降ってきた。
スカートを履いていて下から丸見えだが、歩美から借りたスパッツで全然見えない……って結構余裕あるな俺。
「やっと見つけたわ」
「アーネ、どういうことだ?」
「こいつは何百というモンスターを従えて町を襲ってはその町を征服して満足する大罪人よ」
「そうなのか。ところで『黒幕の一人』ってことは他に誰が?」
「元魔法兵、王に仕える魔法専門の兵士でノーマルディアの上司、ハーディスという男よ」
「……!」
ハーディスという言葉にニコは驚いている。
「え、知り合い?」
「……私が小さい頃に殺そうとした忌み子嫌いの人です。ノーマル様に名前は教わりました」
「はっ!?」
「あんたも知ってるのね。そのハーディスはこの町の忌み子達を殺してあっちの世界の忌み子を来させないようにとか意味わかんないこと言ってたわ」
なんだそれ……本当に意味がわかんねぇ。
あっちの世界とこっちの世界とは何も関係ないのに。
明らかに変だ。フクロダさんそんな人が上司になってたのか……。
「ほう、この世界に魔法使いがおるとはな」
あ、エルサレムが立ち直った。
「貴様は我と共に来る気はないか? 我らと組めばこの魔力を持たぬこの町、すぐに征服出来る。そしたらそれなりの地位を授けるぞ」
「ふん! 冗談じゃないわ! 私はこの世界に情があるわけでもないし、好きと言ったら微妙だわ!」
「おい」
微妙なんかい……。
「だけどねあんたみたいなクソジジイに従うのも嫌だし、ここで面倒みてもらっている人の恩を仇で返すようなことをしたくない! それに何より……あんたみたいな魔法を悪用するような奴が何よりも許さないわ!」
「アーネ……」
「魔法は人のために使い、人を守るために使う物よ! そんな征服とか支配とかそんなくだらないことに使うのがムカつくのよ!」
アーネはエルサレムに向かって指を差して叫んだ。
アーネはわがままなお嬢様だと思っていたが、人のことを考えて正義感がある芯の強い子だ。
「そうか……ならここで滅びよ」
エルサレムが大きな動物の角の形をした笛を取り出すとーー。
ブォォォォォォォォ!
ギャア! ギャア! ギャア!
低い音が鳴り響き、少しするとエルサレムが乗っていた数十匹のワイバーンの群れが現れた。
あの笛はモンスターを呼び出すための笛だったようだ。
「耀助、ヤバイんじゃないのかこれ……」
「あ、ああ、アーネでもこの数は無理じゃないか」
さっきまで止まっていた骸骨も再び歩き出し、俺達はジリジリと後ろに下がる。
だが、アーネは腕を組みながら堂々と立っている。
一体これは何の余裕なんだ?
「さあやれ!」
エルサレムの号令と共に骸骨とワイバーンが俺達に向かって襲いかかって来た。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!」
俺も皆も死を覚悟をした……。
「遅いわよ」
ドゴォォォォォォォォン!
ザシュ! ザシュ!
俺達は今の光景に驚いた。
アーネのセリフと共に何もない所で骸骨達が破壊され、ワイバーンが横に吹き飛び壁に激突した。
俺達の目の前にいた敵は一掃された。
「な……何だと!」
「え? え?」
「私をそんじょそこらの魔法使いと一緒にしてもらわないでくれるかしら」
俺は何が何だかわからないでいた……これは一体どういうことだ?
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