4人目の魔法使い
金山に連れられて俺達は電気屋の大型テレビを見た。
『ごらんください! いきなり人々が暴れています! これは一体どういうことなのでしょうか!』
映っているのはおそらく地元のローカル局のニュース番組。
しかも映っているのはここ丸々市だ。
しゃべっているキャスターの後ろでは金属バットで店のガラスを割ったり、車に乗って雄叫びを上げている。
これは明らかに普通じゃない。
「何なの……これ……」
「人が暴れるなんてゾンビ映画かよ……」
歩美も岩下も絶句状態で見ている。
浅羽さんも変だったし、これも魔法使いのせいなのか?
「耀助さん!」
俺達の頭上からフクロダさんが飛んできて、着地した。
「フクロダさん! どうなっているんですか!?」
「私もカフェを早退して現場を見たんですが、そこら中に微量な魔力を感じました」
「魔力……実は浅羽さんもおかしくなったんです。なんか性格が一変して……子ネコを蹴ろうとしたんです」
「子ネコを……もしかして『氷兵の魔法陣』かもしれせん」
「ひょーへー?」
「簡単に言えば感情や罪悪感を封じ、まるで氷のような心を持ち、どんな仲がいい人でも少しでもムカついた人を無差別に殺す。元々は街を侵略するために街の人にかける非人道的な魔法です」
そんな魔法が、だから浅羽さんは道を阻めた子ネコを蹴ろうとしたのか。
「じゃあやっぱりこれは魔法使い……アーネがやったんですか?」
「なんで私なのよ!」
上からアーネの声が聞こえた。
上を向くと、アーネ、スネーリア、ウルルンが『フライ』を使って飛んでいた。
そして俺達の前に降り立ち、俺に額に怒りマークを立てながらズンズンと向かって来た。
「魔法使いだからって決めつけないでくれる! 私がこの町を侵略する理由がないわ! 」
「私もアーネを疑って一度歩美さんの家に向かったんですが、アーネ達は歩美さんのお母さんの手伝いをしてましたし、ここ最近は歩美さんと一緒にいました」
「そうだったんだ……疑ってごめんねアーネ。帰ったら骨を折ろうと思ったたけどやめるわ」
「歩美怖っ!」
歩美の本気の目にアーネはビクビクしている。
「まぁ骨折りの件は置いといて、結局やったのは誰なんですか?」
「可能性があるとしたら『次元の穴』から来た罪人、だけど罪人は魔力を封じられるから……やはりニコやアーネのように、次元の穴に忍び込んで通った誰か……ん?」
フクロダさんとニコ、アーネが何かを見つけたようによそ見をした。
「どうしたんですか?」
「これは……魔力を感じるわね。それも強大な」
「マジすか!?」
「えっと……あ! 駅ビルの上に人がいます!」
「マジすか!? って見えません!」
駅ビルは見えるがここまでまだ距離はあるから見えないはず。
「フクロウは人間の八倍の視力がありますからね」
思ったよりフクロウハイスペック! なんて思ってる場合じゃない!
「魔法使いいたんですか!?」
「あくまでかもですが……見てきます!」
フクロダさんは翼を羽ばたかせ、駅ビルの方へ向かった。
***
私は謎の魔法使いかもしれない今回の黒幕を知るべく、魔力を感じる駅ビルの屋上に向かっている。
下には人が暴れて町中が混乱している。
一体誰がこんなことを……。
駅に着いた私は上昇して展望台になっている屋上へと向かった。
魔力がだんだん強く感じる……これは間違いなく上に魔法使いがいる。
そして私は屋上に着いた。
「…………」
そこには茶色い白髪が混ざった髪に、長い髭が特徴の男があぐらをかいていた。
「……ほう、こんな所にモンスターがいるとはな」
「…………」
私はこの男の姿を見て言葉を失った。
……なぜなら、私はこの男を知っているからだ。
「ちょっとノーマルディア!」
私の下からアーネが「フライ」を使って上がってきた。
「いきなり先に行かないでよ! ……そんで、あいつがそうなのね」
そして茶髪の男はニコを見て目付きが変わった。
「なぜ魔法使いがここにいるんだ?」
「まさかあなたがここにいるんだなんて……」
「え、何? あいつ知り合い?」
唯一知らないアーネだけ、戸惑っている。
「彼はハーディス・マルクス。私がいた魔法兵の上司だった人です」
魔法兵……王様の命令で動く魔法に秀でた兵のこと。
ハーディスさんはその中で一番優秀な魔法兵。攻撃魔法だけではなく回復魔法、呪術、全ての魔法に優れていた人だ。
ただ……殺したいほどに忌み子、黒髪の人間を憎み、その忌み子に対し容赦ない行動に部下だった私達は困ることもあった。
「しゃべる上に俺のことを知ってるってことは、お前はただのフクロウのモンスターじゃないな」
「お久しぶりですハーディスさん。姿はあれですが、あなたの部下だったノーマルディアです」
「ノーマル? ハハハハハハ! 禁術に失敗し、『次元の穴』に落ちたと聞いたが、まさかフクロウ人間になったとはな!」
ハーディスさんが大声笑った。
今はそれ所ではない。
「ずいぶん久しいな、魔法兵の頃を思い出す」
「ハーディスさん。この騒動はあなたがやったんですか?」
「ああ、その通りだ」
「どうして! あなたは忌み子に関すること以外、弱きを助け強きをくじく人のはずです!」
「決まってんだろ、この町を滅ぼすためだ」
「なっ……!」
この状況、そしてその顔……どうやら冗談ではないようだ。
「どうして……この世界の人があなたに一体何をしたんですか!」
「俺は魔法兵をやっていた頃、次元の穴に入り戻った者の日記を見た……」
日記? もしかして次元の穴を作った魔術師の日記のことか?
「そこにはこう記していた。『山を見渡すと、あちらの世界の人間は皆、黒い髪をしていた。もしかしたら忌み子達はここから生まれ変わったのかもしれない』とな」
「それって……」
「俺は忌み子を根絶するためにこれまで生きてきた。その日記を頼りに次元の穴に入ると、この世界は忌み子忌み子忌み子忌み子! 忌み子だらけじゃねえか!」
ハーディスさんがすごい形相で怒りを込めながら語り始めた。
「だから俺はこの世界の忌み子が俺達の世界で生まれ変わったと確信した。出始めにこの町を滅ぼす! そして黒髪の忌み子達を片っ端から殺すんだ!」
「たったそれだけのために……こいつ……狂ってる」
ハーディスさんの目が血走っている。
明らかに冷静ではない彼を見てアーネは引いている。
彼は忌み子を心の底から憎んでいる……だから黒髪だらけのこの町を見てどうかしてるのはたしかだ……。
「ノーマル、お前は俺の邪魔をするのか?」
「もちろんです! 私はこの町の人に救われた身! あなたのその野望打ち砕かせていただきます!」
私もアーネもハーディスさんに向かって睨み付けた。
ボカーン!
「「!?」」
後ろから爆発音が聞こえ、振り向くと遠くから黒い煙が立ち上がっていた。
これは人の暴走による物? ……いや、あの煙から魔力を感じる……ということは。
「もしかして他に魔法使いを連れて来たんですか!?」
「えっ!?」
「そうだ、この町を滅ぼすのに俺だけじゃ酷だからな……誰だかわかるか…………あのエルサレムだ」
「「え!?」」
私達はその名前を聞いて驚いた。
「エルサレムっていくつもの町を破壊した大罪人じゃない! あんた人々を守る魔法兵のくせに犯罪者と手を組んだの!?」
「魔法兵ならとうの昔ににやめている。俺は忌み子達を滅ぼすためなら何でもいい。そうすれば俺達の世界に忌み子がいなくなり、万々歳だ! アハハハハハハ!」
ハーディスさんは狂ったように笑った。
もうこの男に何を言っても無駄だろう……。
今はハーディスさん、いやハーディスとエルサレムをなんとかしないといけない。
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