フクロダさんとフクロウカフェ

 私フクロダは今日もこのフクロウカフェ「OWL LOVER」で働いております。

 あっちの世界とは違い命がけではない。

 フクロウ達でお客様に癒しを与え、私も楽しくお金がもらえる。働くというのは実に素晴らしい!

 私はお客が帰ったテーブルの食器を片付けているとーー。


「フクロダちゃ~ん。そろそろ休憩行きなさ~い」


 私の前に現れたのは、化粧が濃く派手な色の服を来た女性口調の男性。

 この方はここの店長、サブリナさんです。

 フクロウと男が好きな以外、誰も本名や素性を知らない謎の人物。

 私がこの世界に来た初めの頃、私はサブリナ店長に拾われて、ここに働くことになった。


「はい店長」


「いや~フクロダちゃんが来てから売り上げが上がってるのよね~。無理しないでちゃんと休まないとダメよ」


「はい、それではこれ片付けたら休憩入ります」


「それにしてもフクロダちゃんいつもこの姿ね?」


「ああ……それは……」


「何も言わないでいいわ。人には誰しも秘密を持つものなのよ。そう、私のように……」


 店長が斜め上を向きながら何かを思い出している様子。

 店長のその心の広さには助かっています。

 こんな怪しいフクロウ人間を雇ってくれているのですから。


「あ、フクロダちゃん。休憩ついでに悪いんだけど、フクロウ達にご飯あげてくれない?」


「わかりました」


 私は食器を片付けて、私は倉庫に移動して、エサを持ってきた。

 うちのスタッフは私と店長以外女性。しかもエサは肉やコオロギであるため、コオロギは女性には抵抗がある。

 だからエサは主に私と店長がやっている。


「ほーらご飯ですよ」


 私はまずコキンメフクロウという小さなフクロウのメロンちゃんにエサをあげた。


(ごはん、ごはん)


 私はピンセットでコオロギをつまむとメロンちゃんはムシャムシャと食べた。

 私は半分フクロウなのでフクロウの言葉がわかります。

 メロンちゃんはこのカフェの中で一番の新入り。

 まだ子供で、ごはんのことぐらいしか考えない食いしん坊です。


(もっとー、ごはんもっとー)


「今回はここまでです。さて次は……」


 今度はコノハズクのリーフちゃんにエサをあげることにした。


「リーフちゃん、ごはんですよ」


(ねぇ聞いてよフクロダ。最近私、だんだん人気が下がったと思わない?)


「そんなことないと思いますが?」


「そんなことあるわよ! 前は驚かすと体が細くなるからおもしろい人気ナンバーワンだったアタシが最近メロンちゃんが入ってきてそっちにいっていくのよ! やっぱり私より小さい方がいいのね。あんなごはんしか考えてない若造に~!」


 リーフちゃん見た目は小柄でかわいいですがこのフクロウカフェ二番目の古株で嫉妬深く、よく私に愚痴を言って来ます……。

 でも実際は臆病で人が来ると体が細くなったりしてどこか憎めない人……じゃなくてフクロウです。


「大丈夫ですよ。人に媚売ってなついていれば十分人気はとれますよ。自分に自信を持ってください。エサ、ここに置いておきますね」


 私は慰めながらリーフちゃんの食べやすい高さの台の上にコオロギを乗せた。


「さて次は……」


 今度は私の相棒、ホーちゃんに似ているフクロウ、モリフクロウのフーちゃん、ミミちゃん、ジャック君の三羽です。

 三羽は隣に横一列並んで仲良くーー。


(ねぇミミ、ジャックから離れて)


(あんたが離れれば、ねぇジャック~)


(あ……えっと……)


(フーちゃん、あんたは求婚して重いのよ。そんなプレッシャーじゃジャックが可哀想でしょ!)


(なんですってぇ!)


 ーーではなくて修羅場でした……。

 ジャック君がフーちゃん、ミミちゃんに板挟みされて、困っているようです。

 これを見ると耀助さんと歩美さんとニコもいずれあんな感じになるんでしょうか……。

 私は三羽の前に台を置き、そのまま何も言わず、そっとエサを置いた。

 これに関してはさすがに私の出る幕はないでしょう……。


 次は大きなフクロウ、シロフクロウのポポちゃんです。

 この中で一番の古株で、いつものんびりして滅多に動かない。


「ポポちゃんご飯です」


(グー………………)


 ……寝ています。

 私は台の上にエサを置いた。


「さてとあとは奥ですね」


 あとは裏にいる残りのフクロウ達にエサをあげて休憩に入ることにした。



 ***



 さてと、休憩も終わったし、午後からのフクロウショーの準備でもーー。


「やっほーフックロダさーん!」


「えぇ!?」


 私が休憩から出ると、突然光太さんが現れた。


「光太さん!? どうしてここに!」


「え? ちょうど休憩だから、たまにはね、フクロダさんの仕事の様子を見に来たんだよ」


「そうですか」


「しっかし、すごいねフクロウがたくさんだ」


 光太さんが来るのは予想外ですが、お客さんですからちゃんと接客しないと。


「それではこちらに」


「あら~フクロダちゃん。お知り合い?」


 カフェのキッチンから店長が現れた。


「店長、こちら私がお世話になっている家の方です」


「あらそ~なの、ようこそいらっしゃいまげ!?」


「まげ?」


 店長が光太さんの顔を見ると驚いた。


「ん……何か?」


「いいいいいえ~! 何でもないですよ~」


「あれ? どこかで見た顔……」


 明らかに動揺してますね……。


「あ、光太さん。こちら店長のサブリナさんです」


「サブリナ? サブリナ……サブリ…………あぁ! 佐分利 剛さぶり つよし!」


「ぬぅん!?」


 店長が奇声をあげた! 剛って……。


「えっと……お知り合いで?」


「うん、中学、高校の同級生。そして母さんを巡った恋のライバル」


「えぇ!?」


「こいつは母さん、曜子に一目惚れしてね、ずっと告白しようとしたけど超奥手で、中1から高校卒業ギリギリまでずっと告白せずに片想いだったんだよ。それで小学校から曜子と一緒にいた俺にちょっかい出してたんだよ」


 知らなかった……。

 店長が女に興味があることとか本名が佐分利

 剛だったことなど秘めていた謎の公開に私は驚いている。

 そしていつもおしゃべりの店長がずっと黙っている。


「しっかし、お前がオカマって……昔はボクシング部のイケメンだったのに……え? もしかして、狙いは俺!?」


「違うわよ! 曜子ちゃんにふられて卒業した後、大学で同性愛者のサークルの先輩に襲われて目覚めただけよ!」


「うわぁ、聞きたくなかったわ~昔からの知り合いの変わってしまった過去」


 おぉ……店長の謎がどんどん公開されていきますね。


「はぁ……それにしても、曜子ちゃんが死んでからもう十年以上経ったのよね……」


「そうだね~、葬式以来会ってないけど、あんときは男の姿してたよね」


「からかわないで、あんたはいつもおちゃらけてるけど、内心今でも辛いんでしょ?」


「……まぁね、息子がいるから寂しくないって言ったら嘘になる。この悲しみを糧に仕事に集中してたけど、億稼いでも全然晴らすことは出来ないな」


 光太さん、そんなことを思っていたんですね……。

 ですが、それは当然だと思います。

 何年も付き合いのある者が死ぬというのはとても悲しいこと、私もホーちゃんが死んでから今でも心に残っているくらい悲しい。

 だから私は理性を失ってこんなフクロウ人間になりました。


「フクロダさん、このことは耀助には言わないでね。親としての威厳のためにもね」


「はぁ……」


 ……今心の片隅で「光太さんに威厳ってあるんですか?」と思った失礼な自分がいました。


「やめてください!」


 いきなりの女性の叫び声に私達は振り向いた。


「いいじゃねぇか。仕事サボってどっか行こうぜ」


「なんならサボれるように営業出来ないようにしようか?」


 ここのバイトの佐藤さんが柄の悪い若い二人に絡まれている。

 あれ? あのどっかで見たことがある。


「あ、あれは二高の連中です」


 前に岩下さんに絡んで来た中で見たことがあります。

 よく見たら私達にやられたらしき頭のケガがあります。


「二高かー、相変わらず不良の溜まり場なんだな」


「呑気なことを言ってる場合ではありません! 店長どうしますか!?」


「行くわよフクロダちゃん」


 店長が腕をポキポキと鳴らしながら不良達に向かい、私もついていった。

 もしかして鉄拳制裁で行くのでは?


「あら~お客様、当カフェはそっち系のお店ではございませんことよ~」


 店長が鉄拳制裁で来ると思いきや、物腰低く接客してきた。


「はぁ、うっせぇぞおっさん」


「引っ込んで……って! あんときのフクロウじゃねぇか!」


「てめぇ、ここで働いてんのか! わけわかんねぇ火の玉使いやがって!」


「それはあなた方がよってたかって一人に暴力をふるったからであってーー」


「うっせぇんだよ! あ~あ、もうやるしかねぇ! この店潰してフクロウ殺して食ってやるよ!」


 不良達二人がお店のイスを持って、戦闘準備を開始した。

 相変わらず血の気の多い連中ですね。

 ……あ! ここで魔法を使ったら、店がめちゃくちゃになってしまいます!

 こうなったら私の足でーー。


 ガシッ!


「「!?」」


 不良達がイスを振り上げると同時に、店長がイスを両手で片手ずつ掴んだ。

 するとイスはびくともせず、動けなくいた。


「あらあらあら~」


 店長が腕を下げると、イスもゆっくりと下がった。

 おそらく店長が強引に下げた。

 その証拠に店長の腕にはすごい筋肉が出ている。


「私のかわいいかわいいフクロウちゃん達に手を出すとなると話は別よね~」


 店長が不良達を見つめると不良達はひるんだ。


「な、何なんだこのオカマ野郎!」


「フクロダちゃ~ん、今日は店じまいよ。フクロウ達を奥に戻してくれる? 佐藤ちゃんはお客様に割引券を渡して、帰らせてくれるかしら?」


「「あ、はい!」」


 店長の命令通り、私は行動を開始した。


「それが終わったら私がいいと言うまで絶対に店を覗かないでね」


 まるで何かの恩返しのような言葉で店長は笑顔でそう言った。


「おーおー、ボクシング部のエースの本領発揮か?」


 光太さんがそう言いながら帰ると、私達店員達も外に出た。

 それからの店は不良達の怒号が飛び交ったが、すぐに静かになった……。



 ***



『次のニュースです。今日のお昼頃、○○県丸々市のフクロウカフェで突然の暴行事件が起きました。犯人は地元に通う男子高校生二人組で、その暴れたフクロウカフェの店長に返り討ちにされ、警察に捕まりました。高校生二人は他にも、万引きや恐喝などーー』


 夜、仕事が終わり、耀助さんの家でご飯を食べていると、ニュースで今日のことが写っていた。


「フクロダさん! これ、今日のやつっしょ! いやぁすごかったねぇ!」


 あの後、店長は不良達をボコボコにした。

 警察には正当防衛として私達は証明をして、一週間ほどの休業で済みました。


「フクロダさんがしたんじゃないんですよね?」


「違いますよ。さすがにそこまではしません」


 耀助さんが疑いの目でこちらを見た。


「本当だぜ耀助。ここに証人がいるんだから」


「ジーーーーーーーー……」


「まさかの疑惑の目続行!? どんだけ信用ないの俺!?」


 やはり耀助さんにとって光太さんに親としての威厳はないようでした。

 私は耀助さんの疑惑の視線を浴びながらご飯を食べ進むのでした。

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