混ざりあった二人

 とある夏休みの午前ーー。


「へぇ、父とフクロウカフェの店長って同級生だったんですね」


「そうなんですよ。いやー世間は狭いですね」


 俺とフクロダさんはアイスを食べながら他愛もない話をしている。

 宿題も計画通りに終わり、残りあと少しになり、余裕がある。

 だが……今までの経験からすると、そろそろ大変になるだろうと思っている。


「こんちわ~」


 歩美が縁側から現れて、靴を脱いで上がってきた。

 これはやっぱりか……。


「耀助ー、宿題見せてー」


「やっぱりかい……」


 そう、夏休みになるといっつも宿題を写しにやって来る。

 これはもう小3からずっとやってることだが……。


「歩美、いい加減し自分の力でやろうとしろよ」


「アハハハハ! アタシが一人で宿題なんて出来るわけでしょ! 何年の付き合いだと思ってんの!」


「笑うな」


「うぎゃ!」


 俺は麦茶を持ってきた時に使った丸いお盆を縦にして歩美の頭を軽く叩いた。

 文字通りの体力バカめ……。


「あの……耀助さん……」


 そんなことをしていると、ニコが部屋から出て来た。


「あの、わからないことがあるので教えてもらってもいいですか?」


「あ、はい、どれですか?」


「ちょっと! 何でニコちゃんはよくてアタシはダメなのよ! ひいきよひいき!」


「ニコさんはお前と違って写してもらうんじゃなくて、ちゃんと自分の力でやってるからだ! 」


「そんなお母さんとおばあちゃんみたいなこと言わないでよ」


 まったく……おばさんと銀子ばあちゃんの気持ちがわかるよ。


「教えてはやる。だから自分でやれ」


「ぶー……」


 歩美がふてくされながら、俺達(フクロダさん以外)はちゃぶ台を囲んで宿題をすることとなった。


「だいたいニコちゃんってこの世界の人間じゃないのに、どうしてそんなに解けるの?」


「えっと……私はずっと本を見たり勉強するのが好きですので、がんばりました」


「ニコの頭のよさは育てた私も驚くほどでしたからね」


「ですが、この世界の知らなくてはいけない知識が多くて限界があります。体力だってありませんし」


「たしかにニコさんって体育の成績が悪かったですね。まぁ、それだけ出来るのはすごいですよ」


「あーあ、アタシもニコちゃんみたいに頭が良ければなー……あと胸も」


 今最後なんか言ったような気がする。


「私も歩美さんの体力がうらやましいです……耀助さんと親しいですし」


 ニコも最後何かボソッと言った気がする。

 どうやら歩美とニコ、お互いがうらやましがっているようだ。

 歩美はともかくニコが歩美をうらやましがるとは超意外だ。


「なんかアタシとニコちゃんが入れ替わるようなことってないかしらね~」


「でしたら、方法はありますよ」


「「「え?」」」


 フクロダさんは思いがけないことを言った

 そんなありえないこと出来るの!?

 ……あ、そうだフクロダさんは魔法使いだった。あんまり魔法使わないから忘れてた。


「出来るんですか?」


「ええ、私もこの世界の草を配合して、魔法薬を作ったんです」


「大丈夫なんですか?」


「ご安心を、ニコの薬作りは私が教えたんです。毒も実験も成功済みです。ちょっと待ってください」


 自信満々にフクロダさんは自分の部屋に行った。

 しかしどんな薬だろう?

 某人気アニメ映画みたいに体が入れ替わる的な薬なのか?


「お待たせしました」


 持ってきたのはビーカーに入った青汁色の液体だった。

 ビーカーどこに用意したんすか?


「これはなんの薬ですか?」


「それは飲んでからのお楽しみにですね」


 表情はわからないが、フクロダさんはにやけているだろう。

 ニコは躊躇いもなく、歩美は怪しげに、薬を取り、そして飲んだ。


「……なんか味はないわね……これって何の薬ですかあぁぁぁぁぁぁ……」


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」


 歩美がドロドロに溶けたぁぁぁぁ!


「ノーマル様! 歩美さんが溶けえぇぇぇぇぇぇ……」


「さらにきゃあぁぁぁぁぁぁ!!」


 今度はニコがドロドロに溶けたぁぁぁぁ!

 うわどうしよう! 二人がドロドロに溶けて、今目の前には二人の服や下着と、二種類の肌色のドロドロのみずたまりが出来てる。

 もうこれホラーだよ!


「フクロダさん! 何なんですですかこれ! 一体何の薬ですか!?」


「これはスライムになる薬です。一時的にスライムになって、一時間後には元に戻ります。ちなみにスライムの真ん中に盛り上がりがありますよね? そこにはスライムの心臓である核が」


「そんなスライム知識はどうでもいい! 歩美とニコをどうするんだよ!」


「こうします!」


 フクロダさんは歩美だった少し褐色のスライムを持ち上げた。

 スライムはちぎれることなく、まるで卵の白身のようにくっついている。

 そしてーー。


 ドッポン!


 グルグル!


「ちょっ!?」


 スライムを持ち上げると、ニコだった白めの肌色のスライムの上に落としてグルグルとかき混ぜた。

 するとマーブル状の一つの肌色のスライムが出来上がった。


「何をしているんですか!」


「これで二人を混ぜて半分にすれば、合体する双子のような二人が出来上がります。これで二人のいいところが含まれているはずです」


 あぁ、話としては理にかなってる……けど。


「ちなみに二人は元の姿に戻るんですか?」


「……………………あぁ!」


 このミスターノープラン!!


「どうするんすか!」


「あぁぁぁぁ……今更ですがスライムは混ざりあうと固さが倍増してちぎれるのが難しくなります」


「はぁ!? じゃあこのままだとどうするんですか!?」


「多分、時間が立てば……顔が二つ、手足が四つずつの姿に」


「何その頭が少なくて、足が多い女版阿修羅像は!?」


 そんな幼馴染み嫌だよ~!

 一体どうすればいいのさ! この攻撃だけが取り柄の魔法フクロウ人間!


「騒がしいわねー」


 俺の後ろから声が聞こえた。

 そこにはビニール袋を持ったアーネがいた。


「アーネ! 何でお前がここに! ていうかどっから入って来た!?」


「普通に庭からよ。香織(歩美母)からお菓子もらったからおすそ分けだって。それより何よその肌色のスライム? 召喚術でもしてんの?」


「あぁ、実はかくかくしかじかでーー」


 俺はアーネにこれまでの状況を説明した。


「へぇ~、ノーマルディアが困ってるんだ~、へぇ~」


 アーネがフクロダさんが困っているのを嘲笑って見ている。

 腹立つわー。


「ということは出来るのか!?」


「私は学校でモンスターの生態も勉強していたのよ! スライムなんてなんてことないわよ!」


「それではお願いしてもよろしいですか?」


「えぇ~、どうしようかな~」


 アーネはポニーテールの先をつかんで指でグルグル回した。

 腹立つわ、このドリルポニーテール……。


「やってくれたらフクロダさんに勝る所があるってことだよね」


「まぁ……そうよね。それならやるわ!」


 わー簡単。

 でも、それで歩美達をなんとかしてくれればなんでもいいや。

 アーネは混ざりあったスライムに手をかざした。


「風よスライムを浮かせ! 『フライ』」


 呪文を唱えると、スライムが浮いた。


「水よ分離せよ! 『アクアセパレート』」


 すると空中でスライムがどんどん分離していく。

 スライムの核らしき赤い丸に、マーブル状のスライムが二つに分けられている。

 歩美とニコを分けるにはマーブル状はおかしい。

 よーく見ると、薄めマーブル状のスライムが8割、濃いめのスライムが2割ほどに分けている。


「スライムっていうのは赤い核が心臓、それを纏う濃いのが性格、好意とかの内面、それ以外は外見を表しているの」


「へぇ」


 スライムってそんな風になってんだ……。


「いや、それより元に戻せよ」


「元に戻すことはいつでも出来るわ。一旦歩美と忌み子を混ぜた物を人間にしてどうするか見てみたいわ。最初はそれが目的なんでしょ」


「たしかにそうだが……」


「あの歩美の強気が、忌み子の弱々しさで半減出来るかもしれないじゃない。今までこき使われた恨み、晴らしてあげるわ。フフフフフフ……」


 アーネが不気味に笑っている。

 歩美よ、どんだけアーネ達を使ってんだよ……。

 飛鳥と角人の面倒に農家の手伝いでよっぽどストレスたまってんだな……。


「では、私も協力してもいいですか?」


「いいわよ。その代わり私の助手だからね」


 フクロダさんとアーネは早速スライムの調整を始めた。

 アーネが両手をかざしてフクロダさんがスライムをいじっている。


「ノーマルディア、その濃い右の部分を3割を片方にやって、その分もう片方は左を多めに」


「了解です」


 フクロダさんは言われた通りにスライムの核に濃い部分の右側をくっつけた。

 スライムの何がどうなのか俺には全くわからない。

 これはアーネにしかわからないだろう。

 そんな感じで数時間後ーー。


「よーし、これでいいわね」


 俺の目の前にはマーブル状のスライムが二つ浮かんでいる。

 どうやら完成したようだが、見た感じさっきのスライムを半分にしただけなんだが……。


「あとは薬が切れるのを待つだけね、あとどのくらい?」


「あと……一分くらいですね」


 フクロダさんが時計を見ると、あと一分で人間に戻るらしい。

 あれから二時間くらい経っているから、効力はそれぐらいか……。


 プルプル……。


「ん?」


 プルプルプルプルプルプルプルプルプル。


 二つのスライムがプルプルと携帯のバイブのように震えだした。


 ムクムクムクムク。


 震えたスライムの中心部が盛り上がり、それがどんどん高くなり、ウネウネと二本の枝のような者が生えてきた。

 下に二本の足が生え、胸元に二つの膨らみが出て、二つのスライムの水溜まりだったのが、完全なに人の形になった。

 そして髪や目、鼻、口、なども現れて、その姿は完璧な人となった。

 今俺の目の前には半分黒、半分茶色の髪が左右反転し、文字どおり歩美とニコを足して二で割った双子の……全裸の女の子がそこにいた。

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