宇宙人伝説2
アタシと金山は村長の家の前に着き、木の引き戸を開けた。
「村長ー! 来たよー!」
そこにはハゲ頭にタンクトップにパンツだけの姿でうちわをパタパタして歩いて来る爺さんがいた。
村が合併してから村長では無くなったけど、この辺の人は皆「村長」と呼んでいる。簡単に言えばあだ名みたいな物だ。
「ん? おお金蔵の孫か。
「充春?」
「耀助の死んだおじいちゃんのこと。村長、アタシ達一緒の自由研究してんの。耀助は別の所に行ってるから」
「そうか。そっちのは彼氏……ではないみたいだな。まぁ中入れ」
「だって、ほら金山も入って」
「いや、あのさ兵藤……あの村長さんのパンツ丸出しはスルーでいいの?」
「スルーというか、村長って結構裸率が高いのよ。特技が腹踊りだし、雪の日に庭で乾布摩擦したりしてるし。だから見慣れた」
「あーそう……まぁ兵藤がいいならいいけど……」
改めてアタシと金山は村長の家に上がった。
村長に居間に案内されて、今は使ってない囲炉裏にの周りに座らされた。
「そんで、宇宙人伝説についてだったか」
「うん、なるべく詳しく」
「あぁ、そうだな……あれは神主さんに外国人が降りて来たことを聞いた後のことじゃの~ーー」
それは村長がまだ村長ではなく村の青年団にいた時のこと。
神主さんから外国人のことを聞いた後、一週間で8人の外国人が山から降りて来た所を見たらしい。
目撃者の話によると、その外国人はそのまま逃げるか、右手をかざして逃げるかして、その後の行方は不明。
そこで当時の村長は村の若い男性達集めて山の探索に向かった。
当時の山は熊や猪が多く住み着いて、猟師以外は無闇に近づかない。
探索に向かうと男達は驚いた。
そこには何人もの足跡、たき火の跡、熊らしき大きな骨とその近くの地面に刺さった木を削って作った槍。
明らかにここで生活をした跡がそこにはあった。
「ーーそれでわしらは交代で山を一ヶ月間見張っておったんじゃが、それっきり見ていないし、外国人は村にも来なかったんじゃ」
「その外国人は全員その場所にいたんですか?」
「おそらくはの……足跡もバラバラじゃったし、足跡が途中から始まった。まるで宇宙人がUFOから降りて来たように……」
「なるほど……あの村長、申し訳ありませんが氷のうか冷やしたタオルをもらえませんか? 兵藤の頭が限界のようなので……」
アタシは村長の話は聞いたが、全く内容が頭に入って来ない……。
なんか頭が痛いし変な熱が出て来た……。
「おうおう、タオル持ってくるからちょっと待て」
あれ……なんか知らないけど、村長が台所に向かった……。
パン!
「なぅ!? あれ? 私は何を?」
「目が覚めたかい兵藤?」
いきなり金山がアタシの顔の前で手を叩いて、なんか正気に戻った気分。
「兵藤はどこまで理解したかな?」
「えーっと……外人が……山から降りて来て、もしかしたら異世界人って話だっけ?」
「んー……そうだけど話はほぼ聞いてないみたいだね」
「それで金山は何かわかったの?」
「んー……まぁ数個の謎が出て来たね」
「謎?」
「うん、まず『どうしてこの村に異世界人が来るのか』ってことだね。別にここはフクロダさんのいる世界とは何の因果関係もないはずなのに、何でここにワープしてきたのか、だね。次に『ワープされる場所』。昔は一定の場所でワープされているのに数十年後にはフクロダさんに聞いたら森の中、ニコさんは耀助の家の庭と数十年の間にワープの場所がバラバラになったこと。あとは……って兵藤?」
ドウシテココニ……ムラニワープ……イッテイナノニ、バラバラ?
「兵藤大丈夫!? 頭から煙が出てるよ!」
金山が何言ってるのかわからなくなった。
また頭が熱くなったし、痛くなった……。
***
三組目、岩下・浅羽ペア(元駐在宅)
バサバサバサバサ!
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
俺と浅羽っていう女は自由研究とかでこの辺で昔駐在をやってた人の家に向かっている。
鯵坂が書いた地図を頼りに向かってんだが……。
「おい、くっつくな」
「やだ! 無理!」
一向に進まねぇ……。
その元駐在の家はどうやら仕事を辞めてから森の奥で農業をしてるらしい。
それで今森にいるんだが、どうやらこの浅羽は鳥にトラウマがあるらしく、鳥が羽ばたく音を聞いては俺に腕にしがみついて、その場から動かない。
ただでさえ宿題だけでもめんどくせぇのに、全然先に進まないのもめんどくせぇ。
だが……無意識なのか腕にものすごく胸が当たってる。こいつ外見以上に胸があるんだな。
「……失礼しました。取り乱して」
「あ、ああ」
冷静を取り戻して浅羽は俺の手を離した。
「兵藤さんの言った通り、都会とは違って多いけど近づくことはないんですね……」
「そ、そうか……んじゃ行くぞ」
話が弾まねぇ……ただでさえ女と話すことなんてねぇのに、あってまだ間もない奴と二人っきりって気まず過ぎんだろ……。
「あ、あれですね」
森を抜けると、広い畑に木で出来た平屋の家があった。
畑には何かを収穫しているおっさんがいた。
俺達は近づいて浅羽が声をかけた。
「すみません」
「はい?」
「丸々高校の者なんですけど」
「あーはいはい、話は鯵坂さんに聞いてますよ。すみませんがもうすぐ作業が終わりますので中で待っててください。鍵は開いてますので」
そう言われて俺と浅羽は中に入った。
中はほとんどが木で出来た家具、農業の道具とかがあって、囲炉裏もある。都会暮らしのうちとはえらい違いだ。
俺達はテーブルにある座布団に座り、しばらくすると……。
「いやいや、お待たせしました」
奥からジュースを持った元駐在がTシャツ姿のおっさんが出て来て、向かいに座った。
「すみませんね、トマトを収穫して体を洗ってたら遅くなりまして」
「あ、いえ」
「ジュースをどうぞ。それで宇宙人伝説についてでしたね」
「はい、自由研究のお題として聞いております。できるだけ細かくお願いします」
「う~ん、とは言ってもあれは多分外国人が多く山から降りて来たっだけだと思うんだけどね」
まぁ、そうだろうな……。
スズはフクロウ男の同じ世界のやつがどうのこうの言ってた気がするが、やっぱり偶然か。
「ここがまだ村だった頃、当時の村長に言われて、山の調査をしたんだけど、全然見つからないからやめたんだけどね」
「ではその外国人は見なかったんですね」
なんかこっちは不発みたいだな……。
「……実はね、僕、その外国人と暮らしてたことがあるんだよね」
「「え!?」」
おいおいマジかよ……。
よく見ず知らずの外国人と暮らせるな。
「僕がまだここで駐在をしていた頃ーー」
この人の話によると、この人がまだ駐在をしていてパトロールをしていた時、今いるこの森の近くで外国人が倒れていた。
ボロボロの布を着て、茶髪で碧眼の高校生くらいの若い女性だったそうだ。
可哀想と思い、彼女をおぶって家に連れて帰り、村の人には内緒で彼女の面倒を見た。
彼女は「ラナ」と名乗ったが、それ以外黙ることが多く、自分のことは語らなかったし、駐在も彼女のことを聞かなかった。
しばらく交番から離れた自宅で彼女と一緒に暮らし、彼女も献身的に駐在の手伝いをした。
駐在はこのまま結婚しようと考えてもいたらしい。
それから三年が経ったある日。
駐在の家に同じような茶髪のおっさんが現れた。
男はラナの父親のようだ。他県で就職をして収入が安定したから探していたみたいだ。
ラナは喜び、駐在はラナの幸せを考えると、結婚のことは言えずにそのまま父親に引き渡し、彼女とは別れた。
「ーーということだね。ラナとはそれっきり会っていない。今頃どうしているんだろう……」
「そうですか……」
駐在があの頃を思い出したのか、悲しい顔をしていた。
それにしても、その山から降りて来た外国人はそのまま日本で働いているってことなのか……金持ってるってことか? 外国の金って使えんのかな?
「あ、そうそう、実はラナの日記があるんだよね」
「え!?」
駐在が立ち上がり、本棚をあさっていると……。
「あったあった、英語だから全然わからないんだけど」
そこから古いノートを持って浅羽に渡した。
鉛筆で書かれた日本語じゃねぇ文字が書かれている。
「全くわかんねぇ……」
「これは英語でもないですね。アルファベットじゃないですし」
「マジか……」
英語でもないのかよ。
もしかしたらスズの言うとおり、異世界の文字か?
「あの、少しこのノート借りていいっすか? もしかしたら翻訳出来る人かもしれないんで……」
「うんいいよ。自由研究の役に立つならそれくらい。あ、でもちゃんと返してね」
「うっす」
「岩下君、誰が翻訳出来るんですか?」
「多分、あのフクロウ人間が」
「…………っ!」
鳥嫌いの浅羽が青い顔をして鳥肌をたてた。
よっぽと嫌いなんだな……。
「大丈夫だ! お前は先に帰って、スズに電話で聞いてなんかこう……紙にまとめる役すればいいだろ!」
「そ、そうしますありがとうございます感謝します」
浅羽は早口でまるで凍えているかのようにブルブルと震えている。
とりあえず浅羽は俺にノートを渡して、ここから出ることにした。
とりあえず浅羽が駐在の話をメモしてまとめてたみたいだし、それを見せればいいだろ。
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