宇宙人伝説

 8月に入り、俺達六人は自由研究のために俺の家に集合した。

 歩美、ニコ、浅羽さんにも相談し、三人も参加することになった。


「それでは皆さん! 自由研究頑張りましょう!」


「「「「「おー」」」」」


「……って、何でフクロダさんが仕切ってんの?」


 今日はバイトが休みなのかなぜかフクロダさんが張り切っている。

 皆も手を挙げてノリいいな。


「光太さんに言われて、皆さんのお手伝いをすることになりました。何かあったら言ってください」


「あぁそう……特にないし、これは自分達でやることだし、浅羽さんが倒れて逆にマイナスになってるんで、歩美の家にでも行っててください」


「ひどい!」


「浅羽さんしっかりして!」


 浅羽さんがフクロダさんが現れてすぐに立ったまま気絶し、歩美が声をかけている。

 フクロダさんは落ち込みながら歩美の家に向かった。

 アーネと喧嘩しなければいいけど……。


「じゃあ浅羽さんが起きるまで段取りを決めようか?」


 金山が言いだした。

 浅羽さんがこれじゃ仕方がない。


「そうだな。じゃあ家に行くか」


 結局俺は家に戻ることになった。

 ずいぶんグダグダなスタートだな……。


 浅羽さんを居間に寝かせて、俺達はちゃぶ台を囲って段取り決めを始めた。


「じゃあこれから行くのは、元村長の家と元駐在さんの家と、神社だな。それで皆で行くのは効率悪いから三つに別れて二人一組で行くでいいかな?」


「そうだね。それで耀助、誰がどこに行くかっていうのも重要だよね」


 金山がニヤニヤしながら歩美の方を見ている。

 歩美の方もニコとなぜかにらみ合ってるし、何でだ?


「……ああ、頭が悪い同士で行っても、記録が出来なそうってこと?」


「アハハ、耀助ってホントバカだよね」


 笑顔でバカにされた!?

 金山ほどじゃないけど、テストは平均以上は取ってるよ!


「でも一理あるかもね。じゃあ赤点組と通過組、それぞれ一人ずつペアを組むってことで」


 そう言うと、歩美とニコのにらみがより鋭くなった気がする。


「じゃあ、僕、耀助、浅羽さんと兵藤、ニコさん、ユイであみだでもして決めようか。だから寝てないで起きてユイ」


「ん、ああ……めんどくせぇ」


 そういえばさっきからいないと思ったかもしれないが、岩下が床にごろ寝してめんどくさそうに起き上がった。

 全然乗り気じゃないからな……。

 ということで、金山があみだを作ることになり、グループ分けを決めることとなった。



 ***



 一組目、耀助・ニコペア(神社)


 俺はニコと組むことになり、神社に向かっている。

 これから向かう神社は鳥居をくぐると、険しく長い石段を上がらなくてはならない。


「はぁ、はぁ……ニコさん、大丈夫ですか?」


「あ、はい平気です」


 暑さと険しさで汗だくの俺に対し、後ろから来るニコは涼しい顔をしている。

 さすが異世界人、モンスターと戦う分、体力はあるな……。


 ようやく階段を上りきると、そこには広い敷地に小さい神社、そして隣にそれよりでかい日本家屋があった。

 神主さんの家の玄関にはインターホンがないため、俺は玄関の引き戸の窓をガンガンと叩いた。


「神主さん耀助です! いますか!」


 俺が大声で叫ぶと、奥から足音が聞こえた。

 そして引き戸が開くと水色の袴の老人が現れた。


「お~耀助か。元気じゃの~」


「どうも」


 神主さんはこの神社で初詣したり、下の通りで祭りをするため顔見知りだ。

 よく歩美のおじさんがやる屋台を手伝わされたり、後夜祭としてこの家で神主さん達の飲み会でこき使われたりと疲れる。


「これ、父からアメリカ土産です」


 俺は神主さんにアメリカのビールが入った段ボールを見せた。


「おー悪いの~! そんじゃ中に入れ」


 神主さんは酒が好きなためテンションが上がった。

 酒を土産にしたのは正解だった。

 俺とニコは中に入った。


 ビールを台所に置き、神主さんは麦茶を用意し、お茶の間に座らされた。

 人見知りのニコは俺で半身を隠して、しがみついている。

 ニコさん……胸が当たってるっす……。


「そんで耀助、何の話を聞きたいんじゃったっけ?」


「宇宙人伝説についてです。山から来た人の」


「ああ、そうじゃったな」


「神主さんは第一発見者なんですよね」


 父が言うには神主さんが初めて異世界人(仮)を目撃したらしい。


「ああ、あれはまだわしがまだ神主になってまだ間もない頃のことじゃーー」


 神主さんの話では若い頃、下にある鳥居周りのゴミ拾いをしていた時のことだった。

 ゴミを拾っていると、向こうから誰かが来た。

 それは茶色い髪に青い瞳をし、薄汚れた白い薄着をした背の高い男性だった。

 男が来た道の方には山しかなかったため、神主さんはおかしいと思った。

 試しに話しかけてみたが、男は右の手の平をかざして警戒し出した。

 神主さんは下手な英語とジェスチャーで表現し、少し待ってもらい、家に戻ってお昼に食べようとしたおにぎりを持ってきて男に差し出した。

 そして男は涙を流し、最後に「感謝する」と言ってどこかへ行ってしまった。


「ーーそれで日本語通じるんかい! と思いながらそのまま行ってしまっての~」


「それを初めにして山から人が降りて来たと……」


「そうじゃ、それが宇宙人伝説の始まりじゃ……あ、麦茶のおかわり持ってくるかの」


 神主さんは台所に向かい、俺はその隙にニコと話すことにした。


「ニコさん、やっぱりこれって『次元の穴』から来た異世界人ですか?」


「おそらくは……右手をかざすというのは魔法を出す仕草ですし、我々と同じ日本語が通じるみたいですし」


 やっぱりフクロダさんと同じ次元の穴から来た異世界人か……。


「なるほど……今更だけどなんで異世界人って日本語通じるんですか?」


「私達の世界にある次元の穴の入口には『万能翻訳魔法の陣』がありまして、それをくぐることによって、どんな国の言葉を理解することが出来るんです。どこに繋がっているのかわかりませんし」


「なんて便利な……ん? ニコさんのいた世界って別世界があることわかってたんですか?」


「え?」


 よく考えると自分がいる世界とは別の世界があるなんて思わない。

 知ってなくちゃ、その翻訳の魔法陣なんかやらないはず。


「ここでは別の世界なんて空想であって、あるとは思いませんから」


「えっと、それはーー」


「ほれ、麦茶じゃよ。ついでに東京の娘からもらった菓子も食ってけ」


 麦茶と和菓子を持ってきた神主さんの言葉にニコの質問を遮られた。


「さて、続きを話そうかの……」


 神主さんも座り、話の続きを話始めた。

 まぁ、その話は帰りでも出来るからいいか……。



 ***



 二組目、歩美・金山ペア(元村長宅)


「む~……」


「兵藤、耀助と一緒になれないからってむくれないでよ」


「べ、別にむくれてなんかないわよ!」


 アタシ達は金山と一緒に元村長の家に向かっている。

 耀助と組みたかったのに、あみだくじを悩みに悩んで決めた結果、金山とだし……。


「ハハハ、顔だけで心の声がすごいわかるけど、僕がハズレみたいでショックだな……」


「ギクッ!」


 金山っていいやつだけど何考えてるのかわからない上に心の声をエスパーみたいに見透かす所は苦手だ。


「あれよ」


 私が指差したのは大きな茅葺き屋根の家。

 周りには家がなく、畑と広い森しかない寂しい所だ。


「あそこが元村長の家?」


「うん、よくじいちゃんと将棋する仲だからよく知ってるのよ」


「将棋で思い出したけど、兵藤の家族って全員将棋の駒の名前なんだよね」


「何で知ってんの!? たしかにじいちゃんが金蔵、ばあちゃんが銀子、お父さんが将太郎でお母さんが香織、そんで飛鳥と角人でアタシ、歩美。母さんが家に来てから名前を将棋に絞ることにしたみたいよ」


「ふーん……将、将、王車、兵、車、行、あとは桂馬か……」


「うん、お父さんが『じいちゃん、ばあちゃんが生きてるうちに耀助と結婚してガキ産め』って言っててね……」


「兵藤自身も満更じゃないんでしょ?」


「そりゃそうよ! 突然現れたニコちゃんにずっと好きだった耀助に取られてたまるか……って何言わせんのよ!」


「ぐふっ!?」


 アタシは金山に腹パンを食らわした。

 勢いで言って、あ~恥ずかしい~。


「兵藤……暴力はよくない……耀助ほど丈夫じゃないから」


「いいから行くわよ!」


 アタシと金山は再び元村長の家に足を進ませた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る