浅羽さんとユイ?
ニコの転校から数日が経ち、ニコは学校に慣れつつあった。
特にいじめもなく、安全で有意義な学園生活を過ごしているため安心している。
「はい、それでは5人組になってまとめてください」
今は理科室で科学の授業。
班を組んで実験をして、それをまとめるという黒板の字をノートに写すよりは退屈しない授業である。
うちのクラスはニコを入れても少なめの30人で6組は出来る。
そしてそれぞれ決まった班の中、俺と歩美、金山、ニコ、そしてあと一人はーー。
「浅羽さん、こっち」
「…………ん」
俺が呼んだのは
ニコが来る前はこの四人で班を組んでいるだが……。
「……では私がまとめるので実験をお願いします」
「「「はーい」」」
「…………」
俺が返事をする中、歩美だけが返事をせずにいた。
いつも他の女子と喋る歩美でも浅羽さんとはあまり喋らない。
そう……浅羽さんはクラスに馴染めずにいるのだ。
そして俺と金山とニコが実験する中、浅羽さんがノートにまとめる。そして歩美は居眠り…………いや起きろよ!
チャイムが鳴り、俺達は浅羽さんがまとめたノートを写して授業が終わった。
「クー…………」
「起きろよ!」
「あだっ!」
俺は居眠りしている歩美の頭をはたいた。
「全く……どうして浅羽さんと仲良くしないんだ。同じクラスになったこともあるのに」
「だってあの『ニワトリ事件』からちょっと話しづらいというか……近づきづらいというか……」
「あの浅羽さんとは仲がいいんでしょうか?」
「あ、いや、昔彼女は田舎側にいて、小四まで一緒だったんだよ。その後都会側に引っ越したけど……」
「それで耀助、兵藤の言ってた『ニワトリ事件』っていうのは?」
「ああーー」
浅羽さんは色々な噂があるのだった。
小三の頃、彼女は小二でもしていた飼育委員を小三になってからはニワトリ小屋を無茶苦茶にしてニワトリにも傷をつけたという謎の行動をしてクラスの皆から距離を置かれていた。
高校で再会しても彼女はなにもないのに何かに驚き逃げ惑っている姿を見かけ、何かヤバイ薬をやってるんじゃないかという噂もある。
そのため浅羽さんはクラスに馴染めずにいていつも一人で読書をしている。
「ていうか、そんな中で耀助が自分から浅羽さんの所に行ってるし……」
歩美がブツブツとぶーたれた顔でそう言った。
俺が浅羽さんと定期的に話す理由はあることを知っているため、同情と責任でそうしている。
その理由はまだ言えないけど……。
科学の授業が終わり放課後。
俺達は帰る準備をしていると、どこからかドアに泣いている女子とそれを慰める女子がいた。
気づいた歩美がその子の元へ向かった。
「どうしたの?」
「あ、歩美聞いてよ! この子、金山君に告白してフラれたのよ!」
「ああ、また……」
どうやら泣いてる彼女は金山にフラれたらしい。
金山はずいぶんとモテる。しかし理由はわからないが告白されても受け入れることはない。全く罪深い男だよ……。
「一体なんて言ってフラれたの?」
「その……『付き合ってる人がいる』って……あと携帯鳴った時に画面に『ユイ』書いてあって……」
「はいはい、辛いだろうからこれ以上喋らなくていいから。それじゃあね」
そう言って女子達は帰っていった。
あの金山に彼女? そんなこと聞いたことないぞ。
「ユイね……うちのクラスにはいないし、先輩か他校の生徒かな」
「でもさ、付き合ってるならそっち優先にしない? 中学の頃も今も結構遊んでるし」
言われてみればそうだな……。
金山はあまり自分のことは喋らない。
家族のことや家の場所も知らないし謎が多いな……。
「あ、金山さん」
ニコが窓から外を見ると、そこには金山が歩いていた。
用事があるって言ってたから先に帰ってると思った。
「ね、尾行しない?」
「おいやめようぜ、そんなストーカーみたいなこと……」
「ええいいじゃん! もしかしたらユイって人にも会えるかもしれないよ」
「それは……気になるな」
たしかに金山だけ秘密にしてるっていうのもあれだし……決して彼女がいるという嫉妬じゃないぞ!
というわけで俺達は金山を尾行することになった。
***
俺達三人は金山を尾行していると、駅から少し離れた住宅地に着いた。
いつもは駅周辺しか来たことないため、ここは初めて見る所だ。
「この辺って一軒家とマンションばかりで店とかが少ないわね」
「やっぱこのまま家に帰るんじゃ……あ」
金山が狭い路地裏に入っていった。
近道かそれともホントに「ユイ」に会うためか?
俺達も追いかけて入って行くことにした。
路地裏に入るとそこはずいぶんと入り組んでいて、おまけに道幅が狭い。
金山は慣れているのかスラスラと歩いて行き、いつの間にか見失った。
「どうしよう……金山を見失った」
「どうしますか? 一度引き返した方が……」
「もしかしてアタシ達に気づいたとか?」
「おい」
「可能性はあるかもな。金山って勘が鋭いし……」
「あの、普通に金山さんに後日直接聞いたほうがいいのでは?」
「……そうするか」
「おい」
「「「………………」」」
あれぇ~さっきから後ろから俺以外の男性の低い声の「おい」が聞こえるんだけど……。
そして今更ながらのこの威圧感……。
後ろを振り向くと……。
「さっきからシカトしてんじゃねぇよ」
うぉう……そこには背が高く柄の悪いTシャツ、筋骨隆々の中心が黒であとは金髪とプリンみたいな髪色の男だ。
しかも持ってんのは若干凹んだ使い古した鉄パイプ……明らかにザ・不良の男だ。
「お前らあれか? スズをコクりにやってきたストーカー共とその他か?」
スズ? ……あ、金山 (
もしかして歩美かニコが金山を告白しに来て着いてくると勘違いされて、ん?「その他」って何?
「どうなんだコラ」
不良が鉄パイプを肩でトントンと叩きながら、俺達を睨み付ける。
ニコが俺の後ろに隠れて、俺は歩美の後ろに隠れた。
ハッハッハ、女に盾にしてもらうほど情けないさ俺は!
「アタシ達はただ金山って奴を尾行しただけよ!」
「だからスズのことだろうが」
「誰よスズって。鈴木? すずって女の子? アタシ女の子に告白なんてしないわよ」
「だから涼樹のことだろうが」
「だから鈴木じゃなくて!」
もうややこしい!
不良は言葉が少ないし、歩美は金山の名前を忘れてるし、お互い誤解しあってる!
不良が恐いから俺は歩美の誤解を解いた。
「落ち着け歩美! この人は涼樹、つまり金山の知り合いなんだよ」
「え? …………ああ、そうか」
ようやくわかったか……。
「んで、何で尾行なんてしてんだ?」
さーてこの不良に何て言おう……。
普通友達を尾行なんてしないし、素直に言っても信じてもらえなさそうだし、ストーカーって言ったら殴られそうだし、どうすれば……。
あれ? よくよく考えるとこの不良が金山の友達ってことは金山は不良!? 盗んだバイクで窓ガラスを割る人!?
だから金山は自分のことを話さないのはそのためか……。
「あ、いた! おーい……って耀助? と皆?」
俺達がピンチの時に不良の後ろから金山が私服姿で現れた。
「おおスズ、こいつら知り合いか?」
「ああ、知らなかったっけ。前に言ってた耀助と兵藤とニコさん」
金山が俺達を指差して紹介した。
「ああ、こいつらが……。んでなんで尾行したんだ?」
「尾行?」
「あ、いや! その……今日金山がフった女の子に『ユイ』って彼女がいるって言うから気になって……」
「そうなんだ……でもプフッ! 兵藤、ユイって彼女じゃないよ」
金山が吹いて笑った。
「「「え?」」」
「ね、ユイ」
「…………」
金山が向けてそう言ったのは、不良である。
え、ユイって……この不良!?
「紹介するよ。こいつは
「ユイで呼ぶんじゃねぇよスズキ!」
「そっちこそその名前で呼ぶな! 昔みたいに『ユイちゃん』って呼んでやろうか!」
「ああっ!」
ああ、この二人って名前にコンプレックスがある同士で仲良くなったんだな……。
「そういえば隣の組だけど、見かけたことないな」
「あんま行ってねぇんだよ。中学から他校のやつに喧嘩売られてるし、なにより勉強だるいし」
この人、留年するんじゃないか……。
「ストーカーじゃないならいいや。これから学校で会うときはよろしくな」
「あぁ、こちらこそ。とりあえず名前が嫌なら岩下でいいかな?」
「そうしてもらえると助かる」
見た目ほど悪い人ではなさそうだな。
これで金山の彼女疑惑も実は不良疑惑も解決したな。
「あっユイ。これ宿題のプリント。じゃあ僕急ぐから」
「おお」
金山は岩下にプリントを渡し、そそくさと去っていった。
「金山さん、行っちゃいましたね……」
「金山急いでたけど、どこ行くんだ?」
「どうせ彼女の所だろ」
「「「へー……え!?」 」」
岩下がサラッとそう言った。
「え、いるの!? リアル彼女!?」
「ああ、詳しくは知らんが、年上とか言ってたぞ」
「年上……」
いきなり出てきた不良の幼馴染みと年上のリアル彼女……。
金山の謎が更に深まった気がする。
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