転校生ニコ

 今日からニコが学校に来る。

 俺は教室で少しばかりの不安を抱きながら座って待っている。

 ちなみにうちの1組に来ることは決まっている。

 父が言うには「知り合いが近くにいないと発狂する」などと嘘八百並べてそうしたらしい。

 父よ、これじゃあニコがヤバい奴みたいになるからもうちょいましな言い訳しろよ……。

 でも大丈夫かな……一応学校行く前まで予行練習したけど心配だ。


「耀助、もうすぐニコちゃん来るね」


「ああ」


 歩美と金山がこっちに来ると早速ニコの話題だ。


「大丈夫なの? お香もないのに」


「ああ、フクロダさんが首もとに匂いがついたアクセサリー着けるみたいだから終始嗅げるようにしたみたいだ。だから大丈夫だろ」


 うちの学校は校則がゆるい。

 入れ墨とかピアスとか体に傷をつける系じゃなければ問題はないらしい。


 キーンコーンカーンコーン♪


「はーい皆、席について」


 チャイムと同時に船橋先生が教室に入ってきた。


「えー突然だけどうちのクラスに転校生が来ることになりました」


『いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


 クラスの皆が盛り上がっている。


「先生! 男と女どっちですか!?」


「女の子です」


『いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


 女子と聞いて男子だけがテンションを上げた。

 先生は全く動じていない。

 今年から来た新任なのに肝が座ってるな。


「はい、このまま質問攻めが来ると出て行きづらいと思うから、ニコさん入って来て下さい」


 先生がそう言うと、学校の制服である赤いスカーフのセーラー服を着たニコが恐る恐る入って来た。


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 ニコを見た男子一同が喜びの雄叫びを上げた。

 気持ちはわかる……いつも同じような服を着てるからすごく新鮮な感じだ。


「何あの子かわいい!」


「おまけに胸がでかい!」


「いい匂いするし!」


「犯したい!」


 男子の称賛の嵐が止まらない……って最後なんて言ったおい!?


「はい静かに! ニコさん自己紹介してもらえる?」


「は、はい……」


 ニコはチョークを持って黒板に大きく自分の名前を書いた。


「あの……ニコ・シウラと申します。外国から来ました。皆さんより一つ上の17歳ですがよろしくお願いいたします」


 よし! ちゃんと喋れてる!

 やっぱり落ち着きの香(仮)が効いてるようだ……って17!? 俺より年上なの!?

 なんか年上って感じがしないんだけど……。


「えー、ニコさんは学校がない田舎出身なので初めての学校生活です。皆は困ったことがあったら助けてあげてください」


『はーい!』


 とりあえず第一印象は大丈夫みたいだけど……なんだろうな……色々心配で安心できない。



 ***



「ねえニコさんってどこの国から来たの?」


「部活は決まった?」


「付き合ってください!」


「え……その……」


 HRが終わるとクラスの皆がニコの席に殺到してきた。

 転校生ということもあるが、それにプラスして外人、綺麗な容姿もあり、クラス中は一層盛り上がっている。

 あと誰か出会って数分でプロポーズ言ったなおい。


「ところでさ……何で鯵坂にくっついてるの?」


 はい来た! やっぱ指摘しますよね!

 俺の席は黒板側から見て右から二番目の一番後ろ、そしてニコが座ることになったのはその隣、窓際の一番後ろだ。

 そして今、ニコは俺の制服の裾をつかんで離さない。

 一辺に何人もの質問攻めにどうしたらいいかわからないでいるようだ。


「何何? 二人は知り合いなの?」


「はいあの、父親同士が知り合いでして、そのご好意に甘えてこの学校に来ました……」


「おい鯵坂、こんな可愛い子と知り合いなんて羨ましいぞ」


「あははは……」


 俺は笑ってごまかした。

 とりあえず怪しげな発言はしてないな。


「鯵坂ってたしか田舎側だよね。てことはニコさんもその辺なの?」


「はい、耀助さんの家でお世話になってます」


『……………………』


 ……教室は沈黙に包まれた。

 ……そういえば同居してことを言うなってこと言い忘れた……。


「鯵坂あぁぁぁぁぁ!! お前こんな可愛い子と同棲してるのか!?」


「うらやましいぞこの普通人!」


「地味男!」


「金山のコバンザメ!」


 男子が一斉に俺に罵声を浴びせた。

 ひどい言われよう! 男子の一人が俺の胸ぐらをつかんで前後に揺さぶった。

 おう……脳が揺れる……。


「あの止めてください! よ、耀助さんが何かしたんですか?」


「したよ! こいつは君のような可愛い子と一緒に住んでるといううらやまけしからんシチュをリアルにしてるという大罪を犯した!」


「うらやま? シチュー? で、でも私だけではないです。ノーマ……兄も住んでますし、部屋も別々ですし」


「あ、そうなの」


 男子が俺の胸ぐらを離した。

 あ~頭がくらくらする……。


「そっか~お兄さんいるなら安全か」


「そうだよね。初めての日本に女の子一人行かせるわけないだろうし」


「それにニコさんも鯵坂が好きってわけじゃないよね」


「え……」


 そう言われたニコさんの顔が少しばかり赤くなった。


「あ……その……」


『鯵坂あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 ニコの顔と態度を見た男子達が察し、一斉に俺に襲いかかってきた。

 その後の記憶は曖昧だった。



 ***



 時は刻々と過ぎ、昼休みになったから俺達四人で外で弁当を食っている。


「あ~いてて……」


「大丈夫ですか耀助さん……」


「あははは、体育の時間大変だったね」


「金山……他人事だと思って……」


 俺の顔は傷だらけだ。

 理由は4時間目の体育、男子はドッジボールで嫉妬に狂った男子達は俺を集中攻撃。

 顔面に当たっても顔面セーフだから外野に行けず、俺はずっと顔を当てられ続けた。


「あの、耀助さんって嫌われてるのですか?」


「違うよニコちゃん。男っての女性に好かれてるってだけで嫉妬する悲しい生き物なのよ」


 歩美が呆れを含ませながらそう言った。

 歩美よ、男をそんな心の狭い人間と思うな。

 俺はそんなことは…………あるかも。


「あ、だったら金山にも嫌がらせするはずだよね。金山結構女子に告白されるし」


「そうなんですか!? すごいですね!」


「いや……たしかにそうだけど……」


 金山が困った顔をしている。

 たしかに金山はモテる。よく女子にラブレターを渡してと伝えたものだ。


「あのな、金山みたいなイケメンだったら文句は言わないよ。でも俺みたいな地味な男子が女性と仲良くなったからああなったんだよ」


「「……ああ」」


 自分で言ってなんだけど、ああって何よ!?


「あの、耀助さんは地味じゃ……金山さんと比べても……も……」


 ニコさん! 言えないフォローは逆に傷つくよ!


「それよりニコさん、どうですか? 初めての学校は?」


「はい、黒い髪が多くてびっくりしました」


 学校の第一印象がそこかよ……と言いたいけど、黒い髪で悩まされたニコにとっては重要か。


「そうでしょ。ここにはニコさんの髪を悪く言う人はいませんから。えっと、それ以外では?」


「あの、クラスの皆がよくしてくれますが、初めてのことなので混乱して、何がなんだか……」


「まあ何かあったら俺達がなんとかしますから出来るだけでいいので頑張りましょう」


「はい!」


 ニコの頑張ろうとしている顔を見て俺達は昼食を終えた。


 そして放課後ーー。


「ねぇニコさん! 俺達といっしょに寄り道しない!? 鯵坂抜きで!」


「ちょっと男子! ニコさんは私と帰るの! あ、よければ金山君も」


 男子の集団と女子の集団でニコ争奪戦が始まっていた。

 女子は金山目的という下心がバレバレ。そして男子、俺を抜くってドユコト!

 男子多数にニコオンリーって明らかにバランス悪いでしょ!

 集団(ピー)待ったなしだよ!


「何で男たくさんでニコさん一人なの! あんた達なんかする気でしょ!」


「………………しないよ」


「今の間は何!?」


 今の間は何!? 俺抜きで何する気!

 ニコはこの状況に戸惑っている。


「あの……私はどうすれば」


「「俺(私)達と!」」


 男女の集団は一歩も引かない様子だ。


「ちょっと耀助! なんとかしないと!」


「おう……」


 なんとかするって言ったからな。

 俺はクラスの前に立ちはだかる。


「あの~ここはニコさんに決めてーー」


『うっさい!!』


「はい……」


 クラスの皆に一斉に言われ、俺はそそくさと去った。


「何してんの!」


「だってさ~、あんな大勢で来たんだよ~。勝てるわけないじゃん……」


 俺は涙ながらに歩美に訴えた。

 そしてそんなやり取りをしてる時に金山はスマホを操作している。


「金山は何してんの?」


「ん? ちょっと助けを……」


 助け? 誰か腕っぷしの強い奴でも連れてくるのか?


「ねえニコさんどうするの!?」


「えっと……その……」


 クラスメイトがニコに問い詰め、ニコが涙目になりながら口ごもっている。

 やばい、このままじゃ「え~何こいつ、私達と行きたくないの~」とか「こいつ調子乗ってる~」とかいじめルートに進む可能性が高い。

 ただでさえメンタルが弱いニコにとってはそれはやばい。一体どうすれば……。


「失礼致します!」


 と突然窓から声が聞こえたから全員振り向いた。


「何でチャイナドレスやねん!」


 そこにはチャイナドレスを着たフクロダさんがいた。

 この格好とツッコミにすごいデジャブを感じた。

 そしてそのフクロダを見た教室は静まり返った。


「どうも皆様、妹がお世話になってます。ニコの兄のフクロダでございます」


『兄!!?』


 クラスの皆はすごく驚いた。

 当然だ。美女の兄貴がフクロウ人間だもの。


「仕事帰りに寄らせて頂きました。引っ込み思案の子ですが、今後とも妹をよろしくお願いいたします。では」


 そう言ってフクロダさんは窓を閉めて行ってしまった。

 教室は静寂に包まれ、それを破ったのはニコだった。


「あ、あの……まだ心の準備がまだですから、別の日で……大丈夫でしょうか?」


『あ……はい』


 クラスの皆のテンションが明らかに下がりながらも了承し、これで解決は出来たけど……。


「何でフクロダさん来たんだ?」


「あ、僕が呼んだんだよ。初めて耀助の家に来た時メアド交換したから」


「ちょっと待って!? フクロダさんスマホ持ってるの!?」


「うん、ガラケーだけど。フクロウカフェの店長から借りた連絡用だってさ」


 なんだろう……金山が俺より知らないことを知ってるんだけど……。

 何はともあれニコの他人との付き合いはもう少し時間が必要であるため、終わってよかった。


 だが、フクロウ人間の妹ということがあったのか、次の日には昨日のチヤホヤはなくなり、プラマイゼロの状態になった。

 ニコ曰く俺達以外に免疫がないから丁度いいらしいからよかった。

 ありがとうフクロダさん。

 チャイナドレスを着て、変な感じで来てくれてありがとうフクロダさん。

 そしてそんな趣味の店長もありがとう。

 こうしてニコの学園生活はぼちぼちの状態で始まったのであった。

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