ニコのコミュ障対策
父がニコの学費を払うことになり、ニコが学校に行くことになった。
歩美と金山に電話すると、最初は驚きながらも喜んでいた。
そしてあれよあれよと事が進み、いよいよ明日登校することになった……のだが。
「あ、あ、あ……」
何でこうなった!?
ニコが家の柱にしがみつきながらなんかビクビクしてる。
「あの……ニコさん」
「ひぃ!?」
俺が話しかけると、青い顔をして悲鳴を上げた。地味にショックだ……。
「フクロダさん! 何でニコさんああなったの!?」
「実は昨日で『落ち着きの香』が無くなりまして……あれがないと今までの不安が一気に出て来て、あのように……」
何その落ち着きの香禁断症状は!?
つまり落ち着きの香がないせいで初めての場所、人間、その不安がドーンと来てああなったってことか?
普通あんだけお香を焚くと匂いが家中に染み込むと思ったが全然匂わない。
どうしよう……明日学校だし何とかしないといけないな。
「ほーらニコちゃん。怖くないでちゅよ~」
父がガラガラ鳴らしながらニコの周りをグルグル回って踊っている。
「あ、あぁぁぁ……」
「何かの儀式か!」
「蹴りごふっ!?」
俺は父を蹴り飛ばした。
ニコ超ビビってんじゃん!?
顔が青通り越して紫になってるし!
「耀助~」
「こんにちは」
俺達が悩んでいると、歩美と金山が縁側からやって来た。
このことを話したらすぐに来てくれた。
「おー歩美ちゃん! 久々だねー」
「おじさん久しぶり!」
「あ、初めまして、僕耀助の友達の金山と言います」
「あ、それはどうもご丁寧に、話は耀助から何度も電話でーー」
「へいあんたら! 何か長くなりそうだから後でいいかな!?」
とりあえず二人に今のことを話して、早速対策会議を始めることにした。
「つまり今までのニコちゃんはそのお香で今まで保ってたってこと?」
「はい、ニコはここに来るまでは私以外の人と話したことがないので……」
「それは相当ですね……」
「これはいわゆるコミュ障ってやつかな?」
金山の言うコミュ障とはコミュニケーション障害のことで、簡単に言えば極度の人見知り、対人恐怖症のようなものだ。
「なあフクロダさん、魔法でなんとかなんないの? こう、魔法で脳をボン! ってして性格を変換する感じのやつ」
「ありませんよお父さん。私は攻撃魔法専門ですからボン! なんてしたら頭が弾けます」
「ん~でも魔法使わないと、この物語のタイトル詐欺になるんーー」
「父よ、何の話をしてんだ?」
そんな作者の事情的発言は止めてください。
「そんじゃさ、まずフクロダさんが話してみたら? 一番慣れてるんだし」
「そうですね……行ってきます」
歩美の発言にフクロダさんはニコの元に向かった。
「ニコ、大丈夫ですか?」
「ノ、ノノノーマル様……だ、大、じょ、じょじょじょ、丈夫です」
大丈夫じゃねぇ……。
なんかDJのスクラッチみたい喋り方だ……。
フクロダさん相手でもああなのか。
「嘘です、無理です、恐いです。不安が一気に出て来て人が恐いんです……。きっと机に『呪』と書かれて、トイレしてる時に水かけられて、男子に集団で(ピー)されるんです……」
何そのネガティブすぎる学園生活!?
そして最後の(ピー)はなんで出てきた!?
「あ、それ、俺が深夜見てた『いじめられ女子高生。悲惨な肉奴隷ライフvol.1』っていうエロDVDだ。(ピー)についてなんとなくわかんなかったから一緒に見ダバ!?」
ヒュー…………ドォォォン!
「「あんたが原因かい!」」
俺と歩美が父を殴り飛ばして、縁側に吹き飛び、庭の木に激突した。
「ニコちゃんに先に(ピー)を教えてどうすんの!?」
「歩美、女の子が(ピー)言うなっていうかさっきから(ピー)多いわ!!」
「あの、お父さん大丈夫?」
「少し気絶させた方がいい……とにかくニコさん。学校はそんないじめがある所じゃないし(ピー)も絶対にないから」
「そうよ! 皆仲良くしてるから!」
「でも……私なんかに仲良くする資格なんて……」
「資格なんて関係ないよ。ここは仲良くしたいならしていいし、自由なんだよ。もし何かあったら俺達が助けるから」
「耀助さん……うぅぅ~」
おっほ、泣きながらいきなり抱きついて来た。
そっか……ただでさえ人見知りなのに、胸が大きい、こんな慣れない世界に来たんだから、そして柔らかい、辛いのは当たり前か。
ああどうしよう、胸の雑念が入って来ている……。
「んーんんーーんー!!」
「まあまあ」
そしてなぜか怒ってる歩美を金山が口と体を押さえてる。何故だ?
「とりあえずその人見知りのメンタルをなんとかしないといけないよね」
「そうなんですが……これはどうも……やっぱり落ち着きの香の匂いを嗅がないと」
「いい加減離して金山! ……あのさフクロダさん。そもそも落ち着きの香って魔法で作ったアイテムとかなの?」
「いえ、ただ私達のいた世界にしかない花や薬草を調合して作ったお香でして……」
「んじゃ、似たような匂いがあればそれでリラックス出来るんじゃない!」
「それはそうですが、私は完成品しか嗅いだことないので、材料まではーー」
「任せて!」
そう言うと歩美はダッシュでどっか行ってしまった。
俺はその間気絶した父を運び、縁側に寝かし、数分後ーー。
「お待たせ!」
「おい何なんだよいきなり!」
歩美が連れて来たのはアーネの使い魔のウルルンだった。
「ウルルンって狼でしょ! だったら似たような匂いとかかぎ分けることが出来ると思って!」
「人を犬扱いすんじゃねえ!」
「あんた人じゃないでしょ!」
「なるほど、アーネの家族もお香を使ってますし、その手の専門家を家に招いているから材料も熟知しているはず。でしたらわかりますねウルルン!」
「たしかに知ってるがやらない! なんでそんなことしないといけないんだ!」
「成功したら養豚場の商品にならない肉、たくさん食わせてあげる」
「やってやらあぁぁぁ!」
肉の誘惑に弱っ! まあ、歩美の家の食事ってほとんど野菜だから肉に飢えてるのはしゃあないか……腐った肉食うぐらいだし……。
「えっとたしかあのお香は花と薬草、それと果物も使ってたな」
「じゃあ花屋と八百屋に行って……薬草はどうしよう?」
「それ系の匂いとかなら僕の家の近くの香水の専門店とかも参考になるかも」
「んじゃ金山案内して! 行くよウルルン!」
「うぉっ!? 引っ張んなよ!」
歩美は金山とウルルンを連れて都会の方に行ってしまった。
歩美よ、行動力が半端ないよ。
「あ、の……耀助さん」
突然ニコがおどおどしながら話しかけてきた。
「ど、どうして皆さんは私のために……」
「それは歩美も金山も、もちろん俺もニコさんが学校に来るのを楽しみにしてるからですよ」
「え?」
「たしかにいじめとかはあるかもしれない。ですが友達になりたいって人がいるなら、その人のために少しでも勇気を出したほうがいいと思いますよ」
「耀助さん……」
「そうですよニコ、私のように魔法に熱中するあまり同年代の友達が出来ずに、使い魔に話しかけるような人間にならないためにも……」
フクロダさん、そんな悲しい過去聞きたくなかったよ……。
数字間後、歩美達が戻ってきた。
ウルルンだけ何故か息切れしていた。
聞けば二人は自転車でウルルンは走ってたらしい。
自転車で片道30分くらいの距離でそれは辛いだろ……。
そして歩美が持ってきたのがーー。
「レモンにヨモギに……香水?」
歩美が持ったビニール袋の中にはレモンとヨモギ、そして小瓶に入った薄いピンクの香水が入っていた。
「ウルルンの鼻を頼りに花屋とか八百屋に行ったんだけど花がなかったのよ。それで金山が言ってた香水専門店でそれっぽい物があったのよ。高かったけど」
たしかに聞いたことのない花の名前が書いてある。
しかしレモンとヨモギで出来るとは……。
「よし、材料さえ揃えば大丈夫。早速作りましょう」
そう言ってフクロダさんは材料を持って台所へと向かった。
フクロダさんは材料を全部細かくして、すり鉢とすりこぎ棒で潰して混ぜた。
台所からたしかに落ち着きの香に似た匂いがしてきた。
そして長年嗅いだ嗅覚を信じてレモンとヨモギを足して調節しーー。
「完成です」
ようやく完成した。
匂いをつければいいからお香ではなく液体にし、空のヘアスプレー缶に入れた。
しかも結構大量に作ることが出来たから残りは別の容器に入れた。
「さあニコ」
フクロダさんがニコの手を掴み、手の甲にシュッと吹きつけた。
そしてニコが匂いを嗅ぐと……。
「ハァ……似ています。心の底から安心する匂いがします」
おお! 喋り方が戻った。
表情にも笑顔が戻り、俺達は安心した。
匂いの力すげぇ……。
「皆さん、ご迷惑をおかけしました……」
「気にしないでよニコちゃん」
「これで安心して学校にいけるね」
「はい……私、勇気を出してがんばります! (ピー)されないためにも」
「「(ピー)はもういいって!!」」
こうしてニコのコミュ障対策は一時的ではあるが解決することが出来た。
そしていよいよ明日は登校日である。
……余談ではあるが。
「ああ、よく寝た……ぬお!? 何か台所から爽やかな濃い匂いが!」
台所からしばらく落ち着きの香(仮)の匂いが続いたのだった。
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