ニコの過去

 耀助さんのお父様のお陰で初めて学校に行くことになりました。

 私はこの世界に来て本当によかったと思っている。

 に比べたら……。



 ***



 私は王都のとある伯爵家の長女として生まれた。

 だけど私が生まれた頃から家族と一緒ではなかった。

 理由は両親も二人の兄も皆髪が茶色いのに私だけが黒……。

 ここでは黒い髪は『悪魔の生まれ変わり』と言われていて、忌み子として嫌われていた。

 そしてプライドの高い父は「我が家に忌み子が生まれたなんて知られたくない!」それを理由に私を地下牢に閉じ込めた。

 それからは日の光を浴びない、埃っぽい場所でメイドの乳を吸いながら生活をしていた。

 生かしていたのは唯一の良心である母のおかげだった。


 私は地下牢でメイド、時々母の乳を吸って、大きくなるにつれて一日一食の料理を運んできて過ごした。

 言葉も字も教わってないあのときの私は牢屋に閉じ込められた獣と変わらなかった。


 そしてある日からメイドも母も来なくなった。

 ただでさえ一日一食なのに料理が来ないと死んでしまう。


 あれからどれだけ経ったのか、空腹に耐えるも意識が朦朧としたなか……ある人が現れた。


 バンッ!


 突然地下牢から誰かが来た。


「大丈夫か!?」


 そこには白いフードを被り、顔がわからない。


「力よ上がれ! 『パワーアップ』」


 そう言うと牢屋を柵をひん曲げて、私を抱いて外に向かった。

 久しぶりに見た日の光が眩しすぎて、抱かれた人の着た布で顔を隠した。

 布を日除けにして外を見ると、町は瓦礫の山に囲まれて、死人も多かった。


 しばらくして私はフードの人の泊まった宿屋でご飯を食べて、動けるようになった。

 生きていたメイドに説明を聞くと、どうやら私は今6歳で、私の父は革命軍のリーダーとして、王様に反逆し、戦争を起こしたらしい。

 母も兄も父に逆らって殺され、今に至る。


 私は三人のフードの人達の話し合いを見ていた。


「この子、どうするんすか?」


「殺すに決まってんだろ」


「いえ、この子は私が預りますよ」


「はっ!? おいふざけんな!」


 黒いフードの人が白いフードの人の胸ぐらをつかんだ。


「おいノーマル! こいつは反逆者の娘で、忌み子なんだぞ! 世界の為にも悪魔の生まれ変わりは滅亡させた方がいいんだ!」


「私は忌み子なんて言い伝えは信用していない。現に彼女は生きているけど、平和だったじゃないですか」


「だが実際こいつが行き続けたから父親がおかしくなって反逆したんだ! そうに決まっている!」


「あなたと忌み子に何があるのかわからないですが罪もない子を殺すのはよくないですよ」


「忌み子は生きてるだけで罪だろうが! だいたぐがっ!?」


 次の瞬間、白いフードの人が黒いフードの人を殴り飛ばした。

 壁際まで飛んで、壁にひびが入った。


「そうですか……でしたら私は今日をもって魔法兵を辞めさせてもらいます」


「えっ!? ちょっと先輩!」


 白いフードの人が私に近づいて笑顔を見せた。


「あなたはこれから私と暮らしましょう」


 それが私とノーマルディア・エルトン・ヘルヴレイム様との出会いだった。



 ***



 ノーマル様は私のために魔法兵という王様の命令で動く優秀な魔法使いの仕事をあっさりと辞めて私を連れて帰ることになった。

 私はシウラの森という森の奥にあるノーマル様の家に住むことになった。

 ドアを開けるとーー。


「ただいま」


「ホーホー!」


「アオーン!」


「ニャー!」


 たくさんのフクロウ、オオカミ、ネコ達が出迎えてくれた。


「よーしよし、皆に仲間を紹介します」


 ノーマル様が抱いた私を使い魔達の前に出すとーー。


「ホオォォォォォォ!」


「グルルルルルルルル!」


「フシャァァァァァァ!」


「うあ!」


 フクロウがつつき、オオカミが噛みつき、ネコが引っ掻いて来た。


「あぁ! あうあうあー! うあぁぁ! 」


「こら! やめなさい!」


 私はどうやら動物に嫌われる体質だったようです。


「全く……そういえば名前はどうしましょう? あの状況から察するに無いと思いますし……」


「?」


 ノーマル様の言葉に首をかしげた。

 ノーマル様は少し考えるとーー。


「よし! あなたはニコと名付けましょう!」


「いお?」


「ニコニコ笑顔でいて欲しい。そしてこのシウラの森で新たな人生を過ごす。あなたは今日から『ニコ・シウラ』と名乗ってください」


 こうして私はニコ・シウラという名前になりました。


 まず私は二足歩行の練習、言語の読み書きなど6年の失った体力や知識を取り戻さなければなりません。

 ノーマル様の家には書物がたくさんあり、子供用の本もありました。

 基本的な単語、言葉の意味、そしてそれを書く練習。

 でもそれは苦ではなく逆に楽しかったので、どんどん知識が身に付き、わずか1年で年齢以上の知識を身につけた。

 ノーマル様も「まさかこんなに早いとは思わなかった」と驚いていた。

 逆に歩くのは大変だった。

 移動するとき足がおぼつかず、使い魔に邪魔されて中断されてしまう。

 使い魔は苦手だけど使い魔の中で一羽だけ邪魔しないフクロウがいた。

 名前はホーちゃんといい、使い魔の中で一番の古株である大きな茶色いフクロウだった。

 近づいても撫でても抵抗しないでじっとしていて唯一好きだった使い魔でした。


 ようやく歩くのに慣れた私は今度は薬作りを教わりました。

 薬草のすりつぶして魔力を注ぐ、この工程をしてポーションを作ってノーマル様が売る。

 ノーマル様の役に立った私はそれから薬作りに没頭していった。

 そして狩りの方も挑戦しようとしましたが……弓矢も当たらず、魔法も不発ばかり。

 唯一成功したのが石などの投擲でした。

 だからノーマル様が町に行って作ってもらった注射器に薬を入れて動物を眠らせる隙に狩る。

 こうして今の戦闘スタイルが生まれたのでした。


 そして月日が流れ、13歳のある日、あの子と最初に会った日……。


 突然コンコンというドアをノックする音が聞こえた。

 ノーマル様はそんなことをしないから別の人だ。

 恐る恐るドアを開けると、そこにはクルクルの髪型をした魔法学校の制服を着た少女がいた。


「ノーマルディアを出しなさい」


「……え?」


 いきなりノーマル様を出せと言われて困惑する私。


「まさか本当に忌み子を育てているなんて思わなかったわ。そんな不気味な髪の色をして、そりゃ町中を歩けないわよね」


「あ、あの……」


「それにしても……ずいぶんデカいわねその胸……そ、そんなんで勝ってると思ってんじゃないわよムキー!」


「えぇ……」


 いきなり現れて、いきなりけなされて、いきなり怒られて、私は戸惑ってばかりでした。


「おや? アーネですか」


 ノーマル様が食料を持って帰ってきた。


「どうしました? こんな森でお付きの人無しで」


「決まってるじゃない! 私の仕事を邪魔したあなたに決闘を申し込むわ!」


「はあ……あなたはまだ10歳なのに上級生の研修に無断で着いてきてピンチになったのを助けたのにそんな言い草ですか」


「うっさいわね! とにかく勝負なさい! でないとこの忌み子を吹っ飛ばすわよ!」


「えぇ!?」


 どうして私が巻き添えになるのかわからなかった。


「仕方がないですね……やりましょう」


 数分後ーー。


「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 ノーマル様の魔法でアーネという子は逆に吹っ飛ばされて星になりました。


「ふぅ……魔法学校側に飛ばしたから大丈夫でしょう。ニコ、ご飯にしましょう」


「……はい」


 あの子の言葉に気にしなかった髪を再び気にし始めた。

 私は悪魔の生まれ変わりの忌み子……それについての本もたくさん見てきた。


 私は普通の女性に憧れ始めた。

 もっとノーマル様の役に立ちたいし、どこかに行ってみたいし、恋愛もしてみたい。

 でも私は忌み子……一生この森にいるしかない。


「どうしました?」


「いえ、私に普通の生活が出来ないんだと思いまして……友達とか恋人とか作れないんだなと……」


「うーん…………ニコ、あなたはたしかに忌み子と言われた存在です。ですが私みたいにそんな言い伝えを信用しない者もいるはずです」


「そうでしょうか……」


「いつか現れるはずですよ。あなたのその髪を綺麗という人が……」


 そう言ってノーマル様は私の頭を撫でた。


「そうだ、試しに私の知り合いに会ってみますか? 彼もそういうのは気にしない方のはずです」


 私はその言葉に少しのわくわくを覚えながら待っていた。


 だけど……その約束は叶うことが無かった……。


 約束の翌日、家の近くにモンスターが現れた。

 その時にホーちゃんがノーマル様を庇って死んでしまった。

 ノーマル様は泣いた……。

 ホーちゃんはノーマル様にとって長年の相棒であり家族……。

 泣いてしまうのは当然である。

 それからというものの、ノーマル様はホーちゃんを生き返らせることに没頭した。

 生き物を生き返らせる魔法を使うのは禁術で大罪……ですが私はそれを止める権利はない。

 ただノーマル様は攻撃魔法に特化した魔法使いで、それ以外はあまり得意ではなかった。


 そして研究を繰り返し、月日は流れて3年後。

 ノーマル様は失敗した……。

 ホーちゃんと混ざりあってフクロウ人間になってしまった。

 そしてどこから嗅ぎ付けたのかノーマル様は魔法兵に捕まり、罪を犯した罰として魔力を失い、「次元の穴」に落ちてしまった。


 ノーマル様がいなくなってから私は散々でした。

 使い魔は逃げ出し、モンスターに家も壊され、行く宛も無く1年間森をさ迷ってました。


 私にはノーマル様しかなかった……。

 ノーマル様がいてくれたから生きていられた……。

 希望があるならノーマル様のそばに行きたい……そう私は決心した。


 私は壊れた家から必要な物を取りだし、誰もいない夜の処刑場に行った。

 私は心中を覚悟に「次元の穴」に飛び込んだ。



 ***



 そして現在に至ります。

 ノーマル様とも再会し、私の髪を綺麗と言ってくれる人が現れた。

 鯵坂 耀助さん……あの言葉を聞いてから私の心は高鳴り、顔も熱くなった。

 これが恋なんだと実感しました。

 そして歩美さん、金山さんという初めての友達も出来ました。

 私は今、本当に幸せです。


「ニコ! 大変です!」


「どうしました?」


 ノーマル様が慌てた様子でこちらに来た。


「落ち着きの香がもうありません!」


 ……私は今幸せから絶望に変わりました。


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