父帰国

 6月の始め……フクロダさんが来てから約一ヶ月が経過した。

 この一ヶ月で魔法使いが三人(と二匹)が来るというマジありえねぇ状況に慣れつつある。


 夜、俺はいつも通り夕食の準備をしている。

 今日は歩美からもらったジャガイモが残っているため、じゃがバター、コロッケ、ジャガイモの味噌汁とジャガイモづくしである。

 フクロダさんとニコも夕食の準備をして、俺もコロッケが揚がればOKだ。

 その時である……。


 ♪~♪~♪~


 俺のスマホから着メロが聞こえた。

 俺はポケットから取り出すと、相手は外国にいる父からだ。

 俺はコロッケを揚げながら電話に出た。


「は~い、もしもし」


『おう耀助! おっひさ~!元気にしてる?』


 相変わらず軽いわ~この人……。


「はいはい元気だよ」


『おいおい素っ気ないな~。正月ぶりの会話だぜ。もっとテンションあげようぜ!』


「んなこと言われてもね~、こっちも色々あって疲れてんだよ……」


 主にフクロダさんとかフクロダさんとかフクロダさんとか……。


『ふ~ん、まぁいいや』


「それで何の用? お土産だったら抱き枕以外でーー」


 ピンポーン!


 あ、チャイム鳴っちゃった。

 俺は父に聞こえないようにスマホを塞いでーー。


「フクロダさーん! 出てくださーい!」


「了解です」


 フクロダさんは玄関に行った。

 ここに来るのは大体は宅配だ。

 宅配の人は最初はフクロダさんの姿驚いたが、今では慣れて普通に挨拶するくらいになったし。

 セールスの類いなら追っ払うことも出来て便利だ。


『おう、客か? だったら出ていいぞ』


「いいよ。今出て……あ……」


 そういえばフクロダさんとニコのこと言ってないんだよな……。

 どうしよう……今言って心の準備をさせるか。


「あのさ……実はーー」


「『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』」


 何だ!? なんか電話越しからも玄関からフクロダさんとそれとは別の叫び声も聞こえた…………もしかして!?


「ノーマル様!?」


 フクロダさんの叫びにニコが急いで玄関に向かった。

 俺も火を止めて玄関に向かうとーー。


「うわ~……」


 フクロダさん腰が抜けたかのように座り込んでいる。

 そして外にいるのはスマホを持った結構リアルなゾンビのマスクを着けた誰かだ。

 まあ正体はわかってるけど……。


「いやいやいや~……」


 謎男がマスクを取るとそこには見慣れた顔があった。

 うん、わかってたわかってた。


「ビビったぞ耀助。サプライズでゾンビに扮装しようと思ったら逆サプライズ、略して逆ライズを食らうことになろうとは。お前も成長したな」


「え……いや、その……」


 あれ、フクロダさんのこと俺だと思ってる感じ?


「おーい」


「しっかし何だこのフクロウは。今日本で流行りのヒーローかゆるキャラか? にしてもデカいなおい」


「もしも~し」


「おう耀助。お前しばらく見ない間に大きくなっ……えっ耀助!? じゃあこれ誰!? そして巨乳のチャンネェ誰!?」


「遅っ!」


「あの耀助さん、この方はもしかして……」


「お察しの通り父です」


 そう、このゾンビの格好してる中年が俺の父、鯵坂 光太こうたである。


「とりあえず中で話そうか」


「耀助さん、その前に、えい」


「「え?」」


 フクロダさんが高速移動で父の背後に回り、腕をつかんだ。


「ニコ、睡眠薬!」


「はい! えい!」


「がはっ!? キュー……」


「ええぇ!? ちょっ!」


「落ち着きの香の準備!」


「はい!」


 いきなりニコが父の眉間に睡眠薬が入った注射をぶっ刺した。

 そしてニコはちゃぶ台に向かい、落ち着きの香を炊き始め、フクロダさんはちゃぶ台近くに寝かしつけた。

 何してんの!?

 歩美の時もそうだが、頭に薬って大丈夫なのかとか、チームワーク良すぎとか、それ以前に気絶させんなとか、ああもうツッコミが追いつかない!


「うちの父に何してんすかフクロダさん!?」


「いえ、お父様にも混乱している様子なので、耀助さんと同じように一度気を失わせた方がつご……コホン、話しやすいかと」


 今都合いいって言おうとしたなこの野郎!

 何だかんだでフクロダさん普通に話し合いとかで事を済ませることないよね!

 はあ、もういいや、父だし……。


 しばらくすると父が目を覚ました。

 最初の俺同様フクロダさんにテンパることもなく冷静だ。恐るべし落ち着きの香。

 俺は父にフクロダさん達の説明をした。

 もちろん正直に魔法使いのことを答えた。

 そうでないと色々先生にごまかすのに話を合わせるのに不都合だからだ。


「ーーというわけなんだ」


「異世界から来た魔法使いで、本物のフクロウ人間とその弟子ね~……」


 いくら軽い父でもさすがに疑うよなー。


「まあでも、金とかもちゃんとバイトしてるし、ここでしばらく住まわしてくれないかな?」


「うん、いいんじゃない~」


「軽っ!?」


 やっぱり軽かった……。


「お願いしてなんだけどいいの!? こんなフクロウ人間を!」


「耀助さんこんなって……」


「まあたしかに全てを信じてるわけじゃないけど……お前はこの人達が困ってたからここに住まわせてるんだろう。いいことしたんだから俺は拒否はしないし応援するぞ」


「あ、ありがとう……」


 正直言うと最初は見捨てようとしてたんだけど……。


「とりあえず先生には仕事仲間の息子って言い訳すればいい話だし、はい終了! 飯にしよー!」


 この人は……適当なのかわざとなのかわからない所があるんだよな……。



 ***



「ハハハハハハ! フクロダさ~ん! 飲んどるかい!」


「はあ……」


 父は家にあったワインを飲んでただでさえうざったいのに、ほろ酔いで更にテンションが高い……。

 フクロダさんも困ってる様子だ。


「それでニコちゃんだっけ~、大丈夫なの? 耀助みたいな男の子と一緒に住むって?」


「えっと……耀助さんは優しくしてくれているので大丈夫です」


「そうじゃなくて~、耀助に(ピー)されても大痛ったー!」


 いきなりの卑猥な発言で俺は箸で父の頭に突き刺した。


「何言ってんの!?」


「だって~耀助だって野獣になることあるでしょ~念のためにだよ~」


「野獣って何さ!?」


「あの!」


 ニコの大声に俺達は振り向いた。


「私は……その……野獣でも構いません」


 ニコが顔を真っ赤にして頭から煙が出て恥ずかしそうにしてる。

 次の瞬間、父が俺の胸ぐらをつかんだ。


「お前ー! 歩美ちゃんというものがありながらー! 何でモテんの!? 俺なんて母さんにしか好かれたことないのにー!」


「ああもう! 知らんしうざったいわ!」


「ヘッドバットヒット!?」


 俺はうざさのあまり父に頭突きをした。

 そして何で歩美が入るんだ?


「あの、耀助さん。お父様はどんな仕事を……」


「どんなって……父よ、父は何の仕事をしてんだ?」


「ええ知らないの!? 光太ショック~!」


 うざったい……。


「俺はアメリカで日本食の店を経営してんの。最初は日本でレストランチェーン店の経営してたんだけど、アメリカ人の社長にスカウトされて今に至るってわけ。今はアメリカに五店舗を経営して、そうだな……億は稼いだかな?」


「億!?」


 この人……適当なんだかわざとなんだかすごいのかわけわからん。


「あ、フクロダさんのことですっかり忘れたてけど、なんで帰ってきたんだ?」


「ああ、俺実はアメリカの店を別の人に任せて、日本でアメリカの店を出すことにしたんだ」


「はあ!?」


「だからまたここに住むことになった」


「はああ!?」


「貯金も貯まったし資金もたくさんもらってな、建設費とか生活費諸々引いても充分過ぎるほどの金をもらったしな、嬉しいだろう」


「いや、ま、嬉しいけど……」


 突然過ぎて嬉しさが出てこない……。


 じぃ………………。


 ん? 何かニコのうらやましそうにこっちを見てるな。


「どうしたのニコちゃん」


「いえ、仲がいいと思いまして、私にはそういう経験がないので……」


 あ……そういえばニコって黒い髪が原因で家族にひどい扱い受けてたんだっけ……。

 どうしよう、嬉しさが表に出しづらい……。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 いきなり父が泣いた!?


「何ニコちゃん!? DV? 幼児虐待? 育児放棄? 何か知らないけど可愛そうだよ~!」


「あ、はあ……」


 ニコ引いてるよー。


「もうじゃあさ、ここの子になっちゃいなよ! ……あ! じゃあさニコちゃんも学校行っちゃいなよ! 学費出すからさー!」


「「え、えぇぇぇぇ!?」」


 父の突然すぎる提案に俺もニコも驚くだけだった。

 そういうわけでニコも高校に入学することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る