魔法使い達との生活
ニコが来た翌日、日曜日で今日も休み。
ニコに好かれて、年頃の女性と一つ屋根の下で暮らすのに緊張したが、相手は奥手の子だから大丈夫だろうと思っていたがーー。
「スー……スー……」
ニコは俺の布団で寝ている。
深夜1時頃、寝ぼけて俺の布団に入り、抱きついてきた。
俺の背中に温かくて柔らかい大きな胸が当たり、女特有のいいにおいがして興奮で眠れなかった。
もちろん手を出していない! 出す勇気もない!
このまま背中で胸の感触を確かめながら朝まで起きているしかなかったのだった……。
そして朝、俺は目の下にくまを浮かべながら朝食を食べている。
あの後フクロダさんがニコを起こし、気づいたニコは赤くなって慌てて逃げ出した。
「ごめんなさい……」
ニコは赤くなりながら謝った。
「いえ、寝ぼけてるなら仕方がないですよ」
「すみませんね耀助さん、昔は私に抱かれて寝てたんですが、最近は抱き枕で寝てたんですよ。だから癖になってしまって」
異世界にあるんだ抱き枕……。
「でしたら家にあるやつあげますよ。サンマ、枝豆、ツチノコ、形はどれにしますう?」
「どうしてそのようなチョイスを?」
「父がウケ狙いで買ったんです」
「どれもわからないです……」
来たばっかりのニコには何が何だかわからないようだから後で説明しよう。
朝食終了後、俺は抱き枕を持ってきて、ニコに選ばせた。
ニコは枝豆をチョイスし部屋に持っていった。
フクロダさんの方は日課の朝の体操をしている。
……俺はふとあることを思い、フクロダさんに質問した。
「あの、フクロダさんってどこまでフクロウなんですか?」
「どこまでといいますと?」
「えっと、フクロウのことがどこまでできるか……ですかね」
「なるほど、まず飛べますし、視力も上がりましたし、フクロウと喋れます。あとは……」
フクロダさんが後ろを向くとーー。
グルン!
「こんなのも出来ます」
「キモっ!」
フクロダさんの頭がグルンと180度反転し、背中が前みたくなった。すごいキモい……。
「これで360度辺りを見渡せますよ。ハハハハハーー」
調子に乗ったのか、フクロダさんは首を何回も振り、アピールしている。顔が360向くフクロウ人間、すごい絵面だな……。
「ーーハハハハハハオロロロロロロロ」
「吐いたあ!?」
振り過ぎて酔ってリバースしたぁぁぁ!
吐瀉物が撒き散らしてすごい汚い!
「と……とんだ失態を……」
「本当ですよ!」
フクロダさんが膝から崩れたと思ったら、すぐに立ち上がった。
「失礼、あとはこの岩をーー」
ええまだやるの!?
今度は庭にある大きな岩を足で踏んだ。
「足で持ち上げられます」
「うそお!」
「あと砕けます」
「うそお!」
フクロダさんが足で岩を踏んだと思いきや、その岩を足で鷲掴みし、持ち上げた。
さらにその持ち上げた岩を足の握力で砕いた。
すげえ! 岩を持ち上げて砕く握力もそうだけど、持ち上げた足の筋力もすげえ!
「うん、それぐらいですかね」
「もう、フクロダさんが魔法使いって忘れるくらいすごいですね」
「まあ、今の私は魔力は半減してますし、この世界で魔法を使うことはありませんからね」
「そうですか……そういえばニコさんが抱き枕持ってってから見てないんですけど」
「ニコは昔から外に出たがらないので、おそらく用事が済んで部屋に籠ってるかと」
「じゃあ俺見てきます」
俺はニコの様子を見に部屋へと向かった。
部屋の前に着くと中から音が聞こえるからいるようだ。
ここでドアを開けたら着替えて下着姿というラッキースケベなことが……いや、異世界に下着があるのか? もしや全裸!? ……あったらいいなあ!
俺はドキドキとワクワクでドアを開けるとーー。
うねうねうねうねうねうねうねうねうね。
黒い触手が何本も生えた化物がそこにいた。
あれ何!? モンスター!?
部屋の中にニコの姿はなく、触手が部屋中をうねうねしている。
ていうかどうやって連れて来たのあれ!
魔法で召喚した召喚獣か? だとしたら種類は何だ?
黒い触手はいそぎんちゃくみたいに何本もうねうねがあり、その中心には衣類が……あれ? あの服ニコのだよな?
俺がそう思っていると、触手が段々短くなって、中心にまとまり、やがて人の形になりニコの姿になった。
…………は? ドユコト?
「ニコ……さん?」
「あ、耀助さん」
俺が返事をするとニコは笑顔でこっちを向いた。
「えっと……何してるんですか?」
「この世界の植物で薬を作ったので、自分で試してます」
あー、植物のすりつぶした汁に魔力を注ぐと効果が出るとか言ってたな。
「ちなみにさっきのは?」
「桜という花の葉っぱを使いました」
桜の葉であれ!? 桜怖っ!?
ニコがさっきの状況を昨日あげたノートに書いた。
「桜の葉、うねうねになる。持続時間5分。感想、手が何個もあった感覚だったけど、指がないのでつかむのは難しい……と」
そしてまさかの実用性重視!? 外見的特徴はスルーですか!?
それに自分で試すって体張りすぎでしょ!
「大丈夫なんですか? そんな効果がわからないのを飲んで」
「やはり自分で作った物は自分で試さないといけません。それにいざというときに毒消しなどを用意してます」
そういう問題か?
……そもそもここにはモンスターもいないし、魔法を使うようなことはないのに、なぜこんなことを?
「どうして薬を作ってるんですか? この世界にはポーションとかはないですけど傷薬くらいならありますよ」
「あの……ノーマル様を元の人間に戻せればと思いまして……」
「え……」
「私はノーマル様に数えきれないほどのご恩があります。ノーマル様が次元の穴に入った後も研究を続けましたけど見つかりませんでした。ですからこの世界の植物を調べてノーマル様を元に戻したいんです」
……なるほど、ニコはフクロダさんのことをそこまで慕ってたんだ。
フクロダさんが次元の穴に入って、もう会えないと思ってもそれでもずっと作り続けて、こんな懸命な子を見ると応援したくなるな……。
「よし! ニコさん、試してない薬はありますか?」
「え? この松という植物のがありますけど……」
「手伝います」
「えっ……ちょ!」
俺は松の魔法薬を飲み干した。
うお~……すっごい苦い……。
さて、何が起こるの……か……あれ……意識が……。
***
「はっ!」
気がついたら俺はニコの膝の上で寝ていた。
「大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさい!」
起き上がろうとするが体が金縛りのように動かない。
「あれ、動かない! どうなってるの!?」
「多分薬の副作用だと思いますが安心してください。植物の魔法薬は副作用はあっても完璧に治りますので」
「はあ……あの、俺どうなりました?」
「えっと……背中から足が生えてきて、1時間ほど歩き回りました」
背中から足!? どういうこと!?
できれば羽であって欲しかったし、ひとりでに歩いたの!?
どうしよう、見たいようで見たくない!
「あの……やはり自分のことに他の人を巻き込むわけにはいきません……」
「すみません……でも、何か困ったことがあったらどんどん巻き込んでください。大事な仲間ですから」
「大事……大事……えへへ……」
ニコが顔を赤らめてニヤニヤしている。
仲間だよ、仲間としてだよニコさん……。
ふと窓から外を見てみると空が赤い。
「ニコさん、今何時ですか?」
「えっと……18時です」
18時……俺がこの部屋に来たのは10時くらい……てことは……俺8時間も寝てたの!?
「まずい! 飯の用意をしないと! あ、動けない!」
副作用で体が全く動かない!
背中から足が生えて動き回る代わりに8時間以上動けないってなんてハイリスクノーリターンな薬なんだ!
「どうしよう、これじゃ飯が作れない」
「話は聞きました」
俺が困っているとフクロダさんがドアを開けた。
ていうかいつから聞いてたの?
「ちゃんと食材は用意しましたのでご心配なく、ではニコ、一緒に耀助さんを運びましょう」
「はい」
俺は二人に手足をつかまれ、居間まで運ばれた。
用意したってスーパーにでも行ったのか?
「こちらです」
と、フクロダさんはなぜか庭を指差した。
そこにはーー。
「あの……これって……」
「何ってネズミとカエルと蛇とミミズです」
庭にはネズミとカエルと蛇の死体と、バケツ一杯のミミズがうねうねしている。
まさかの現地調達!?
「いつも耀助さんにはご飯を作ってもらっているので今日は私達が料理を作ります」
「ちょっと待ってください!? この食材使って料理するんですか!?」
「はい、前の世界の家は町から遠いのでいつも果物か獣を狩っています」
「あの……さすがに焼きますので大丈夫ですよ」
おいおいマジかよ! こいつら食うのかよ!
魔法使いってそんなワイルドな食生活なのかよ!
こんなゲテモノより果物がよかったよ!
しかもニコさん、焼く焼かないの問題じゃない!
「ノーマル様……さすがにミミズはちょっと」
「あ、これは私用です。ここに来る前はフクロウになったのか、生の動物とかミミズが美味しくて」
ちょっとフクロダさん! フクロウ人間になって味覚もフクロウ化してませんか!?
カムバック人間の心!
「さて、薪を持ってきますので、ニコは串をお願いします」
「いやあの、ちょ!?」
いやぁぁぁぁぁぁ! やめてぇぇぇぇぇぇ!
食べたくなぁぁぁい! でも動けなぁぁぁい !
結局体が動いたのは午後10時頃、半日も動けなくなっていた。
フクロダさんの料理はというと…………想像に任せます……。
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