修羅場

 アタシ兵藤 歩美は耀助が好き。

 兄妹の様に一緒に育って、小さい頃はあまり意識しなかったけど、最近男として見るようになった。

 だけど、今更恥ずかしくて言える訳がない……。

 あいつも、アタシなんか意識してないと思うし、告ったらいつもの関係に戻らなくなるのが怖い。

 だからこのまま現状維持ということにした。


 ある日、金山から耀助の家に遊びに行きたいから案内してという電話があった。

 了承した翌日、私は母さんに言われて出来損ないのキャベツを持って、金山と合流した。

 そして耀助の家に行ってみると……縁側で耀助と女性が密着していた。



***



 ニコに抱きつかれた姿を見られて、俺達は時間が止まったように沈黙中だ。

 その沈黙を破ったのは歩美だった。


「この……淫獣がぁぁぁ!!」


「キャベツクリーンヒット!」


 歩美が段ボールに入ったキャベツを俺の顔に当てた。すごい痛い……。


「あ、あんた! おじさんがいないのをいいことに何襲ってんの!?」


 いやよく見て! 絵的に俺が襲われてるだろ!  


「やるな耀助! こんな美女と関係を持つなんて!」


「耀助どういうこと!?」


「えっと……話はとりあえず中で……」


 とにかくこの状況を説明しなくちゃいけないな。


 俺は二人を招き入れた。

 ちゃぶ台の周りには俺、歩美、ニコが座っている。

 話に入らないフクロダさんと金山は隅っこで駄弁っている。


「んで、この子は誰なの?」


 歩美が物凄い目付きでこっちを見ていて、人見知りのニコは俺にしがみついている。


「えー、こちらフクロダさんの……妹のニコさんです」


「ニコ……です」


 俺はそう言ってごまかした。


「フクロダさんに妹いたんだ~。一緒に住んでんの?」


「うん」


「へぇ~、それで何で密着してたの?」


「あ、あの……」


 人見知りのニコが喋るようだ。


「耀助さんに……告白されたから……嬉しかったから」


「……はあ? どういうこと?」


 歩美が青筋を立てながら怒りのオーラを放ってるぅ!?

 何でこんな怖いの!? そしてニコさん、俺は告白したつもりはなかったよ!?


「私の……髪を誉めてくれた……から、好きになりました」


「ニコさんチョロくない!? 男は皆あなたのような美人に優しいのよ!」


 んー言い返せないわ……。


「それでも嬉しいです……あの、あなたの許可がないと、好きになっちゃダメですか?」


「うっ! それは……」


 たしかに恋愛は自由だし、歩美の許可は必要ないが、張本人の俺はどうなんすか?


「とにかく耀助は止めときなさい!」


「い、やです……」


 おお……何故か歩美とニコの間に火花散ってるよ。

 隅にいる男性陣よHELP!


「これが私の普段着ですから」


「それじゃ全裸みたいじゃないですか、フクロダさん」


 何のトークしてんの!?

 ダメだ! 助けてくれる様子がない!


「耀助はどうなの!? この子のこと好きなの!?」


 やっぱりこっちに来たぁぁ!

 たしかに好みだけど、彼女とは出会って数時間、さすがに恋愛と呼ぶには時間がなさすぎる。


「あの、耀助さん……迷惑ですか?」


 ……でも巨乳美人を断るのもったいないんだよな~。


「迷惑じゃないです!」


「この乳バカがぁぁぁぁぁ!!」


「キャベツ2HIT!」


 歩美が再びキャベツを投げつけ、俺の顔に命中した。


「あんたみたいな乳バカには天誅を下さないといけないわね」


 ヤバい……両手にキャベツを持った悪魔が襲ってくる。


「あ……あの、やめてください……平和的に解決しましょう……」


「事の元凶が何言っとんじゃぁぁぁぁ!!」


 歩美の鬼の形相にニコが怯んでいる。

 勝ち目がなさそうだし、ここは俺が盾にーー。


「えい!」


「がっ!」


 ニコがどこから出したのか注射器を出して歩美のおでこに当てた。

 全然平和的解決じゃねぇぇぇ!

 倒れた歩美がビクンビクンと痙攣してるし!


「歩美、おい! ニコさん何したんすか!?」


「えっと……勝てる見込みがなかったので……得意の薬の投擲を……」


「薬!? ヤバいやつじゃないですよね!?」


「大丈夫です……『忘れ薬』といって目を覚ますと数十分の記憶が消えるだけです」


 いやいやいや、薬を頭に注がれてどうなるかわかりませんよ!

 はっ! こんな所を金山に見られたらーー。


「ナイスボールです金山君」


「次はカーブ投げますよ」


 ーーって庭でキャッチボールしてるし!

 でも見られなくてよかった……。


 しばらくして歩美が目を覚めた。

 ニコの言った通り、家の前に来てからの記憶がなくなっていたから、俺は玄関で転んで気を失ってたとごまかした。

 金山は何も言わなかったため、そのまま黙ることにした。

 改めてニコを紹介すると、さっきの怒りはなく、笑ってふれあっていたが、なぜだか時折ムッとしていた。

 そして帰る頃ーー。


「今度からちょくちょくあんたの家に行くからね」


「ええ……」


「アタシはおじさんにちゃんとした生活をしてるか見張りを頼まれてるの!」


 まあ、俺も暴走せずに済むかもだけど、フクロダさん達の魔法使いばれは避けたいな。

 それにしてもなんでそんな父に従順なんだよ。


「なんでなんだ?」


「耀助って結構バカなんだね」


「なんだよ帰り際に!?」


 結局金山何しに来たんだよ!?

 ただフクロダさんとトークしただけって!


「耀助、ニコちゃんに変なことしないでよ」


「そんじゃね」


 ようやく二人は帰った。

 疲れた……疲れたし、まだ顔が痛い……。


「どうでしたかニコ、歩美さんと金山君と仲良くなれそうですか?」


「はい、みなさんとは仲良くなれそうです……ただーー」


「おっと!?」


 ニコが俺の腕にしがみつき、ムッとした顔をしていた。


「……歩美さんに負けたくないです」


「おやおや、すっかり耀助さんになついて」


 俺はニコの言葉の意味がわからなかった。

 ようやく今日一日が終わり、そしてフクロダさんに続き、女魔法使いニコとの同居生活の始まりだった。




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