弟子も来ちゃった

 今日は学校が休み、フクロダさんもバイトが休みのため家にいる。


「いい天気ですね~」


「そうですね~」


 今日は雲一つない快晴。

 物干し竿で乾かしている洗濯物を見ながら俺とフクロダさんは縁側でぐで~んとしている。


「何か最近色々あって疲れました~」


「そうですか~大変ですね~」


「フクロダさんのせいですよ~」


 そう、このところフクロダさんのせいで驚かせてばかりである。

 だが、今となってはなんてことなくなっている自分が少し怖い。


「さて、昼飯の用意でも……あれ?」


 昼飯の用意をしようとした瞬間、なんか空間からブラックホールのような黒い穴が空いている。

 うわ~……明らかにやばげなやつだ……。


「フクロダさん、あれなんすか?」


「あ、あれは『次元の穴』ですよ! 下がってください耀助さん! 誰かが異世界から来たんです!」


 次元の穴ってフクロダさんが罪を犯して、この世界に来たきっかけ……。

 もしかして誰か罪人がここに来るのか!? 勘弁してよもう!


「ーーぁぁぁぁあああああ!」


 次元の穴から出てきたのは、茶色いブーツと太ももと……純白のパンツでした。


「お、おパン、じゃなくて女!?」


 現れたのは俺と同い年くらいで黒いローブに紫の服とミニスカ、黒い長髪巨乳の女性だった。

 次元の穴もいつの間にか消えていた。


「い、痛い……」


 女性が起き上がると突然フクロダさんが立ち上がった。


「ニ……ニコ!?」


 え、知り合い!?


「え? …………ノーマル様!」


 女性がフクロダさんに気づくと、立ち上がり、フクロダさんに駆け寄り、抱きついた。

 巨乳が押し付けられててうらやましい。


「お会いしとうございましたノーマル様!」


「ニコ! どうして君が!?」


「あの……とりあえず中で話しますか?」


「そうですね……」


 俺はとりあえずこの女の子の話を聞こうとした。

 やっぱりこんな状況に冷静になってる自分が怖いわ……。


 俺は居間に招き入れ、フクロダさんが女の子を紹介した。


「耀助さん、こちらはニコ。私が異世界にいたときの弟子です」


「ニコ・シウラ……です……」


「どうも、鯵坂 耀助です」


 ニコという女の子は小声で挨拶した。

 さっきまでの大声はどうした?


「すみません、ニコは私以外の人間と話すことがなかったので」


「なるほど……ちなみにノーマル様というのは?」


「前の名前です。正確にはノーマルディア・エルトン・ヘルヴレイムで、長いので親しい人はノーマルと呼ばれてました」


 たしかに長い……しかも見た目がアブノーマルなのにノーマルて……。


「それでニコ、どうしてここに?」


「……ノーマル様を追いかけようと、処刑場に忍び込み、次元の穴に入りました」


「どうして、そんなことを……」


「だって……ノーマル様がいなくなってから使い魔達は森に逃げて帰って来ないし、家は薬草取りに行ってる間にモンスターに壊されたし、ノーマル様以外に知り合いいないし……」


 ニコが涙目になりながらそう答えた。

 この子凄く哀れだ……。


「ですからまたそばにいさせてください」


「ですがニコ、私は名前を剥奪された罪人で、今は耀助さんと契約した使い魔、フクロダです」


 契約は強引ですけどね。


「どうしてもというなら……チラッ」


 フクロダさんがこっちを見ている。

 何この彼女の今後は俺の発言次第みたいな空気!?


「お願いします……なんでもしますのでここに置かせてください」


 ニコが俺の手を胸に近づかせ、涙目+上目遣いでこっちを見ている。

 グハッ! なんという破壊力だ……。


「ま、まあ……フクロダさんの弟子なら問題ないんですけど、ただお金の問題が……」


「大丈夫です。私は山で食料を調達しますし、ニコにも働いてもらいます。ただ人見知りがあるので時間がかかりますが」


「がんばります……」


 そんなこんなでフクロダさんの弟子、ニコもここに住むことになった。



***



 ニコにはフクロダさんの隣の部屋に住んでもらうことにして、許可をしたものの、俺はあることに今更気づいた。

 それは……年頃の男女が一つ屋根の下で暮らすということだ!!

 相手は同い年くらい! しかも美人で巨乳! そう考えたら緊張してきた!

 女だったら歩美で慣れてると思っていたが、歩美とは兄妹のように育ったし、その辺の男子より男勝りだし、胸も微妙の微と書いて微乳だし、足も太いし、女的要素が少なかった。

 だからニコのような女には不慣れだ!

 どうする、いつ俺のオスの部分が暴走してもおかしくないぞ!


「あの……」


「なんでしょう!?」


 突然のニコの声に意識してる俺は大声を上げてしまった。


「植物の本はありますか?」


「あります! 少々お待ちを!」


 俺はマッハで自分の部屋から植物図鑑を取りに行き、それをニコに渡した。


「どうぞ!」


「ありがとうございます」


「えっと……植物好きなんすか?」


「薬作りのために調べるんです。私、薬草などでポーションを作ってノーマル様に売りに行ってもらってました」


 ポーションってRPGとかの回復薬だよな? さすが異世界。


「でもここの植物で薬とか作れるんですか?」


「薬は植物のすりおろした汁に魔力を注いで作ります。種類と配合次第で効果が変わるんです」


「へぇ」


 そうやって作るのか……でも、ここモンスターはいないんだけど……。

 それにしてもさっきのもじもじはなく、ちゃんと喋って落ち着いている。


「ここには慣れましたか? 最初より落ち着いたみたいですけど」


「それは……あれで」


 ニコが指を差したのはちゃぶ台の上に何やら三角形のお香が焚いてあった。

 ん? なんか嗅いだことのある匂いだな。


「あれは『落ち着きの香』ですよ」


 後ろにいたフクロダさんがそう言った。


「あのお香を嗅げばどんな人もリラックスして落ち着きます。最初、耀助さんが気絶してる間にも炊いたんですよ」


「あ、どうりで……」


「でなかったらフクロウなのにしゃべれるとか色々突っ込むはずですから」


 言われてみればたしかに!!

 こんなツッコミ所満載のフクロウ人間に突っ込まないのはおかしい!

 寝てて落ち着いたかと思ったらこれが原因かい!


「ハァ、まぁいいや……」


 もう諦めた……。

 ニコは縁側で庭を見ながら図鑑を読んでいる。


「あの、やっぱり植物好きなんですか?」


「それなりには……似てるんです。ノーマル様といた家に、周りを自然に囲まれて、花や妖精、猛獣やモンスター、山賊がいました」


 なんてメルヘンかつバイオレンスな所なんだ。


「6歳の頃からずっと暮らしてました。私は『忌み子』でしたので……」


「忌み子?」


「私のいた世界では黒髪の子は『悪魔の生まれ変わり』『呪われた子』として忌み嫌われていたんです。それが原因で親に捨てられたんです」


 なんだそれ……。

 黒髪ってだけでそんな嫌われるのか? こんな綺麗な黒髪なのに。

 この子、相当苦労してんだな……。

 俺は慰めようとニコに話しかけた。


「ニコさん、この世界に来たのは正解です」


「え?」


「俺の髪黒いでしょ。この世界の日本には俺みたいな黒髪が多いんです」


 とにかく黒髪の嫌悪感をなくさねば。


「だからそれであなたを嫌う人はもういません。それにあなたの髪、すごく綺麗ですよ」


 ……なんか口説いてるみたいになっちゃったが、これで慰めになるーー。


「……うぅ」


 と思ったらポロポロと涙を流してる!?

 どうしよう!? 女を泣かせるなんて最低だと両親祖父母に言われたのに!


「すみません! 俺なんか失礼なことを!」


「いえ……嬉しいんです。こんな髪を誉めてくれるなんて……」


 あ、なんだ嬉し涙か。

 びっくりした~、危うくフクロダさんにも責められるかとーー。


 ムギュ


「へ?」


 突然ニコに抱きつかれた。

 押しつけた柔らかく大きな胸の感触が体に伝わっている。


「え? な、な、何すか!?」


「これって愛の告白を捉えていいんですよね?」


 へ? どゆこと!?

 いつの間にか俺、ニコさんに告ったの!?


「出会って間もありませんが私はあなたの愛を受け入れます」


 出会って間もない所か数時間っすよ!?

 この人チョロすぎでしょ!


「いや、待っ……うぉ!?」


 ニコの勢い俺は押されて、いつの間にかニコに押し倒される形になってしまった。


「フクロダさん! どうしたらいいんですか!?」


「とうとうニコにも家族が……」


 なんか話が飛躍してるぅぅ!

 どうしよう!黒髪巨乳美女が顔を赤らめながら、うっとりとこっちを見てる。

 男から見たらうらやまシチュだけど、俺には心の準備がーー。


「耀助~、出来損ないのキャベツ届けに来た……よ……」


「耀助! うぉ!?」


 いきなり庭から段ボールを持った歩美、そして金山が来た。

 え……何、この修羅場的雰囲気?



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