フクロダさんの仕事

 フクロダさんと出会って数日が経ったある日の放課後、歩美と金山が俺に話しかけてきた。


「耀助! これからアタシらとフクロウカフェ行かない?」


「え?」


 フクロウカフェはフクロダさんが週4で働いてる所だ。


「この前学校に来た、フクロダさんだっけ?その人どんなのか見てみたいし」


 見てみたいって……まあ、俺もフクロダさんがちゃんとバイトしてるか気になるし……。


「いいぞ」


「んじゃ決まり!」


 こうして俺達はフクロウカフェに行くことになった。


 俺と歩美は都会側に来ることはあまりない。

 田舎側にもスーパーはあるから買い物はそれで済ましている。

 だから俺と歩美は珍しげに辺りを見渡している。


「しかし、相変わらず都会側ってすごいな。何かいつも賑やかで」


「そうかな? 普段からこんな感じだから僕は違和感ないけど」


「うちだって夏になるとセミとかカエルとか蚊とかで賑やかだよ」


 なんの張り合いだよ……。


「あ」


 俺達が他愛もない話をしていると、見慣れた後ろ姿があった。


「あ、船ちゃん先生!」


 焦げ茶色のポニーテールに黒いスーツの女性、うちの担任の船橋先生がいた。


「あら、兵藤さんに金山君に、ひぃ!鯵坂君!」


 俺だけ「ひぃ!」って地味にショックだわー……。

 フクロダさんの件から知り合いの俺にも苦手意識を持っている。

 そんな船橋先生はこれから行くフクロウカフェのチラシを持っていた。


「先生もフクロウカフェ行くの?」


「ええ、最近人気があるみたいだから……でも迷っちゃって……」


 相変わらずの方向音痴。

 フクロダさんのことがあったのによくフクロウカフェに行く気になるな……。


「僕らはそこで働いてるフクロダさんを見に行くんです」


「え…………やっぱり行くのやめーー」


「「 さあ行きましょう!」」


「え、ちょっと!?」


 青い顔をした先生を尻目に歩美と金山は先生の腕をつかみ、カフェに向かった。

 哀れなり先生……。


 そして数分後。


「ここか」


 駅近くに建つ小さな一軒の店。そこは白いシンプルな外観に「OWL LOVER」と大きく看板に書かれていた。


「思ったより人いないのね」


「平日ですから」


「そんなことより早く入ろうよ!」


 歩美の催促もあり、俺達は中に入ることにした。

 フクロウカフェのドアを開くとーー。


「いらっしゃいませ」


「なんでメイド服やねん!!」


 開口一番の言葉がそれだった。

 ドアを開けると、フリフリのメイド服を着たフクロウ人間が飲み物を運んでいる姿だった。

 なんだこのシュールな絵面! 思わずエセ関西弁が出たじゃねえか!


「プ、ククク……やばい……ウケる」


「すみません写メ撮っていいですか?」


「…………」


 歩美はツボにはまり、金山は写メの要求、先生は虚ろな目をして無言だ。


「これは耀助さん、来てくれたんですね」


「あ、まあ、それよりなんでメイド服なんすか?」


「店長の案です。面白いからって」


 店長なにしてんの!?

 面白いやつに可愛いのをプラスしてもキモさしか残らねえよ!


「ではあちらの席へどうぞ」


 俺達はフクロダさんに案内され、席についた。


「えー、皆さんは耀助さんのご友人で?」


「はい! 兵藤 歩美です。耀助とは小さい頃からの仲です」


「僕は金山といいます」


「た、担任の、ふ、船橋といいます」


「あー先生でしたか。数日前は失礼しました」


「いえ……あの、鯵坂君とはどういうご関係で?」


「たしか外国に行ったおじさんの仕事仲間の子供なんだよね?」


 ああ、そう言ったんだっけ……。


「はい、他国の勉強をしたかったので、そのご縁で現在耀助さんの家に居候をしています」


「そうですか……あの、少し疑問に思ってたのですが?」


「はい?」


「初めて会ったとき……飛びましたよね? 私を抱えて」


ブーーー!


「うわ汚っ!?」


「どうした耀助?」


 俺は思わずお冷やを吹き出してしまった。

 飛んだ!? 何先生抱えてフライアウェイしてんの!


「ヤ、ヤダナセンセイ、ヒトガトブワケナイジャナイデスカ。キットキガドウテンシタンデスヨ」


「どうした耀助! めっちゃ棒読みだぞ!」


「いや普通に飛びーー」


「ああ皆飲み物頼もうか! フクロダさんも仕事に戻らなくちゃ! 俺コーラで!」


「僕もコーラ」


「アタシ、オレンジジュース」


「……ではアイスコーヒーを」


「はい、かしこまりました。当店はドリンクとフクロウのふれあい含めて一時間1500円になります。では」


 ふう、なんとかごまかせた……。

 だが、先生が疑いの眼差しでこっちを見ている……。

 くそ! どうすんだよ! このまま「実は異世界から来た魔法使いで本当にフクロウ人間なんです」って言ってもそんなファンタジックな真実信じるわけないよな!

 だからと言って嘘をつけるほどのボキャブラリーもないし……。


「わあ、小さくて可愛い!」


「あー癒される……」


 歩美と金山はフクロウとふれあってるし……。

 フクロダさんのせいでフクロウどころじゃねえよ。

 そう思ってるうちにフクロダさんが飲み物を持ってきた。


「おまたせしました、この後ショーがありますのでご期待ください」


「「「「ショー?」」」」


「フクロダさんさ~ん、お願いしま~す」


 ショーって何なんだ?

 女性店員の指示でフクロダさんは店のステージに足を運んだ。


「ただいまより『OWL LOVER』恒例、フクロウショーの開始します!」


 客が拍手したから俺達もつられて拍手をした。

 フクロダさんが笛を取りだし、ピィと吹いた。


「集合!」


『ホー!』


 おお! フクロウ達が集合した!

 何!? どうやって調教したの!?


「さあまずはポポちゃん、フーちゃん、メロンちゃん」


「「「ホー!」」」


 フクロダさんの笛の合図で、でかいフクロウの頭の上に中くらいのフクロウ、さらにその上に小さいフクロウが乗って羽を広げた。


「はい! トーテムポール!」


「「「おーーー!」」」


 すげぇぇ! どうやってんのあれ!?


 ※よいフクロウの飼い主は真似しないでください。


「続いてはミミちゃんの腹話術です」


「ホーホー」


『私ミミちゃんメスです。好きな食べ物は虫なの』


「「「おーーー!」」」


 フクロダさんが口を開かずにミミちゃんが口パクして腹話術してる!

 フクロウもそうだけど、フクロダさんも芸達者だ!



***



 その後もフクロダさんはフクロウとの漫才、フクロダさんが歌ってフクロウ達がバックダンサーなどをしてカフェを盛り上げた。


 ※よいフクロウの飼い主は真似しないでください。というかできません。


 俺達は歩美達と別れてフクロダさんが終わるのを待っている。

 待っているとフクロダさんがカフェの裏口から出てきた。


「お待たせしました」


「うん」


 俺は帰り道にフクロダさんに聞いてみた。


「フクロダさん、あのフクロウ達どうやって調教したんですか?」


「ああ、私は半分フクロウが混ざっているので、フクロウの言葉がわかるんです。それで店長とかの愚痴などを聞いて仲良くなりました」


 フクロウって愚痴言うんだ!?


「頭いいですから、芸を覚えるのが早いんです。これならいつか時給も上がるかもしれません」


 それなら助かるな。

 それにあのショーのおかげで先生の疑惑の目もいつの間にか解消されたし。


「フクロダさん、もう人前で飛んだりしないでくださいよ」


「わかりました」


 フクロダさんはそう言って俺達は家路へと向かった。

 ……それにしても、注目はされてるけど、フクロダさんの見た目に大騒ぎはしないな……。

 やっぱり着ぐるみだと思っているのか、普通に歩いても大丈夫なことにひと安心する俺だった。

 


 

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