第24話 普通の日

 話は何年か前に遡る。

 俺が普通に親と暮らしていた時期。部活には入っていなかたので、いつも通り授業が終わってから家に帰った。いつもと変わらない普通の日だったはずなのに――



「何だよ……こ、れ……!?」



 床に滲んでいる赤い液体の上に重なる、二つの体。そのどちらともに、ナイフのようなものが刺さっている。

 どちらも胸に、かなり深く。



「何で……倒れてるの……?」



 何度か、倒れている両親に聞いてみた。何かの間違いかもしれない、とも思って傷やナイフも触ってみた。夢かもしれない、とも思って頬を抓って見た。

 でも、現実であり事実しかないこの場所では、何の意味もなかった。



「血……! 傷…………!」



 右手にヌルッとした液体が、纏わりつく。

 ポタ、ポタ、と血の滴る音が鳴る度に、周囲の景色が鮮明になっていくような気がした。目の前に広がる信じがたい光景が、現実味を帯びていくような気がしてきた。


 いや、正確には、自分の思考回路がやっと現実に追いついてきていたような感覚。


 そして、完全に状況を理解して、悲鳴を上げようとした直後、





「親を殺した犯人が憎いか?」




 背後から女の声がした。




「そいつを殺す方法を教えて欲しければ、我に手を貸すのじゃ」



 黒髪の女はそう言って、手を差し伸べた。




 ――そして、何年か後。


「ぜってぇ、殺す……!」


 掌を石田に向けて駆け出す。すると直後、今まで大人しく黙っていた『奴』が口を開いた。


 ――やっぱり、殺さないとならないのか?

 ――さっき話しただろうが。もう一回話を思い出してみろ。


 思念体と念話をしながら、石田が投げてきたナイフを避けた。


「投げナイフか……!」

「気をつけろ! そのナイフ仕掛けがあるかもしれんぞ!」


 相馬が叫んだ直後、ナイフが一瞬だけ発光して、


「爆発……!」


 ナイフが突然、爆発した。それをギリギリで前方に跳躍して、回避する。

 すると、それを読んでいたかのように、石田がナイフをこちらに向けながら駆けてきた。


「ナイフまだ、あんのか……!」


 右掌でナイフに触れて、液体化させる。しかし、その直後に液体が爆破して、俺の右手を炎が襲った。


「くそがっ……!」


 右手をかばいながらバックステップを踏むと、石田は負傷した自身の右手など気にせずに追いかけてきた。


「痛覚ねぇのかよ……! バケモンが!」


 反射的に左手を石田に向ける。すると、俺の左手ではなく、相馬の拳銃から放たれた銃弾が石田の左足を貫いた。一発だけではなく、四発ほどが腰や腕などを貫いてやっと、石田が崩れ落ちた。

 しかし、コンマ数秒後に傷が全て回復し、また立ち上がった。


「やっぱ、バケモンか……!」



 でも、勝機はある。



 再度走り出した石田は、懐からナイフを取り出してまたもや俺に向ける。そして、その凶器を振りかぶって投げ飛ばすと、それに追随するように石田も駆ける。

 ナイフを液体化しても、片手しか動かない状態では石田を対処できない。かといってナイフを避けても、どうしても石田への対処が遅れる。一対一では、どうしようもない。



 一対一では、だが。



 ガギン! と甲高い高音が鳴り響いて、目の前にあったナイフが左側に弾かれた。高速で宙を移動したナイフが床に転がった時、俺は左手を伸ばした。

 そして、同時に石田も左手をこちらに伸ばす。だが、



 ――半歩、こっちの方が早い!



 しかし、俺の左掌が石田の顔に触れようとした時、石田が左手を開く。





 そこには、粉末状の金属が強く発光していた。

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