第23話 ここの組織
「俺が、この隠し部屋を用意していたのには、理由がある」
相馬さんが、奥の鎖を指さして言った。
「ある男からこの組織に裏切り者がいると、情報をもらっていたのだ」
「裏切り者……?」
木南が怪訝そうに呟く。自身の所属する組織に裏切り者がいると言われても、そう易々と受け入れられない。それに、ここの組織は規模がかなり小さい。たった一人に裏を突かれるだけで一気に壊滅するだろう。
だからこそ、この手の話は慎重にいかなければならない。
「ちょっと待ってください!」
木南のさらに後ろから、良く通る声が部屋を埋め尽くした。
「その話の流れから見ると、私がその裏切り者という事になりますよね?」
「あぁ、そうだな」
「私は、この組織に不利益になる事などしません! つながれている時も言ったでしょう!」
木南が言葉を終えると同時に、美龍が驚いて木南の方を向いた。しかし、石田の言葉に反射的に反応したのはそれだけだった。海鳥と木南は、少し前から分かっていたのだろう。冷静とは言えないが、平静は取り繕えている。
「当人からの言葉は信じられないな。それに、お前は木南よりも後に入った新参者だ。信用しにくいのもそこにある」
「新参者という事なら、今日入ったばかりの人間が二人いるでしょう!」
石田が慌てて言葉を重ねる。しかし、この言葉はただ相馬が仕掛けた罠にかかっただけだ。
「そういうところだ、石田よ。自身が生き延びるためなら仲間を落とすことも躊躇わない。いざとなった時に、そんなことされたらたまった物じゃないんだよ」
「っ…………! 鎌をかけたのか……!」
石田がまた何か食い下がろうと、口を開こうとした。しかし、何かに気付いたかのようにコンマ数秒黙り、すぐに相馬へ言葉をかけた。
「なるほど……『あの男』というのは、あの男じゃったか……」
俺も、身構えずには居れなかった。
口調が変わったからでも、急に言葉を止めたからでもない。
奴から放たれた殺気が、今まで感じた誰よりも恐ろしかったからだ。
「認めたのか……!」
「どういう事ですか!?」
木南が叫ぶ。
「何で石田が裏切らなきゃならなくなったんですか!」
「裏切らなきゃならなくなったんじゃない、元々裏切るためにこの組織に入ったんだ」
石田を凝視しながら、相馬が答える。
「石田――いや、奴は、この組織の一員である以前に、『蜥蜴』の団長だ」
「団長……! って、なんで……!?」
「どういう事だ!」
海鳥と木南、二人が声を上げる。
「お喋りはもういいじゃろ。そろそろ戦らせてくれんかのう」
当人の石田は、ゆっくり肩を回しながらそう言った。
「あんた……何年生きた?」
俺が、久しぶりに会話に介入する。
何十年も年を取ったような口調、十年やそこらで身に付いたものだとは思えない殺気、明らかに、
「四百は生きたな」
人間じゃない。
直後、
「ガァンッ!」
轟音が入り口から聞こえてきた。
「木南! 海鳥! 美龍! 外に敵が来てる! 凌いでおいてくれ!」
「ちょっと待ってください! 話はまだ――」
「待て! 木南、とりあえず下に行くぞ!」
海鳥が木南の腕を引っ張りながら大きく声を発する。しかし、木南はそれをはじいて、相馬を追及する。
「いつから知ってたんですか! 何で私達には伝えてくれなかったんですか!?」
「話は後だ、今は下に降りて『蜥蜴』の奴等を食い止めてくれ」
「でも――」
木南が言葉を重ねようとした、その時、
「木南!」
海鳥が大声でそれを制した。
「今は、相馬さんを信じろ……! それしか出来ないだろうが……!」
そのまま、海鳥が木南を部屋から連れ出した。
木南が受け入れたのか、海鳥の力が増したのか、それとも両方か。
「さて……ここまで話を大きくした責任は取らないとね……」
「そうだな……ただ……」
何故俺を残したのか、『あの男』は誰なのか、等疑問は多々あるが、今はそんな疑問を問う暇はない。
「勝てるのか? こいつ多分、能力を何個も持ってるぞ?」
「そうだな。判明してるのは、視界を別の物に植え付ける『壁に目あり障子に目あり』と、四百年も生きていられる不老不死能力だな。まぁ、でも……」
ニコッ、と笑って、
「大丈夫だろ」
「そうかい」
まぁ、問題は、勝つか負けるかじゃない。
どう殺すかだ。
「ぜってぇ、殺す……!」
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