第21話 奥の壁

「石田も連れてきたのか……!」


 車の外にいる相馬さんが、そう呟いた。

 そう驚くのも、当たり前だ。石田が来ているという事は、『あれ』を見ているという事なのだから――


 ――十数分前、俺――正確には『夢の男』は、『家』にいるはずの石田を探していた。理由は特に話してくれる事は無かったが、それは見つけた時に分かる。


 ――石田がいない……? 何で……?


 デスクワークをしているはずの石田は、自室にはいなかった。

 しかし、『夢の男』は驚く気配も見せず、周囲を見渡した。そしてその後に、俺に問いを飛ばした。


『おい、この建物の見取り図ってどこにある?』

 ――さぁ。資料室にでもあるんじゃないか?


 基本的には、一階の資料室に情報を詰め込んでいる。木南さんの話によると、パソコンやら紙やらに情報を入れて、整理整頓されているようだ。だから、見取り図もそこに入っているのではないか、と考えたのだ。


『……そうか……探すの面倒だな……』

 ――一応、整理整頓されてるらしいから大丈夫だろう。


 俺の予想通り、『夢の男』はものの五分で見取り図を見つけた。


『…………』


 そして、『夢の男』がその紙とにらめっこする事一分。


『やっぱりな……』


 『夢の男』は小さく呟いた。


 ――どうした?

『来れば分かる』


 『夢の男』はその言葉を残して、階段を駆け上がった。不親切な奴だ、と心の中で呟いた後、俺は見取り図を覗き込んだ。特におかしなことはない。

 強いて挙げるなら、相馬さんの部屋の壁が分厚いところくらいだろう。形容するなら、部屋が一つ収まりそうなくらいの――


「まさか!」


 思わず声を上げた。幽体が出せる最高のスピードで階段を上がり、相馬さんの部屋に向かう。閉まっている扉をすり抜けて、部屋の奥を見ると――


「なっ…………!」


 奥の壁が液体化されて、奥の空間が丸見えになっている。まず、そこに驚くが、そんな事は気にならなかった。


「何で……!?」




 そこには鎖につながれて、意識を失っている石田の姿が――




 そこまで思い出した時、『家』の前に着いた。

 車の中では、木南さんや美龍さん、そして海鳥さんが談笑を続けていた。しかし、俺を含む残りの人間は、一言も発する事は無かった。


「よしよし、着いた着いた」


 木南さんが車から降りて、その後に俺が降りる。それから車に乗っていた人たちが降りて行き、相馬さんが降りた時、


 グワッ、


 意識が宙に浮いた。

 そして、俺の姿が視界に入り、『夢の男』に変わった体が、



 相馬さんの首筋に掌を向けるのが見えた。



『いくつか質問する、嘘でもいいから答えろ』

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