第20話 木陰の下

 何者かがこちらに向かってくる足音がしたので、俺はバックステップを踏んだ後、まだ待機しているであろう警備員に命令を下す。


「撃て」


 それからコンマ数秒経って、十数発もの轟音が鳴り響く。放たれた銃弾が当たったのかどうかは、視界が真っ白に染まった今では分からない。

 分かった事は、俺の方に向かって来ていた足音が途絶えた事だ。


「気配が消えましたね……」

「油断するな。能力は基本的に、ある程度の範囲が決められている。そして、視界がまだ封じられているという事は、まだ敵が近くにいる確率が高い。気をつけろよ」


 そう言いながら、俺は周囲に気を張り巡らせる。

 向かって来たのであろう男の声は聞こえないが、周囲の驚きの声も聞こえない。仲間がが死んだとするには、不自然な静けさだ。もうすでにこの場を離れているか、それとも様子を見て不意打ちのチャンスをうかがっているか。


 ――動かないときりが無いが……周囲の状況が分からないと、そうするわけにはいかない。浮いた駒は、即喰われる。


 そう頭の中で呟いていると、右斜め前からカチッ、という音が聞こえた。


「回避っ!」


 言葉と同時に右側にステップ。直後、銃声が鳴って、後ろで短い悲鳴が起こる。


 ――一人やられたのか……?


 頭の隅で呟いて、すぐに刀を銃声の方に向けて飛ばす。




 すると、刀身に確かな手ごたえを感じた後、視界が元に戻った。




「…………」


 戻った視界には、誰一人、敵の姿は映らなかった。


「逃げられたか……」


 まぁ、いい。敵の首を一つ持っていけば、上も文句はないと言ったのは自分だ。先に殺していた奴を回収するために、ゆっくり木陰の下に歩を進めていく。


「しかし……一人助けるために、一人捨てるなんて……非効率的なやり方だな」


 と呟きながら、息の途絶えた何者かを視界に入れる。

 そこで、気づいた。


「こいつは……!」


 見た目、二十代後半の男。右手には拳銃を握っていて、腰や首に三本の刀が刺さっている。


 ――確か……こいつは分身の能力者じゃあ……


 なるほど、一杯喰わされたな……

 俺は刺さっている刀を一本抜いて、分身の頭を飛ばした。



 ――同時刻、海鳥達――



「相馬さん、さすがですね。あんな量の銃弾を潜り抜けるなんて」


 階段を走っておりながら、俺は相馬さんを称賛した。


「あのくらいなら訓練すれば出来るようになるさ。やってみるか」

「いや、遠慮しときます」


 冷たく返しながら、踊り場を左に曲がると、視界に男が映った。その男は、


「ここにも兵を配置してたか……」

「音が来る!」


 男が『鳴鏡止水』を発動しようとしたため、二人に伝える間もなく耳を塞ぐ。

 直後、車が人を轢くような音と同時に、車が人を轢くような光景が目に映った。


「あの車は……!」


 どうやら、目に映った光景は、見間違いではなかったようだ。見覚えのある車に轢かれた男は、少し離れた場所で倒れている。


「はいはい! 野次馬が集まる前に帰るよ~!」


 木南が大声でこちらに呼びかける。


「行きましょうか」


 という言葉と同時に視点を移動させると、後部座席に人影が二つ、目に映った。

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