第19話 視界の隅

「零線はゾンビの能力なんて、持ってませんよ!?」

「殺しても生き返るなら、ここでぶつかるのはデメリットしかない! 美龍! あいつの動きを止めてくれ!」

「もう、してます! でも、能力が効かないみたいなんです!」


 零線が飛び掛かってくる。そして零線は、フロントガラスに飛び乗り、銃弾が通ったヒビ目がけて蹴りを放った。すると、ガラスの破片が相馬さんに向かって飛び散り、その内の数枚が体に刺さる。


「ちっ……」


 しかし相馬さんは動じず、拳銃を再度構えた。そして、銃弾を数発放ち、零線の体を車体の前に落とした。そして、すかさずアクセルを踏んで零線の体を飛ばす。いくら死なないとはいえ、身体能力には限界があるのだから、自動車のスピードで逃げれば零線は追いつけない。

 しかし、敵は別に一人ではない。


「構えろ!」


 フロントガラスの奥に花宮の姿が見えた後、相馬さんが大声で合図をかける。


「一人だけ? 余裕ね」

「気を付けてください! 奴の能力は……」


 言い切る前には、奴の能力の全貌は見えていた。


「分が悪ければ悪いほど、強力になります!」


 花宮の周囲には十数本の刀が舞っている。


「皆殺しの命令だ」


 花宮が言い放った瞬間、舞っていた刀が同時に車に向かって襲い掛かってきた。

 それら全てが、ほぼ一点に集中して飛んでいく。

 そして、命中した。




 相馬さんの胸に。




 分身ではあるが。



「何で……全員に攻撃をしなかった……?」

「車を止めるのが先決だ」

「だから、運転手を狙ったと……」


 花宮が刀を戻す。それのコンマ数秒後に、相馬さんが分身を解いてアクセルを踏む、が、


「進まない……エンジンをやられたか……」

「正解。車を止めるのが、先決だから、な」


 刀が再度飛んでくる。


「出るぞ!」


 同時に全員が車を飛び出す。それと同時か、それより早くか、後ろで倒れていた零線が俺の方に飛び掛かってきた。


「邪魔!」


 何回も死んでいるせいか分からないが、動きが単調だ。だから、簡単に銃弾で脳天を貫けた。その後に、右足の蹴りで零線を突き飛ばし、花宮の方を見る。

 すると、花宮の刀の本数が一本だけ増えていた。でも、すぐに元に戻るだろう。


「木南! 先に『家』に戻っとけ! 車は予備があるだろ!」

「了解! ついでに、椎名君と愛戸も連れてきますね!」


 相馬さんが刀をはじく。

 その後すぐに、今までより鋭い顔色で、木南に呼びかけた。


「愛戸はいい! 椎名君だけ連れてこい!」

「…………?」


 木南は疑問に思ったような顔はしたが、状況を判断して即座にその場から立ち去った。


「追わないのか?」


 相馬さんが聞く。


「追う必要は別に無い。首一つさえ持っていけば、上も文句は言わないからな」


 花宮は静かにそう言って、刀を再度舞わせた。

 しかし、相馬さんに向かって正確に飛んで行く刀は、わずか二、三本だけだった。


 ――美龍さんの幻覚が効いているのか!


 俺はそう考えてから、即座に駆けて行く。すると、視界の隅で舞っていた刀が一本だけ消えた。


「後ろに注意!」


 予想通り、零線が飛び掛かってきた。遠距離型の能力ではないので、対応は容易い。

 零線に投げられる前に、拳銃の引き金を引いてこめかみに風穴を開ける。そして、近くにいた相馬さんが腹に蹴りを入れて、再度吹き飛ばす。

 しかし、その間にも十数本の刀が周囲を舞っている。


「……見えていなければ当たらないか……」


 花宮は低めのトーンでそう言う。しかし、こちらの足止めにも成功しているので、それほど問題ではないだろう。


「このままじゃ、切り抜けられません。どうしますか?」

「とりあえず、通信できるようにしろ。美龍もな」

「了解」


 俺はなんとか刀をかいくぐり、相馬さんの後頭部を触る。そして、同じように美龍さんの方も。

 俺の能力は『頭は口ほどに物を言う』という名で、頭に触れると、触れた相手にテレパシーを飛ばしたり、受け取ったりすることが出来る。もちろん時間は有限で、一時間だ。


 ――で、どうしますか、相馬さん。

 ――とりあえず、刀使いをどうにかしないと意味が無いな。しかし、こいつの能力強力すぎないか?

 ――花宮の能力は追いつめられるほど威力が上がるんです。

 ――それはさっき聞いた。それにしても、っていう事だよ。


 俺の足元に刀が刺さる。すると丁度、その刀が消えた。


「ちっ……また零線か!」


 と、文句を言いながら後ろを向く。

 しかし、


「違う!」


 零線は立ち上がっていなかった。


「しまった……!」


 慌てて後ろを向くと、刀が残り五本になっていた。代わりに、警備員が十人花宮の後ろに立っている。


「なるほど……お前が時間を稼いで、警備員をかき集めていたのか」

「ちょうどリミット、、、、だったみたいだしな。ギリギリだったぞ」


 花宮が舞わせていた刀を頭上に止めた。


「チェックメイト、だな」


 花宮が皮肉を口にする。

 しかし、こちらの相馬さんにも、皮肉を放つ余裕はあったようだ。


「あんたの雰囲気的に、詰みって言いそうなもんだけどな」

「……別に、和風を意識してはいないぞ」


 花宮は動じない。すると、そのまま一点を見つめながら刀を回転させている花宮をよそに、相馬さんがテレパシーを飛ばしてきた。


 ――俺に策がある。

 ――本当ですか!?


 心の中で、返事をする。


 ――あぁ、だから、俺の言うとおりに動いてくれ。


 その言葉を伝えると同時に、相馬さんは静かに笑みを浮かべて、花宮に言葉をかけた。


「それに、チェックメイトじゃない。まだ、チェックの状態だぜ?」


 その言葉と同時に、相馬さんは十一人の兵に向かって走り出した。

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