第18話 『奴』の戯言

「零……線……!?」


 そんなはずが無い。零線は殺した。拳銃で確実に頭を射抜いたはず、実際に男の脳天には傷跡がある。


「なんで……!?」

「考えるのは後だ! とにかく、この車は守らないと、ここから逃げられないぞ!」


 その言葉と同時に、相馬さんが懐から拳銃を取り出して引き金を引く。発射された銃弾はフロントガラスを貫いた後も進み続け、相馬さんの狙いだった零線の胸に着弾した。

 直後、雷が落ちたような轟音と閃光が零線の方から放たれた。


「爆発……?」


 爆発の中心には、耐熱使用の服しか残っていなかった。


「最初から自爆する気だったのか……?」


 それなら、納得できるような気もする。

 俺はしっかりと命を奪ったつもりだったが、零線は何らかの方法で生き延びて、自爆するための道具を装着した。そしてその後、上から飛び降りて爆発しようとしたが、偶々命を落とさずに済んだため、そのまま車に突っ込んでいこうとしたが、相馬さんの対処によって爆炎がこちらに届かなかった、という事か。

 いや、それでは出来過ぎている。最初に殺したつもりだったが、死なず、そして、次に死ぬつもりだったがそれでも死ななかった。これでは、零線がゾンビか何かのようだ。

 ここまで来れば、今生き返っても驚きはしないが……


「…………なんだ?」


 相馬さんがアクセルを踏もうとした直前、地面に倒れている服を中心に砂のような物が渦巻き始めた。

 そして――


「おいおい……」

「まじかよ……」

「冗談でしょ?」

「そりゃ無いですよ……」


 相馬さん、俺、木南、美龍さんの順番で、驚きの声を上げる。全員苦笑いを浮かべている。


「来るぞ!」


 ――飛び散った血や、肉の破片などが服の中に集まって出来た人型のそれ、つまり生き返った零線は再度こちらに駆け出した。




 ――数分前、『家』にて――


 『記憶』

 過去に体験したことや覚えたことを、忘れずに心にとめておくこと。また、その内容。

(goo辞書からの引用)


 つまり、自身が覚えている過去。

 その過去は、現在の自身を形成しているパーツであり、未来に進むための選択肢でもある。どう生きるか、何に成りたいかは自身の知っている過去の中から選ぶ。そのため、当然ながら『記憶』というのは必要なのだ。


 そして、現在の椎名にはそれが無い。


 俺を形成している『記憶』を、『奴』は持っていない。そして、その『記憶』は奴を形成するために必須だと言える自信がある。少なくとも、俺には。

 だから俺は『奴』を呑み込む。何も知らない『奴』を、全て知ってる俺を、助けるため。

 だから俺は奴を見つける。何も知らない『奴』を、全て知ってる俺を、助けるため。


 そして、俺は今石田の部屋に来ている。


 ――石田がいない……? 何で……?


 また、『奴』の戯言が聞こえる。

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