第14話 私の能力

「任務終了しました!」

「お、やっぱり今日は早かったな。状況が好転してくれて良かった」


 状況が好転、恐らく国の刺客が美龍さんを連れて行ったことを言っているのだろう。普通なら、敵が増えて好転とは言えないが。


「ここは……アジトみたいなもんですか?」

「うん、そんな感じだね。私たちは『家』って呼んでるけど」


 家、か……帰れる場所という意味でもあるのだろうか。


「特に意味はないけどね~」


 あ、そうですか……


「あなたが美龍さんですか。どうも初めまして、私がこの組織の首領、相馬凛駈です」

「初めまして。私は美龍白亜、十九歳です」


 十九歳……その年齢にしては、少し大人っぽく見える。

 長い黒髪に凛とした顔立ち。初めて見た時は、木南さんがため口を使っていい年齢には見えなかった。まぁ、十九歳というのもため口を使っていい年齢ではないのだけれど。そのため、木南さんにため口を使っていいんですか、と『夢の男』と交代した時に聞いてみると、


「死なないんなら、ため口使っても大丈夫じゃん?」


 と元気に返ってきた。後ろで美龍さんが少し腕に力を込めたのは置いといて、何故相馬さんには敬語を使うのか、と聞いてみると、


「だって、下手なこと言ったら殺されるじゃん」


 と返ってきた。ため口使っただけで殺されるとは思えないので、恐らく軽口の流れでなんか至らないことを言う恐れでもあるのだろう。まぁ、それでも殺されるというのは誇張なのだろうが。


「仲間に入る前、嫌だって抵抗したら左肩刺されて動きとめられたくらいだから、あの人やっぱり怖いわ」


 うえっ……思わず声に出した。俺はやっぱり、麻酔銃程度で良かったという事か。

 そんな話をしながら、俺達はこの『家』まで歩いてきた。車を使わないのは、ナンバー等で身元が割れやすいからだそうだ。そして、玄関で美龍さんと相馬さんが挨拶を交わした後、三人で段差を上り『家』に入った。


「あれ……?」


 リビングまで歩き、周囲を見渡した後違和感を覚える。


「どうした?」

「いや……石田さんはどこにいるのかな、って……」

「あぁ、それなら……」


 そこで相馬さんの言葉が一瞬だけ、止まった。


「……自室で色々仕事を済ませてるみたいだぞ」

「あぁ、なるほど」


 納得を意味する言葉を飛ばした後、俺は並べられた椅子に座る。そして、他の三人も机を囲むようにして座った。


「……さて、今日は色々あったが。これで一応すべての任務は終了した。石田はいないが、とりあえず今日の事について少しまとめよう。石田からの伝言は、ここに持ってある」


 相馬さんはそう口にして、右手に持っている紙をみんなに示した。


「まぁ、それより先に、美龍さんや椎名君について色々聞いてみようか。特に美龍さんはここに来てすぐだからね」

「えぇ、助けられた組織という事で、安心していますが一応犯罪組織ですからね。色々疑問はあります」


 美龍さんは大人な微笑みを浮かべながら言った。


「こっちもそんなに美龍さんの事は知らないから、とりあえず自己紹介を願えるかな」

「了解です。名前は美龍白亜、年は十九歳、趣味は絵描きです」

「能力は?」


 美龍さんが座ろうとする暇も与えず、相馬さんが笑顔で聞く。相馬さんの少し恐ろしいところが垣間見えた。


「……能力名は『絵に描く前の餅』。を操る能力です」

「白を操る……?」


 意味が分からず、俺が声を漏らす。


「えー、簡単に言うと、相手の視界を真っ白にしたり、自分の視界を遮る代物を見えなくしたりする能力です。まぁ、幻覚を見せるというだけなので実際に物体を消したり生み出したりは出来ませんけどね」


 最後に微笑んでみせる。相馬さんの圧力に負けない、という胆力を見せつけてくれた。


「ありがとう」


 相馬さんも微笑む。分かってはいたが、食えない人だ。


「いや~、幻覚能力って、強力ですからね~。大分戦力になるんじゃないですか?」

「戦闘系の能力と組めばかなりの物になるだろうな。もちろん、体術をある程度覚えるだけで一人でもかなりの物になる」


 木南さんと相馬さんが言葉を交わす。


「じゃあ、次は椎名君。自己紹介をお願い」

「え、俺ですか?」


 自己紹介など、する必要はなさそうだが……


「いや、椎名君から正式にまだ自己紹介貰ってないじゃない? だから、一応頼むよ」


 儀式のようなものなのかな? と考えてとりあえず口を開くことにした。しかし、


 ピピピピ……


 相馬さんのポケットから電話の着信音が鳴った。相馬さんは躊躇なくそれに出る。


「もしもし……あぁ、何だと……!」


 数秒、電話の主と似たようなやり取りをした後、相馬さんは電話をしまって慌てて立ち上がった。


「木南、海鳥かいとりが危ない」

「ばれたんですか!?」


 木南さんも慌てて立ち上がった。白亜さんと俺は、状況についていけずに座っていた。


「どうしたんですか?」


 白亜さんが聞く。すると、相馬さんが答えた。


「君にメッセージを残した国へのスパイが、国にばれたんだ」

「あの人が……?」


 美龍さんの表情は変わらない。国へのスパイというのは、恐らく『夢の男』が推測していた内通者という奴だろう。


「なら、私が言ってもいいですか?」


 美龍さんが笑顔でそう言う。


「でも……美龍さんはこの組織に入ったばかりですし……」

「椎名君は、入ってすぐに仕事に向かったという話でしたが?」


 やはり、美龍さんは会話を自分のペースに乗せるのが上手い。しかし、


「それは、『夢の男』という不安要素があったことと、仲間を助けに行くような大切な仕事ではなかったからです。まぁ、美龍さんを助けに行く任務が大切ではなかったというわけではないですがね」


 相馬さんもその手の技術は持っている。実際、『夢の男』という不安要素は任務に行く前に解消されていたし、美龍さんを助けに行くという任務が大切であるというのは自分から口にしている。

 つまり、相馬さんの言葉には何一つ説得力が無いという事だ。しかし、相馬さんの口調はそれを思わせないような何かがある。煽りや自身での否定を織り交ぜて、相手に否定させない高等技術だ。実際、言葉を聞いた直後は俺も気が付かなかった。

 だが、


「人を助けるだけなのなら、私の幻覚能力が役に立つのでは? 後方支援だけなら、訓練せずとも私の能力でどうとでもなります」


 美龍さんも押されずに反論する。なんとなくだが、美龍さんと相馬さんの口調には似たような周波数が見える。


「相馬さん、今回は退いた方がいいんじゃないですか? 多分、私や石田より、白亜さんが適任です」


 木南さんが珍しくかしこまって言った。


「うーん……しかし……」


 相馬さんはまだ何か言いたげだ。しかし、その言葉を止めるのは俺だった。


『おい』


 夢の男からの声。


 ――なんだ。

『相馬凛駈になんか反論しろ。そして、居留守の人員を減らせ』

 ――いいから、早くしろ。


 『夢の男』に急かされる。わざわざいう事を聞く義理はないが、『夢の男』の口調がいつもと違って真剣だったなので、相馬さんに反論することにした。


「相馬さん、やっぱり美龍さんに仕事に向かわせた方がいいと思います。幻覚というのは使えると、自分で言ってたではないですか」


 その言葉の影響はあったかは分からないが、相馬さんは渋々美龍さんの言葉を受け入れた。海鳥と呼ばれた仲間を助けに行くのは、木南さんと相馬さん、そして美龍さんだ。そして、俺は居留守。

 これで良かったのか、と『夢の男』に聞いてみる。すると、


『完璧だ』


 と返ってきた。

 当然ながら、目的は分からない。

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