第13話 国へのスパイ

「さ~て、白亜さんってどんな人かな~?」

「呑気ですね……」

「こういう時は、肩に力を入れ過ぎると失敗するんだよ」


 木南さんはそう言うが、俺はそんな気にはなれない。相手によれば、こちらが死に至る可能性も十分にある。そんな心配が顔にも出ていたのか、木南さんは俺に言葉をかけた。


「大丈夫だって、無理はしないから」


 その言葉と同時に見せた笑顔が、俺の心配を少なからずほぐしてくれる。

 しかしその笑顔は、石田からの連絡によって消された。


『木南さん、皆月、状況が変わりました』

「どうした……?」

『美龍白亜さんが国に連れていかれました』

「なんだと!?」


 一連のやり取りに俺がついていけてないのには、二つの理由がある。一つ目は状況を把握していないから。国とか連れていかれたとは言われても、どんな状況なのかは分かりづらい。

そしてもう一つの理由は、何故、そんな事を石田が知っているのか、だ。


『しかし、まだ間に合います。今から車の特徴を教えます』

「分かった」


 木南さんもそのことを流しているのなら、恐らく俺だけ聞かされていない何かがあるのだろう。


『黒の軽自動車で、ナンバーは一四八六。乗っている人は男が一人、女が一人、そして美龍白亜です』

「よし、覚えたぞ。その車はどこを通るんだ?」

『予測ルートでは木南さんたちとすれ違うようです、ただすでに通り過ぎている場合があるので――』


 直後、ひときわオーラを放つ車が俺達とすれ違った。

 黒の軽自動車で、ナンバーは一四八六。乗っている人は男が一人、女が一人、そして――


「石田、もう大丈夫だ。椎名君、『夢の男』とコンタクトとれる?」


 直後、『夢の男』に声をかけて応答を求めると、はいよ、と呑気な声が返ってきた。


「大丈夫です」


 その返事を待つことなく、木南さんは地面を蹴った。直後、消える。能力『急がば飛べ』だ。その能力を有効に活用して、赤信号で止まっていた車に追いつく。

 そして、ボンネットの上に乗り、


「はいっ!」


 という声と同時に木南さんはナイフを投げ、ガラスを割った。それは避けられたのか、もう一本ナイフを投げて追撃をした。

 直後、扉が開き男が転がり出てきたところで、俺がやっと車に追いつく。


「今だ!」


 という木南さんの声と同時に、俺は『夢の男』と入れ替わる。すると、『夢の男』は迷うことなく車に触れて、車を水に変化させた。


「これは……」


 男から声が漏れる。そして、地面が急になくなって対応できなかった女が無様に着地し、美龍白亜はしっかりと地面を踏んだ。


「洗脳は解かせてもらったよ。白亜さんは私たちが連れて行くから」

「待……て」


 木南さんの言葉に男が力ずくと言った様子で声を出す。ただ、俺は木南さんの言葉に違和感を持った。洗脳を解く能力なんてこの場にはないし、まず洗脳されていたなんて聞いていない。


『……お前、そんな事も分かってねぇのか』


 頭に流れ込んでくるような声。『夢の男』のテレパシーだ。


 ――お前は分かってるのか?

『当たり前だ。推測するには十分情報が揃っている』

 ――そこまで情報があるとは思えないんだが……?

『分からないのならそれまでだ。黙って見てろ』


 その一連のやり取りが終わった後、木南さんも女と話してから振り返った。


「いや~、今日はありがとうございました。助かりましたよ、やっぱりあの人のいう事は正しかったんですね」


 白亜さんがそう口にする。


「まぁ、私達の仲間だからね~」


 木南さんは初対面の人と話していることを悟らせないかのように、馴れ馴れしく言葉を返した。


 ――仲間……?

『まだ分かってないのか……?』

 ――うるさい。半分くらいなら推測出来てると思うぞ。


 少し、意地を張る。まぁ、ある程度は推測出来ているので嘘ではない。


『なら、その推測とやらを聞こうか』

 ――あぁ、まず、相馬さんの仲間には国へのスパイがいる。

『まぁ、そこには気付くよな』

 ――根拠は漏れていた情報だ。ただ、それを洗脳がどうたらとつなげるには推測が出来ない。

『そんなもん、簡単だろ』


 『夢の男』が呆れたように声を出した後、少し飛躍しているが、かなり納得のいく推測を口にした。


『洗脳を行った奴が内通者で、洗脳なんて行われていなかった、って事だ』


 なるほど……心の中で呟く。しかし、その内通者というのも洗脳を行った奴も知らないので、特に驚く事は無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る