第11話 私の頭

「……石田が、『核となる記憶』……どういう事だ?」

「だから、詳しくは言えないって言ったろ。聞きたいんならこいつから聞け」


 『夢の男』はそう口にした後、石田を指さした。多分だが、石田は答えないだろう。


「んじゃ、俺は戻るぜ。またな」

「待て。今回は、何しに来たんだ」

「何って……仕事前の挨拶だよ。よろしくな」


 『夢の男』は、口調とは似つかないおどけた様子で敬礼のポーズを取った。


「要するに、これからの仕事にお前は参加すると」

「出なきゃなんないときがあればだけどな」


 『夢の男』が軽く手を振るが、それを返す人は一人たりともいなかった。

 直後、俺に重力が戻る。


「うわっ!」


 俺の意識がに戻った後、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。


「戻ったのか……」


 相馬さんは、そう言うと同時に、銃を下した。


「何だったんでしょうね?」

「本当ですよ……急に出てきやがって、今までは喋りかけても来なかったのに……」


 結構大きな声で言ったつもりだったが、『夢の男』から声がかかってくる事は無かった。無視しているのか、本当に聞こえていないのかは分からない。


「まぁ、いい。とりあえず、『夢の男』に敵意が無い事は分かった。これで安心して仕事に行けるな。木南、頼んだぞ」

「了解~」


 木南さんが明るい声で返事をした。


「結局、行くんですね……」


 俺は、何をしていいのかも分からず数秒立ち尽くしていたが、木南さんが迷うことなく玄関へ向かているのを見て、俺も追いかけた。そこで、疑問を口にした。


「そういえば、何をしに行くんですか?」


 その疑問を耳に入れた相馬さんが、答えを口にする。


「能力者がいるって言う情報が入ったからな、国に盗られる前に仲間にしておくんだ」

「国に盗られる……?」


 一度聞いただけでは、意味の分からない単語の連なりに、思わず聞き返した。


「あぁ、そうか。まだ言ってなかったな」


 相馬さんは、親切にその疑問を解消させた。


「実は日本には、能力者特殊部隊という能力者だけの軍隊がある。現在は内密にされているが、世間に広まるのも時間の問題だろう」

「そんなものがあったんですか……」

「ただな、それは国が組織しているからと言って、誠実で綺麗なものでは無い。組織を構成している能力者は、加入してから暴力等を脅しに使われ、無理やり戦闘術を叩きこまれる。そして否が応でも、能力者や犯罪者の確保を命令される。女だろうが子だろうが、従う意外の答えは許されない」

「ひどい話ですね……」


 思わずそう呟く。ただ、よくよく考えると、能力者の確保を命令される点にはここも、そこまで違いはなかった。


「で、そんな奴等に盗られる前に、能力者を俺たちの仲間にする。そして能力者を守るっていうのが、俺たちの目的だ」

「なるほど……で、今からその能力者を仲間にするんですか……」

「あぁ、そうだ」


 相馬さんは、穏やかな笑みを浮かべて言った。


「ねぇ、話しが終わったなら、早く行こうよ」

「あっ、はい!」

「あ、待ってくれ」


 相馬さんが呼びとめる。


「能力者の名を伝えてないだろ? 椎名君には」

「あ、そういえば」


 名前を知らなくても仕事は遂行できそうだが、まぁ一応聞いておくことにしよう。



「ターゲットは美龍白亜みりゅうはくあだ」



 当然ながら、その名前には心当たりは無かった。



 …………



「起きたか、白亜嬢」


 目覚めた直後、頭上から不親切な声が飛ばされた。特に意味もなく腕を動かすと、ジャラジャラという無機質な音が鳴った。柱に鎖で繋がれているのだ。


「殺すんじゃなかったのかい?」

「それはやむを得ない場合だ。捕らえられれば、こちらに手はある。おい、新人」

「……はい」


 男の声に従って、一人の男が壊れた扉から出てきた。

 髪は白く、そして長い。身長も高く、どこかのモデルのような体格だ。こちらに向けられた青い眼が、どこか優しげな表情を見せる。


「では、この女性を洗脳すればいいのですか?」

「洗脳……!?」


 思わず声を漏らす。


「無駄口を叩くな、面倒なことになる」

「……そうですね、では」


 男が歩み寄って来る。そこから逃れようと抵抗するが、拘束されていてはどうしようもない


 そして、白髪の男は、おもむろに私の頭に掌を乗せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る