第4話 奥の部屋

「相馬さん……本当に、四十二歳なんですか?」

「ん? あぁ、正真正銘、四十二歳だよ」


 相馬さんはそう言うが、どこからどう見ても三十代前半……いや、二十代と言われても違和感が全くないほど、若い。嘘ついてるんじゃないのか?


「本当ですか……?」

「あはは! しつこいなぁ。まっ、気持ちは分かるけどね」


 笑顔でそう言ったのは、緑の髪をした道乃さんだ。


「道乃さん、そういわれてもこの人、四十代には見えませんって」

「私もそうだった、そうだった。この人、色々おかしいから。あと、私の事は木南、って呼んでいいよ」


 元気そうに出された声の途中で、相馬さんがため息をついた。おかしい、って言われたからか。


「木南さん! そんなに馴れ馴れしくしない方がいいですよ! その男の話、全く現実味が無かったですし」

「まぁまぁ、そんなこと言わないの。多重人格は存在しない、なんて事は無いし」


 石田という黒髪の女と、木南さんが会話する。内容は、少しぞっとしない。


「愛戸、そんなに頭を固くするな。確かに、危険性が全く無いというわけではないが、だからこそ身近なところに置いとき続けるべきだ。いざとなった時のためにな。」


 その言葉に、少し背中が凍る。もう、『夢の男』は出さないようにしよう。


「なるほど……」


 納得するんかい。


「まっ、というわけで、これからよろしくねっ。皆月くん」

「全然、よろしくできないんですが……」

「ふっ……まぁ、そりゃそうだな。でもまぁ、君が変なことをしない限りは、問題ないから安心しなよ」

「それは、フォローと捉えて問題ないですかね……?」


 その場全員が――正確には石田を除いて、声を上げて笑った。

 しかしその声は、唯一笑っていなかった石田の声によって、途切れた。


「相馬さん、敵です」

「なんだと?」


 その会話は、俺の方にも聞こえてきた。


「敵、って……」

「襲撃者だよ。まさか、もう皆月君を追って……」

「っな……!?」


 俺を追って、って……このっ、いつから俺の人生はこんなことに……!?


「何人だ?」

「二人です」

「……少ないな。恐らく、命令されてない独断行動だろう。なら、統制も取れてないはずだ」

「私は皆月を奥の部屋に移動させます。相馬さんは?」

「ん~、木南と二人で迎撃する」


 そう言葉が発せられた直後、

 ダン!

 と、大きな音を鳴らして、玄関の扉(恐らくだが)が開けられた。


「おいおい、正面からかよ。いよいよ独断確実だな」

「ほら、皆月! こっち来なさい!」


 言われるがままに、石田に着いていく。入口からはどんどん離れていき、その後に部屋へ無理やり入れられた。

 その部屋は、俺が寝ていた部屋とは違って、モニターや謎の機器が並んでいた。


「ここは……?」

「モニタールーム。普段は防犯カメラの映像を確認したり、木南さんたちが外に出て行ったときに通信するための施設よ」


 説明するのもほどほどに、彼女はモニターの前の椅子に座った。


「何してるの、早く椅子持ってきて横に座りなさい」


 適当な、と心の中で愚痴を言いながら渋々、立てかけられていた椅子を一つ手に持って、石田の横に置いた。


「何をするんですか?」


 と、言いながらモニターの方に目を向けると、木南さんと相馬さん、そしてその前に男女二人組が立っていた。

 一人は、かなり小柄で右手に包帯を巻いている黒髪の少女。もう一人は、ハットを被った背の高い白髪の男。どちらも真っ黒な目をしている。


「何って、ただ見るだけよ」

「え、助けに行かなくていいんですか!?」


 思わず、少し大きな声になる。恐らく、俺のことを悪く見ているであろう石田が、俺の身を案じてるとも思えない。ならば、味方の援護に赴くのが妥当なはずだが……


「二人で十分よ」


 その声色には、自信以外の何も含まれていなかった。


「あの人たちは、『蜥蜴』に勝てる」


 とかげ……? 襲撃してきた少女たちの組織名だろうか。

 すると、その少女の周囲に黒い何かが集まりだした。


「会話も終わったようね……」


 どうやら、戦闘が始まるようだ。

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