第3話 お前の犯行

 目を開くと、白い天井が目に入った。

 そしてその後に、右の方で会話をしている声が聞こえる。


「どうします?」

「う~ん……どうすっかな……」

「とりあえず話を聞きましょう。その後に……」


 次の言葉を聞いた直後、俺は声を上げずにはいられ無かった。


「殺すかどうか……」

「殺す!?」


 枕から頭を離し、会話の方を向く。


「あら……起きてたんですか」


 池の前で交戦した時にはいなかった黒髪の女性が、そう口にした。なんだか、不気味だ。


「なら……どうしましょうか……」


 今度は緑の髪の女が、嫌な笑みを浮かべて言った。やばい! 殺され……


「おいおい、そんなに威圧するなよ。この子がかわいそうだぞ」

「えぇ……だって、この人、れっきとした人殺しですよ」


 心外な。いや、間違ってはいない……のか?


「それを言うなら、俺達だって同じだろ」

「え? どういう事ですか……?」


 いつの間にか、自然と会話に入っていた。


「俺等は、能力者が集まって出来た、ちょっとした組織だ」


 能力者の組織……なんと中二心をくすぐらせる言葉なのだろう。しかし、今はそんなことを考えていられる状況じゃない。


「……犯罪組織ですか……?」

「まぁ、そうなるな」


 背筋が凍る。


「じゃあ、なんで俺がこんなところに……」

「それは、君が能力者だったからだ」


 これも……間違ってはいないけど、


「……それは、多分俺ではありません」


 最低でも、『俺』ではない。


「何を言ってるんだ?」


 男が呆れたような目を見せる。当然だ、彼は俺(『夢の男』の方)が炎の男を殺害した現場を、見たのだから。


「俺はしっかりお前の犯行を見たんだぞ? 別に殺したからどうのこうのは、この際どうでもいいが、お前が篠生を殺したのは確実だ」

 

 篠生というのは、炎の男の事だろう。ただ、今大切なのはその事ではない。

 そう考えた後、再度男の言葉を思い出して、殺したからどうのこうのが一番大事なんだがな、と、心の中で呟く。

 まぁ、ここが犯罪組織だから、戦力になるかどうかが最も大事なのも納得できるが。


「俺じゃないです。信じられないでしょうが……」


 俺は、推測も混ぜながら、『夢の男』の事や、能力の事を三人に向けて話した。

 ただ、自分でも話していて、それが信じがたい事実であることが簡単に分かった。


「多重人格!? あひゃひゃ、そんなの信じられるわけないじゃん!」


 緑の髪の女が大声で笑いながら、そう言う。予想はしてたけど……イラつくな。


「おいおい……木南、そう笑ってやるなよ。嘘をついてるようには見えなかったぞ」

「でも……あひゃひゃ!」


 ただでさえむかつくのに、笑い方がとてつもなく癇に障る。どうにかならないものか。

 と、考えていると、俺の考えに応えるかのように、男が嘲笑う女の頭を拳で殴った。喜々としていた目が涙目に変わる。


「でも……確かに、人を殺したにしては少し明るすぎる。証拠はないが、信じてはいけない話でもなさそうだ」

「まだ分かりませんわ。大量殺人者の可能性も……」

「大量殺人者……」


 黒髪の女の予想は外れている。彼女の言う五文字には、全く縁が無い。


「大量殺人者、って奴には見えないけどな。まぁ、もう一つの人格の方は分からないけど」


 ……確かに……


「まっ、そういう勘繰りは後でもできる。とりあえず仲良くしとこうぜ。君、名前は?」

「あっ……はい、皆月椎名みなつきしいなです」


 急な自己紹介を、なんとか済ます。


「私は、石田愛戸いしだめど。十七歳よ」


 黒髪の女は、同い年のようだ。


「うぅ……私は、道乃木南みちのきなです……十八歳、よろしく……」


 緑髪の女が頭を押さえながら言った。かわいそうに。


「俺は相馬凛久そうまりんく、四十二歳だ」


 ……は?


「よ……四十二歳!?」


 ははは……室内に笑い声が響いた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る