第38話 異世界にて炎のボール

「では、そろそろ我ら三姉妹の本当の恐怖を見せてやろう」


 そう言ってシスティナからボールを受けたディアーナが構える。

 今度を何をするつもりだ。そう思った瞬間、予想外のことが起きる。


「スキル発動! 『火炎』!」


 ディアーナがそう宣言すると同時にボールが炎に包まれる。

 な、なんだあれ!? スキル!? けど、ボールに炎って!?

 驚くオレをよそにディアーナはそのまま炎にまとわれたボールを投げる。


「くらええええええ!! ファイアーボール!!」


 先ほどと同じ剛速球を投げるディアーナ。しかし、今度のボールは文字通り炎に包まれている。

 それを正面から受け止めようとするセルゲイであったが、


「!? あちちちちちちっ!!」


 両手で止めた瞬間、燃え盛るボールに手を火傷したのかそのまま落としてしまう。

 あっ、まあ、そりゃそうだ。というかセルゲイのあんな間抜けな姿初めて見たかも……。


「はーはっはっはっ! 残念だったな! そちらのウォーレム族! ボールを受け止めようとして、そのボールを落とした場合は失格とみなされる! つまり、お前はアウトだ!」


 な、なにー!? そんなルールがあったのかー!?

 ディアーナの発言を肯定するように近くで審判をしていたドラゴン族が「ぴぴー!」と笛を鳴らして、セルゲイを陣地の外へ出るよう合図を送る。


「……すまん、天士。どうやらあいつらを見くびっていたようだ」


「いや、オレの方こそ彼女達を侮っていたよ。まさかあんなスキルの使い方があるとは思わなかった。セルゲイはそのまま相手の外野に移動してオレ達が投げるボールをキャッチしてくれ。で、あわよくば彼女達を狙ってアウトにしてくれ」


「了解した」


 オレからの指示に従い外野に移動するセルゲイ。

 さて、これで内野にはオレとリーシャのみ。

 とはいえ、リーシャの筋力ではあちらのドラコ三姉妹に当てるのは無理だろう。普通に取られる。

 となると、やはりオレが彼女達をアウトにするしかないが、あのシスティナと名乗る金髪の次女の防御を破れるかどうか。

 オレとセルゲイの筋力はほぼ同じくらい。現在、スキルによって防御力が増している彼女をアウトにするには正面からでは難しいな。


「審判ー! 少しよろしいでしょうー!」


 とオレが悩んでいると少し離れた位置にいたミーティアが手を挙げていた。


「はい。なんでしょうか?」


「実はそちらの天士様はスキルを持たない人物なのです。通常、スポーツルールにおいて一人一つのスキルが使用可能とされていますよね? ですが天士様にはそれが出来ない。ですので、こちらのサポートが天士様に対しスキルを一つ使用してもいいですか?」


 そう言ってミーティアはすぐそばで待機しているイノを指す。

 それに対し、審判は悩むような顔をしルールブックを確認する。


「……確かにサポーターの登録がされているのでしたら、それは可能ですが……」


 チラリとドラコ三姉妹を見る審判。それに対して長女のディアーナは笑みを浮かべて答える。


「構わんぞー! 元々我々三姉妹が圧倒的に有利なのは変わらない! そいつがスキルを使えないというのならサポーターによるスキル補助などあって当然だろう。むしろ、それくらいしてもらわないと私達も倒しがいがないわー!」


 と豪快な笑い声と共に許可を出す。

 それを見たオレとミーティア、そしてイノは頷き合う。


「それじゃあ、イノ。『剛力』を頼む!」


「はい、任せてください!」


 オレがそうお願いするとイノから放たれたスキルがオレの体にまとわれる。

 おお、これが剛力のスキルか!

 他人が使っているのは見ていたが、実際に自分がその恩恵を受けると、これはすごい。

 見た目はまったく変わっていないのに体中の力が溢れ、筋力が文字通り倍になった感じだ。

 よし、これなら行ける。

 そう思ったオレはボールに力を込め、それを目の前のシスティナ目掛けて放つ。


「はーはっはっはっ! 無駄だー! いくらスキルで強化されようともシスティナの防御は完璧! お前の剛速球などすぐに受け止めて――」


「きゃあああああああ!!」


「……へ?」


 ディアーナが自慢げに何かを言おうとしたが、それより早くオレの投げたボールが構えたはずのシスティナの体をそのまま軽く吹き飛ばし、彼女は地面に倒れる。

 その後、わずかな沈黙の後、すぐ傍にいた審判が笛を鳴らす。


「ぴ、ぴぴー! システィナ様、アウト! 外野へ移動です!」


「な、なんだとー!?」


 驚愕の叫び声を上げるディアーナ。

 それと当時に会場中にも動揺が走る。

 あちらこちらで「まさかあのディアーナ様が!?」とか「今の人族のボール、速すぎて見えなかったぞ!?」「あんなボールを投げる種族なんて今まで見たことがないぞ!?」と大騒ぎである。


「い、いたた……防御した手が真っ赤になってますわぁ……ううー、痛いですわー」


 見るとシスティナがさんが立ち上がり、真っ赤になった手にふーふー息を吹きかけている。

 あ、しまった。さすがにやりすぎたか。スキルによる強化のため、手加減がなかなか難しくなっている。

 オレはすぐにシスティナさんに謝るが彼女は気にした様子はなく「大丈夫ですわよ~すごいボールでしたね~」と逆に微笑んでくれた。


「それじゃあ、ディアーナお姉さま。私は移動しますけど、あの人のボールには気をつけてくださいね~。当たるとお姉さまでも多分滅茶苦茶痛いと思いますから~当たらないように注意してくださいね~」


「あ、ああ……わ、わかった……」


 そう言ってシスティナからボールを受け取るディアーナだったが、なぜだか怯える小動物のようにオレの方をチラチラと見るのだった。

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