第37話 ドラゴンドッチボール開幕!

「さあ、いくぜぇ!」


 ドラグニアの代表選手。リーダー各と思われるディアーナ=ドラコが右手にドッジボール片手に構える。

 ギリギリと片手でボールが軋むほど握り締めると、その後まるで野球のフォームのように肩を動かし、こちらへと投げる。


 ブオン! と勢いよく空を切り、かなりのスピードで迫る。


 うお! これは意外と威力がある!

 見た目は十四、五くらいの普通の少女だがそこから放たれたボールはオレの世界の成人男性が全力でボールを投げた時くらいの速度はある。

 確かにこれだけでもこの世界の種族からしたら驚異だろう。

 まず人族は取れないだろうな……。

 そんなことを思いながら、オレは向かってくるボールを真正面から受け止める。


 むっ、思ったよりも威力がある。少し、手のひらがジーンとした。


「なっ!? わ、私の剛速球を受け止めただと!?」


 一方でオレがボールをキャッチするとディアーナが驚いている姿が見える。

 それだけではなく周囲の観客達もざわめき出している。


「おい、マジかよ! あのディアーナ様の剛速球を正面から受け止めただと!」


「オーガ族でさえ、あの球を正面から受け止めるにはかなりの度胸が必要だと聞いた! それをあんな華奢な人族が!」


「やはり超人という噂は本当だったのか!?」


 まだ始まって間もないのに早速周囲の驚く声が会場中に満ちる。

 まあ、さすがにオレもそろそろ慣れてきた。


「ふ、ふふん! やるな人族代表! だ、だが! 今のは初手故の手加減した一撃だ! 覚悟しておけ! 私の本気は今の1.2倍の威力があるぞ!」


 それ結構微妙な数値じゃない? と思いつつもあえて口には出さず、オレは手に持ったボールを隣のセルゲイに渡す。


「セルゲイ。まずはお前が撃ってくれないか」


「わかった」


 オレが撃ってもいいのだが、正直なところまで相手側の力量を把握できていない。

 代表選手とは言え、三人とも女性。オレが本気で投げることで怪我をさせてはいけない。

 とはいえ、先ほどの剛速球を見るに、相手の身体能力は地球でいう成人男性くらいと考えても良さそうだが……。


「むんっ!」


 セルゲイが勢いよくボールを投げる。その威力は先ほどのディアーナに負けず劣らずの剛速球。

 さすがはウォーレム族。筋力で言えばセルゲイはオレと同じくらいの力はあるだろう。

 さて、これをどう返す。と相手の出方を見ていると、


「お任せ下さい~」


 そう言って先ほどの金髪長身のお嬢様、システィナ=ドラコさんが前に出る。

 マジで!? あの人が受け止めるの!? 大丈夫!?

 だが、オレのその心配は杞憂であった。


「スキル『剛壁』~」


 システィナさんがそう言うと彼女の体が僅かに光る。と同時に正面からセルゲイが投げたボールを受け止める。

 キャッチした瞬間、僅かに後ろに下がるが、しかし見事にこちらからボールを奪い返した。

 これにはさすがのオレもセルゲイも思わず感心する。


「はーはっはっはっ! 見たかー! システィナはいつも私の剛速球を受け止めている! こと守りに関して言えば、システィナが相手側からのボールを受けそこねたことは今まで一度もない!」


 なるほど。そういうことか。

 攻撃は長女のディアーナが、防御はシスティナが担当。それでこれまで相手チームを倒してきたということか。

 ん、それなら一番下のあのメルティナって子はなんだろう?

 と見ているとなにやら軽いフットワークをしながら、その場でジャンプしている。


「ちなみにメルティナは我ら三姉妹の中で一番の速力を持つ! どんなに速いボールでもメルティナに当てることは不可能! そして、相手が投げ疲れれば私の剛速球がトドメを刺す!」


 なるほど。避け担当というわけね。ドッチボールのルールではそうした避け続けることで相手の疲弊を狙うのも戦術の一つだ。

 そう考えるとこの三姉妹。案外バランスがいいなと感心する。さすがは代表選手か。

 この勝負、思ったよりも楽しめそうかもしれないと、久しぶりになまった体を全力で動かせる試合に思わず笑みを浮かべるのだった。

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