第32話「これまでとそれからと」
「ううー、何やら私が眠っている間にそのように色々なことがあったのですね」
あれからクリスト達との決着をつけたオレ達は、その場で未だ混乱していたミーティアに対し、これまでの事を話した。
セルゲイ達との勝負の結果。
バズダルの真意。
そして、クリストという黒幕がいたこと。
先程の鬼ごっこの勝負の結果も踏まえて話し終えたところで、何やらミーティアは悔しそうな表情を浮かべて、そう呟いた。
「私も天士様のお役に立ちたかったのに、これじゃあお荷物じゃないですか~! 折角一緒についてきたのにいいところなしですよ~!」
そう言って涙目を浮かべるミーティアであるが、オレもリーシャもそのようなことは気にしていなかった。
「いや、そんなこと気にする必要はないよ。それよりもミーティアの身が無事で安心したよ。オレにとってはそれが一番重要だったからさ」
「天士様……」
オレのそのセリフにミーティアはキラキラとした瞳を向けて、祈るように両手を組む。
「あっ、ですがイノさんはこれからどうなさるのですか? 今回の件はクリストさんが自国に帰ったあと公表して裁きを待つようですし、そうなればイノさんの奴隷になった経緯も仕組まれたものと発覚し、国に戻れるのでは?」
ミーティアのその発言に対し、しかしイノは首を横に振る。
「いえ、父上が目覚めたのであれは、エルフ国の統治は当分は安心です。それに先程も言ったように仕組まれたものであったとしても今の私は天士様に仕える奴隷です」
そう言って先程と同じようにイノの腕がオレの腕に強く絡んでくる。
気のせいか、前よりもイノが積極的になってる気がする。
そんなことを思っていると、ミーティアも同じことを感じたのかジト目でイノを見つめる。
「……それってもしかしなくても、単に天士様と一緒にいたい口実なだけでは?」
ミーティアのそのセリフに対し、イノは笑顔を浮かべたままそっぽを向く。
どうにも図星っぽい、その行動にミーティアは思わず両手をブンブン振り回す。
「なっ、ず、ずるいですわよ! 天士様は私達のヒーローなんですから、そのような独り占めは許されませんわよ! それに私だってまだ腕を組んだことないのに、離れなさいー!」
「そうはおっしゃいましても……私のためにここまでしてくださった天士様に尽くさないのはエルフ族の名誉にも関わります。今後は天士様のお傍を離れることなく、その世話をずっとしていく所存です」
「いや、あの、別にそこまでする必要はないんだけど」
さすがにずっと傍にいられるのも疲れるので、ほどほどにしてくれと頼むが、興奮した様子のミーティアとの言い合いに忙しいようであった。
そんな二人のやり取りを眺めていたリーシャや呆れつつも、どこか微笑ましい笑みを浮かべていた。
「姫様も、イノも相変わらずだなー。けど、これでようやくいつもどおりかな」
そんなリーシャの台詞にオレも苦笑いを浮かべつつ、同意する。
「イノ様が天士様にお仕えするのでしたなら、我らの領土もそれに仕えるまで。天士殿。また何か困ったことがありましたら、ぜひ私の方を頼ってください」
「バズダルさん……。はい、ありがとうございます」
オレは差し出されたバズダルさんの手を握りながら、そう返す。
思えば、この人も最初に印象とは随分変わったものだ。
それに弱小国である人族にとって、バズダルさんのような協力をしてくれる領土の存在はありがたい。
いずれ、彼の力を借りることもあるかもしれないと思いながら、オレはバズダルさんとの握手を終える。
「天士……」
そして、そんなバズダルさんに仕えていたスポーツ選手であるセルゲイが何やら真剣な表情でこちらに近づいてきた。
「天士、よければ今後はオレもお前と同じチームで……いや、人族と一緒に戦わせてもらえないか?」
その思わぬ提案に対し、逆にオレの方が驚き息を呑んだ。
「そりゃ、オレからすれば願ってもないことだけど、お前の方はいいのか? お前が仕えているのはバズダルさんなんだろう?」
「バズダル殿からの了解はすでに得ている。お前に仕えることはイノ様に仕えることでもあると言ってな。それにオレ個人としては、お前と一緒に今後もスポーツをしていきたい。許されるならパートナーにして、もらえないだろうか……」
そう呟いたセルゲイは、後半恥ずかしさのために小声で呟いたが、それがセルゲイの本音であると気づき、オレは一も二もなく頷いた。
「勿論、大歓迎だせ。これからよろしくな」
そう言って差し出したオレの手をセルゲイは一瞬ためらったが、すぐに力強い握手を交わしてくれた。
「ミーティア姫も構わないかな?」
「もちろんですわ! ウォーレム族が仲間になってくれるなんて、私達人族にとってはこれ以上ない戦力ですわ!」
「まあ、オレの活躍の舞台がちょっと減りそうなのがあれだけど、いいんじゃねーか。けど、オレの方が先に天士のパートナーやってるんだからな。お前はオレの後輩だぞ、いいな!」
「わ、分かった……」
ミーティアもリーシャもそれぞれセルゲイを歓迎しながら、オレはそんな一同のやり取りを眺め、自然と笑みがこぼれていた。
やがて僅かな談笑の後、空から日が落ち始めた頃、オレ達はそれぞれの国へ帰る準備を始める。
後ろでは、鬼ごっこの舞台となった遺跡が夕日を背に美しく輝いており、その背後にはエルフ族の国である森が地平線を埋め尽くすほど広がっていた。
オレはその美しい光景を忘れないよう胸に刻み、そして、馬車に乗ると同時に告げる。
「それじゃあ、帰ろうか。人族王国ルグレシアに!」
『はい!』
皆の掛け声と共にオレ達はそれぞれの居場所へと戻っていった。
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