第30話「異世界鬼ごっこ④」
「なっ……」
残ったルークは消えたクリストのいた方角をじっと見つめ、そこに佇むオレに対し、驚愕の表情を向ける。
だが、やがてどこか観念したようにため息を静かに吐く。
「……一体どういうことっすか?」
それは先程オレが使用した『変化』のスキルについての疑問であった。
「あなたが持っているスキルは『偽装』のはずっす。現にオレの『看破』のスキルでもあなたが持っているのは『偽装』だと映ってるっす。なのに、なぜ『変化』のスキルを使えたんっすか?」
先程、クリストはオレに対し『変化』のスキルを使い触りに来た。
その状況から逆にオレが奴をアウトにするには、やはり同じように役割を『変化』させるしかない。
そして、それが可能なのは『変化』のスキルのみ。
『偽装』では、そのようなことは絶対に出来ない。
「簡単だよ。オレが持ってるスキルは最初から『変化』で、『偽装』は別の奴が持っていたってことだよ」
「別の奴……?」
オレのその答えに対し、ルークは考え、やがてその答えにたどり着いたのか「ハッ」とした表情を向けた。
「そう。『偽装』のスキルを持っていたのは――リーシャだよ」
オレが立てた作戦はこうであった。
まず、最初にスキル『偽装』を持ったリーシャが自身に『偽装』のスキルを使って、役割とスキル名を偽装した。
その後、オレが持つスキル名の偽装もしてもらい、リーシャとわざと別れて別行動を行った。
クリストは十中八九、スキル『調査』を持ち、個別となったリーシャを狙うと確信していた。
この鬼ごっこにおいて、別れて行動を行うことは愚策であり、一人となればそれは各個撃破のいい的。
無論、そのことはオレも気づいており、だからこそ、あえてそれを逆手に使った。
リーシャのスキル名を連中に見せた後、リーシャが退場した後、オレとセルゲイとで連中を追う。
そして、対峙した際、クリスト側にオレ達を『看破』のスキルで覗かせ、オレが持つ偽装されたスキル名を見て、連中の油断を誘う。
あとはタイミングを見計らって、オレが『変化』のスキルを使うだけ。
無論、これにはクリスト側が『調査』と『看破』のスキルを持っていなければ、それを万全に活かすことは出来なかっただろう。
だが、それでもオレはクリストがそのうちのどちらか、あるいは両方を高い確率で持っていると踏んでいた。
逃げ回ることが基本の鬼ごっこにおいて『調査』ほど優れたスキルはない。故にこのスキルはほぼ必須と言っていい。クリストほどの男がこれに気づかないはずがない。
残る『看破』も、クリストといくらか会話したことで奴のプライドの高さ、自ら相手を屈服させようとする性格に気づき、それを取る可能性が高いことに気づいた。
逃げ回ることが基本の『村人』ではあるが、ルール説明を聞いた時から、このスポーツは『村人』側が攻勢に転じても勝利できる競技であると気づいた。
そして、奴ならば、そうした皮肉を突きつけて勝利を掴むこともありえる。
このことも妹であるイノもその可能性が高いと支持してくれた。
彼女の目から見てもやはり、クリストのそうした気位の高さは以前から感じていたらしい。
オレも様々なスポーツでいろんな相手と戦ってきたために、過去にそうしたプライドにこだわった勝負をしてくる奴とも戦ってきた。
結果、クリストの思惑、そして作戦を見事上回ることが出来た。
無論、これを成功に導いたのは他でもない。リーシャの協力あってこそだ。
「……なるほどっすねー。まさか、あの子が『偽装』スキル持ちだったとは、これはいっぱい食わされたっすねー」
「先に退場すれば、そいつの持っていたスキルが本物かどうかなんてもう区別のしようもないだろう」
「確かに。そこまで考えられたんじゃー、オレ達の負けっすねー」
残った最後の一人、ルークと名乗ったエルフはそう爽やかに笑い、自分達の負けを宣言する。
「……けど、まっ。オレもエルフ族の代表なんで、最後まで足掻かせてもらうっすよ」
しかし、それとこれとは別とばかりに、ルークは最後までやりきる覚悟を胸に再びセルゲイの方へと振り向き、オレへの警戒も怠らなかった。
「そうだな。せっかくの勝負なんだ。最後まで全力でやろうぜ」
そんなルークへの敬意をオレもセルゲイも見せるべく、ルークを囲むように距離を取り、やがて僅かな攻防戦の末、オレの放った手がルークの体へと触れるのであった。
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