第29話「異世界鬼ごっこ③」
「どうやって我々の位置を確認した?」
前方をセルゲイ、そして後方をオレに挟み撃ちされたクリストは、最初は驚きつつも、すぐに平静を取り戻し、そう問いかけた。
「言う必要もなく分かっているだろう? 『調査』のスキルを使わせてもらった」
「……だろうな」
オレの答えに対し、クリストは「やはり」と言った表情で頷く。
スキル『調査』は敵・味方の位置を把握する能力だが、遺跡内部の構造も調査することが可能であった。
当初は遺跡内部の複雑な構造に戸惑ったが、その仕様に気づいた瞬間、オレはリーシャにあえて囮となり単独行動をしてもらうことで、クリスト達をこうして挟み撃ちにする作戦を思いついた。
正直、リーシャを囮にする作戦には気が引けたが、それでもリーシャは快く承諾してくれた。
何よりも勝つための作戦であるのならば、迷う必要はないと逆にオレが背中を押されたほどだ。
故に、こうしてクリスト達を挟み撃ちにする状況を作れたのは他ならないリーシャのおかげ。
オレはリーシャのためにも、何よりもイノのためにこの勝負に勝利する。
「――いいだろう。ならば、ここで決着をつけるまでだ。ルーク、構えろ」
もはや逃げ場はないと観念したのかクリストは静かに隣にいるエルフの青年ルークに対し告げる。
「おっ、マジっすか、クリスト様! ラッキー!」
そんなクリストの宣言に対し、ルークは生き生きとした表情でセルゲイに向かい合い、その身を構える。
軽く見た感じ、あのルークというエルフ族の身体能力はクリスト達の中では一番高そうであった。とは言え、オレもセルゲイの一対一の戦いならば負ける気はなかった。
本来ならば、このままオレとセルゲイとで一気にクリストとルークの二人を捕まえるべきなのだが、そう単純にいかないのがこの鬼ごっこのルールであった。
「ルーク、スキルを使え」
「あいよーっす!」
そんなこちらの内心を見破ったのかクリストが先に仕掛けた。
隣にいたルークが何やら両手の指でカメラを取るような仕草を取ると、そのままオレとセルゲイを交互を覗き込む。
「スキル『看破』発動っす」
それはスキルの発動であった。
この世界のスキルは名前を宣言しなければ発動しない。
これはイノから教えられたことであり、今回の作戦においても重要な点であった。
即ち、相手が何のスキルを持っているのか、その宣言で見極められるからである。
最もそれは向こうも同じなため、こちらもスキルを使う際には慎重にならなければいけなかったが、それも向こうが『看破』を使ったことで必要がなくなった。
「んー。天士って選手の役割は『鬼』、スキルは『偽装』。で、そっちのセルゲイさんの役割は『子鬼』、スキルは『調査』みたいっす」
「なるほどな」
ルークからの説明を聞き、頷くクリスト。
そう、『看破』のスキルを使われれば、こちらの役割だけでなく、持っているスキルも看破されるために、スキルを宣言しなくても向こうには筒抜けとなる。
「『偽装』か。まさかそのようなスキルを使ってくるとは思いもよらなかったよ。天士君。おかげさまであのリーシャという子供にはまんまとしてやられたよ。恐らくは今回も君かそちらのセルゲイ君の役割を偽装しているのだろう。全くこうして使われてみると厄介なスキルだ」
そう言ってこちらに話しかけるクリストであったが、しかし、その顔は勝利の笑みに満ちていた。
「だが、相手が悪かったな。こちら側にもそうしたスキルに対する対策は整っている。君達は私達を追い詰めたつもりなんだろうが、残念ながら逆だ。追い詰められたのは君達の方だと思うがいい」
断言するクリストに対し、オレは僅かに背筋が凍る感覚を覚えるが、そんな相手の威圧感に負けることなく、僅かに一歩を詰める。
しかし次の瞬間、先に動いたのはクリスト達であった。
「ルーク! ウォーレム族を狙え!」
「あいよーっすよ!」
クリストの指示に対し、すぐさまセルゲイへと駆け出すルーク。
『子鬼』であるセルゲイに近づくということは、ルークの役割は『村人』か?
しかし、こちらが偽装を使って役割を偽っているかもしれない可能性に対して、無策に突っ込むのはクリストらしくないと思ったその瞬間――
「スキル発動! 『変化』!」
クリストのスキル『変化』がセルゲイに対して使用された。
馬鹿な!? スキル変化で変更できるのは自分達の役割だけのはず……いや、そうか!
「セルゲイ! 回避しろ!」
オレが叫ぶよりも早く、セルゲイも何らかの嫌な予感を感じたのだろう。
咄嗟に後方に回避し、接触しようとしてきたルークから即座に距離を取った。
それを見たルークは面白そうな笑みをその顔に浮かべる。
「へえ、いいっすね。さっすがウォーレム族! アンタと戦えるのマジ楽しみにしてたっすよ」
そう言ってステップをしながらルークはセルゲイとの距離と一定に保っている。
僅かな動きしか観察出来なかったが、やはりあのルークというエルフ族はそこそこの身体能力を持っているようだ。
おそらくスピードや反射神経に関して言えば、オレが前に戦った獣人族と同じかそれよりも少し高いみたいだ。
と、そのような観察もそこそこにオレは目の前にいるクリストへと意識を集中させる。
そこには先程見せた自信に満ちた笑みが顔に張り付いていた。
「どうやら今ので分かったらしいな。私が何をしたのか」
「……ああ。けど、まさか『変化』にそういう使い方があるなんてな」
それは先程、クリストがセルゲイに対して使用した『変化』の特殊な使い方。
『変化』は役割を変化させるスキルだが、鬼を村人に変えることは出来ない。あくまでも自分達側がこなせる役割にしか変化出来ない。
だが、言い換えるならば変化できる役割ならば、相手にも使用出来るということ。
「セルゲイの役割を『鬼』か『子鬼』のどちらかに変化させたんだな」
「その通り」
オレの説明に対し、頷くクリスト。
クリストはこちらが『偽装』のスキルを使い、役割を変化させていると思い、そのために迂闊にこちらに触ることは出来ないと思っていた。
だが、先ほどのクリストのスキルでセルゲイの役割は『鬼』か『子鬼』かのどちらかに確実に変化された。
そうなれば『看破』のスキルで見る偽装のデータに惑わされることはなくなる。
クリストが変化させた役割でセルゲイは確定しているのだから、それを捕まえられるルークをセルゲイにぶつけた。
そして、そうなると残るこちらの対処も同じである。
「正直、このスキル『変化』は消耗が激しい。私ですら一回の試合で使えるのはせいぜい三回。続けての使用となれば二回が限度。だが、その二回でこの勝負も決まる」
言ってクリストはこちらに人差し指を向け、オレに対し宣言する。
「スキル発動『変化』! 貴様の役割を『鬼』に変化させる!」
それは『看破』で見たオレの役割であったが、クリストはそれが『偽装』によって書き換えられたデータであると確信し、改めてオレの役割を『鬼』に変えた。
クリストの『変化』のスキルを受けたことでオレの役割はこれで『鬼』に確定した。たとえ『偽装』によって役割を変えようとも、『偽装』が変えるのは表面上のデータのみであり、実際の役割は変化しない。
そして、『鬼』となったオレを捕まえられるのは『狩人』のみ。
わざわざオレを『鬼』にして、一体一の構えと取った以上はクリストの役割は――『狩人』ということ。
「さあ、今度は君達が逃げる番だ。最も時間いっぱいまで逃げ回っても、それはそれで私達『村人』側の勝利なので都合がいい。さあ、好きな敗北を選ぶがいい!」
その宣言と共に、こちら目掛けクリストが走ってくる。
躱せない距離ではないし、スピードから言って逃げ回ることも可能だ。
おそらく時間ギリギリまで捕まらない自信はあるが、それをしてもクリストの言う通り、オレ達が勝つことは出来ない。
セルゲイとはクリストとルークを挟んだ距離まで引き離され、もはや万事休す。絶体絶命とも言える最悪の状況。
ではなく――
「――いいや、逃げ回るなんてする必要はない」
これこそが、オレが待ち望んでいた絶好の好機。勝利への道しるべであった。
「スキル発動! 『変化』!」
「!? なにッ」
クリストの手がオレの肩に触れる瞬間、オレはそのスキルを発動させる。
そして、オレのスキル発動後にクリストの手がオレに触れると、この場に審判者の声が響く。
『エルフ族チーム。クリスト選手、退場となります』
「ば、馬鹿な!」
信じられないといった叫びを上げ、クリストはなにが起きたのか理解出来ぬまま、その姿は消えていった。
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