第28話「異世界鬼ごっこ②」
「一体、どういうことだ……」
目の前で起きた結果が信じられず呆然とした様子で呟くクリスト。
すぐさま彼は隣にいるルークへ看破のスキルを再び発動させるが――
「いや、間違いなくあの子は『子鬼』っすよ。クリストさん」
ルークからの返答は変わらなかった。
スキル『看破』によって映し出されたデータでは、目の前の少年の役割は『子鬼』。
『子鬼』は『村人』が触れば即座にアウトとなる役割。
先程触ったローゼの役割は『村人』。にも関わらず触れたローゼがアウトとなった理由は――
「そうか」
頷きクリストは納得する。
「スキル『偽装』。それを使って役割を偽装させていたのか」
「……ああ、正解だぜ。インテリエルフさんよ」
クリストのその発言に対し、リーシャは笑みを浮かべて頷く。
「『偽装』はデータを偽りのものにするスキル。だが、それはあくまでも『看破』などのスキルによって、こちらが閲覧出来るデータを改ざんするもの。実際に役割が変わるわけではない。このようなスポーツ勝負においてそのようなスキルを選択する者など今までいなかったが……よもや、それを使ってこちらの『看破』を逆手に取るとは……」
これまでに経験したことのない相手のやり方に始めて顔色を変えたクリストは目の前の少年のデータを書き換えた人物にあたりをつける。
「あの天士とかいう奴の作戦か?」
その問いに対してはリーシャは答えることはなく、ただクリスト達と距離をとったまま警戒を続けていた。
「……まあ、いいだろう。ひとまずお前にも退場してもらう。その後であの天士とかいう奴も即座に退場に追い込んでやろう」
「どうかな? あいつは運動神経だけじゃなく、頭も切れるぜ。少なくともこんな囮に引っかかったアンタ達に倒せるとは思えないけどね」
「……ッ! ほざくな!」
そのリーシャに発言に頭に来たのかクリストの表情が変わり、激情に駆られるようにそのままリーシャへと駆け出す。
元々狭い通路の上、遺跡の構造に慣れていないリーシャに比べ、クリスト達はこの遺跡で幾度となく鬼ごっこを繰り返し、地理は完璧に把握していた。
僅かな攻防戦の末に、クリストの手がリーシャの体に触れ、再び遺跡の中に審判の声が響く。
『人族チーム。リーシャ選手、退場となります』
その審判の声と同時にクリストの眼前でリーシャの姿は消えたが、その顔は役割は果たしたとばかりに強気な笑みを浮かべており、その最後の表情さえクリストの癇に障っていた。
「チッ、あのような雑魚に時間をかけるとは……。それにしても『調査』のスキルを持ったローゼをなくしたのは痛手であった」
言ってクリストは忌々しそうに吐き捨てる。
この鬼ごっこにおいて『調査』のスキルを持っているかいないかによって大きな違いが出る。
特に逃げる側である『村人』は『調査』のスキルを持つことによって『鬼』側の行動を把握し、常に一定の距離を保って逃げ続けることが出来る。
最悪、そうして『鬼』との距離を一定に保ち、残り時間を過ぎるだけで『村人』側の勝利になるのだ。
「……仕方がない。こうなれば、この遺跡の中を動き回り、連中から逃げて、残り時間を潰すぞ」
クリストのその宣言に対し、ルークも考え込むように頷く。
「……確かに『調査』のスキルがない以上、あの二人の居場所も分からないですし、ここは動き回るしかないっすかねー」
クリストの戦略は『調査』を用いて相手の位置を把握し、その後、『看破』を使用し、相手の役割やスキルを見抜いた後、適材適所をぶつけることで、逆に鬼側を全員アウトにして完全勝利を収めることにあった。
それは本来、追われる側の村人が逆に鬼を全てアウトにするという矛盾した戦略であり、プライドの高いクリストはそうした勝利を収めることで優越感に浸っていた。
しかし、今回は予期せぬ相手の策略により、敵味方の位置を把握するのに重要な『調査』のスキルを持つローゼが抜けたために戦略を変えざるえなかった。
「どうもあの天士という奴を舐めすぎていたかもしれん。まともに戦っても私の戦略が敗れるとは思わん……が、万が一ということもありえる。制限時間までに捕まらなければ『村人』である我らの勝利。連中が『調査』のスキルを持っていなければ、このまま遺跡を逃げ回るだけでも勝機は十分にある」
「まあ、確かにそうっすけど、オレはちょっと残念っすかねー。あの二人とは真っ向から戦ってみたかったっすけどねー」
「お前の意見など聞いていない。それよりもさっさと移動するぞ」
「はいよーっす」
そう言って、移動を開始する二人であったが、すぐさまその歩が止まることになる。
「……クリスト様。こういっちゃなんですけど、どうやら逃げ回る作戦ってのは無理かもしれないっすねー」
「……そのようだな」
そう呟くルークに対し、クリストもまた頷く。
二人が見つめる先の通路、そこからひとりの男が姿を現す。
褐色の肌に、鍛え抜かれた肉体を持つ種族。ウォーレム族のセルゲイ。
そして、もうひとり。
それは彼らの背後から足音と共に近づいてきた。
「よお、決着をつけに来たぜ。クリスト」
その声に振り向くクリスト。
そこには金色の髪をなびかせる青年、人族代表選手――天士の姿があった。
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