第23話 プロープドロイド隊出撃
バーム軍島宇宙方面軍には、プロープドロイドが大量にある。広大な島宇宙を探査するのが、島宇宙軍の主な役割だから当然である。ダニエル中将は、これに目を付け、リチャードに、戦闘用に改造させた。プロープドロイドは、小惑星の地形や資源探査が主目的なので、地上を這うようなロボットが多い。それが一番低予算で作れるので、種類も数も多い。その中には、地上戦を想定した特化型ロボットがある。救護ロボットBi3型がそうで、6本足で、這うように高速で動く。人を乗せることができる強度を持っており、負傷兵を本陣まで運んでくれる。移動中、負傷兵に簡易の治療をするのだが、防護服を自分に固定してしまうので、その状態で、敵に狙われると、その負傷兵は、死にそうでもBi3型を守らないといけなくなる。
これは、リチャード少将のロボットラブの本末転倒している部分である。
その、リチャード少将が愛情を注ぎこんで、開発したのが、クラゲ型プロープドロイド、Jf5型(ジェリー・フィンガー・ファイブ)である。
反重力エンジン搭載。地上を浮遊しながら、小惑星を探査する。移動は、パルスエンジンも使っていて、高速移動ができる。これは、アバターシステムによって、遠隔操作されるので、人が搭乗しているかのような動きをする。
Jf5型は、パルスエンジンを6基も搭載しており、前進後進だけでなく上昇、下降、左右にも、素早く動く。レザーキャノン砲を2基備えた、浮遊砲台顔負けの攻撃力を持った浮遊ロボットである。
これの、ちょっと変わったシステムが、バリヤーで、5本の足の先にバリヤーを展開。敵の攻撃に対して、盾のように使う。足の先端には、センサーがついており、敵の攻撃が来たら、その都度バリヤーを張る。
これを戦艦に応用できたら、大きなバリヤーを張らなくて済む。小さな宇宙艇を何艘か盾として使えばよい。ガンゾが、ケレス軍のルーツイアと、このJf5型を見て、次世代防御システムを開発するのは、もう少し先の話。
リチャード少将は、島宇宙方面副司令官になれと、ずっと言われているが、ダニエル中将から離れない。おかげで、家族は、ずっと宇宙暮らし。元々、月の人なので、島宇宙も同じようなものである。パラスは、月に近い惑星なので、余生をここで送ってもよいと考えている。奥さんも月の人で、ブレーメンを気に入っている。娘は、今年バーム軍のアカデミーに入った。地球にあるアカデミー入隊のため、1年前から月の里親に預けている。しかし、卒業したら、両親がいるパラスに、入隊希望を出すと、泣かせる話をしてくれる。
娘のためにも、この戦いに勝たないとな
リチャード少将も、ダニエル中将やオーエン特務と一緒で、現場主義である。アバターシステムの集中操作ルームに行き、待っていた操縦者とともに、アバターポットに入った。仮想空間では、49機ものJf5型が自分の周りを囲んだ。
「作戦は簡単だ。上空から、敵をいやというほどやっつけてやれ。地上の攻撃は全部受けろ。敵は、浮遊砲台で対抗するしかない。だが、浮遊砲台には勝つな。敵の攻撃は、できるだけ回避しろ。浮遊砲台とは、いい勝負をしつつ、ディープホール外縁に退却するふりをしておびき出せ。そこまでしたら、回避ではなく、攻撃を全部受けてもかまわん。我々だけでも、浮遊砲台に勝てるが、勝つな、守るだけでよい。殲滅は、地上軍にしてもらう。我々の役目は、浮遊砲台を、ディープホール外縁に足止めすることだ」
「どの隊を助けます?」
「移動砲台を守っているソーサー隊だ。ディープホールに近い。敵には、蛮槍兵なる厄介な盾役がいるが、レーザーキャノン砲を人の身で受けるのはつらい。(普通は無理、蛮槍兵は化け物)何発も受けられるものではない。逃げたら、ソーサー隊と共に、ブレッド隊を追い詰めろ、敵の援軍だか伏兵だかが来たら、その、援軍は殲滅だ」
「その援軍。全部殺すのですか」
戦争なのだが、リチャードのアバター隊は、優しい。
「シャルロット、これは戦争なのだ」
「でも!」
「少将、救護ロボットBi3型を大量に配備して、敵の負傷兵も助けたらどうです。敵は、自軍の兵士を捕虜にされて、さらに躍起になると思います」
「ハッジ、貴官の言うことも一理ある。自分で作戦を提案したんだ。今回の総指揮は、君がやれ」
ハッジは、仮想戦闘数千時間の猛者。階級は少佐で、元々、ここの、指揮官の器。
「少将殿は?」
「監督でいいだろ。シャルロット、救護ロボットBi3型の準備をしろ。操作責任は君がやれ。何台使ってもかまわん」
「ありがとうございます」
こうやって、異色のロボット隊が、ブレーメンから出撃した。上空には、5本の長い肢があるクラゲが50機、地上には200体とも、300体ともいえる6本足の救護ロボットBi3型が、ぞろぞろ出てきた。シャルロットは、持ち場以外の負傷兵も助ける気満々だ。
5日目 1000時 パラス自転2回目の朝
移動砲台の主砲は、1門9GP、3門ある。これを撃てないのでは、戦争にならない。ケレス軍は、移動砲台のプラズマ砲に、撃たせる暇を与えないように、駆逐艦をさらに呼んで主砲を連弾するように撃ちまくった。その主砲の合間は、戦車のレーザーキャノン砲で埋めたので、浮遊砲台は、バリヤーを外して砲撃することができなくなった。戦車は、これを機に前進を始めた。戦車が上がれば、隊全体も進撃できることになる。ここに、ケレス軍の大攻勢が始まった。
バーム軍のファイター隊は、連弾している駆逐艦の無力化を狙って、出撃。当然ケレス軍ファイター隊が応戦してきた。昨日のファイター戦にパワーグラビトンは出撃していなかったのに、イーブンな戦いを演じられて、ケレス軍は、ファイターを大量に投入。駆逐艦を地面すれすれに進撃させて、ディープホールに入り込み、穴からファイターを狙う作戦も並行して行われている。昨日そんなそぶりを見せた。これを大量にやられるととバーム軍は、今日の作戦自体を見直さなくてはいけなくなる。ディープホールに侵入してくるケレス軍には、3基目の移動砲台が、プラズマ砲で牽制することになっている。3基目の移動砲台は、バックナーの作戦もやらないといけないので、とても難しい判断を迫られる。オーエン特務の移動砲台が、今作戦の要となる。
ケレス軍パラス方面キリル提督は、戦場を俯瞰するように戦略用の机にあるモニターを見た。相手は、骨董品ばかり出してきているのに、その改善には、驚かされる。イオン粒子砲しかり、プラズマ砲しかりである。ブレーメンから、プロープドロイドが、大量に放たれたのを見て警戒しているところだ。
そこに、クリストファー中将が、謝りに来た。
「キリル提督、駆逐艦を二艘失った。あれらには、申し訳ないことをした」
クリストファーには、一度、モニター越しに謝まられている。
「もういいだろ、クリストファー、貴殿が、ここまで来たのは、イオン粒子砲の分析が終わったということだろう。どんな結果になった」
「結論を言うと、ブレーメンの発電所も使っているということだ。100GPの砲撃間隔が、最初の日より早かったのが、そう推察する切っ掛けだった。最初は、我々の技術より、敵の方が進んでいるのではないかと思ったが、情報部のデーターが正しければ、物理的にあり得ないという結論に至った。ブレーメンの発電所を落とせば、敵のイオン粒子砲は、100GP以下になると試算した。ブレーメンにも電力を回さなければならないからだ」
「すごいな、この短時間で」
「まだ確証は、得ていない。だが、地上戦の目標は必要だ。ブレーメンは、島宇宙最古のコロニーだ。バーム軍の発電所のように守は固くないはずだ。我々の推察が全部当たっていなくても、この発電所を破壊すれば、軍の発電所は、ブレーメンに電力を回さなくてはならなくなり、イオン粒子砲は弱体化する。取り急ぎですまない」
「いや、ありがとう。当面の目標は必要だ。帰って休むか?君の目が落ち込んでいるのを初めて見たぞ」
「1戦勝てば、ストレスが解消されるのだがね。忠告通り、休ませてもらおう。駆逐艦をディープホールにすり寄らせているが、高度を上げるなよ。敵の駐留軍が2手に分かれているのは、イオン粒子砲が地平線に撃てる証拠だ」
クリストファー中将は、力なく片手を上げてこの場を去った。
「わかっている。宇宙は任せたぞ」
キリル提督は急いで、ブレーメンの発電所の場所を特定させるために動いた。
バーム軍の主要な塹壕に、プロープドロイドBi3型が、1台ずつ入っていってきた。塹壕の指揮官たちは、この人間大で、6本足のプロープドロイドを見て、頭側を撫でたり、体を、コンコン叩いたりして親愛の情を示したが、これが救護ロボットだと知らない中国軍は驚いて、最初、銃を向けた。最初、Bi3型の制御室は、慌ててその対応に追われた。
この救護ロボットBi3型は、中国軍の曹大佐の所にも、ひょっこりやってきた。曹大佐が乗るARM(アステロイドモービル)は、小さなファイターと同じ大きさのソーサーで、キャノン砲を2基レーザー機銃4基を備えた化け物ソーサーである。ARMは、6人いれば十分動く反重力推進型の戦車である。ここに、人大のBi3型が4台来た。車内は、敵襲かと騒然とした。内部で操作しているのは、ファイターのパイロットの資格も持っている。だが、地上兵なだけに、気性が荒い。たまたま、作戦会議室に来ていた曹大佐が、Bi3型のことを知っていなかったら、2台は壊されていたことだろう。
ARMは、戦車とファイターの間のようなデザインをしている。普通の戦車と比べると細見で、ソーサーから進化したのだとわかる流線型をしている。左右と後ろにレーザー機銃が飛び出しており、敵を近寄らせない。前方には強力なレーザーキャノン砲。上部にバリヤーを張るので、あまり使わないが、ここにもレーザー機銃が1基ある。
このレーザー機銃室にゴキブリのようにBi3型が侵入してきたとき、砲撃手は、腰を抜かしそうになった。いったいどうやって侵入してきたのか。当然、曹大佐の許しがあって入ってきた。大佐は、「曹大佐の茶目っ気で、寿命が1年は、縮んだ」と、砲撃手に怒られた。このARMの左右と後ろのレーザー機銃室には、バリヤーが張られていない。不測の事態があったら、床から地上に避難するようにできている。曹大佐は、Bi3型を、ここから出撃させようと考えた。曹大佐の高速戦車隊の出番は、もう少し後。のんびり作戦指示をしているときにこうなった。ほかの部署からも、問い合わせが多数来たが、「ワハハハ、連絡が遅れてすまん。Bi3型は、救護ロボットだ、丁重に扱え」と、両断し、これで、気が引き締まっただろうと、口角を上げた。ケレスと戦闘状態になって今日が5日目。中国軍地上軍は、今日が、初陣。初めての出撃になった。
救護ロボットBi3型は、救護という観点から、ブレーメンの市民ボランティアが操作の主力。9割が女性で、その7割が学生や家事手伝いの女性。接触モードになると、若い女性の声が聞こえてくるので、癒される。中国地上軍もBi3型を大好きになった。
暗黒からの脱出 星村直樹 @tomsa
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