第21話 ソーサー対ブレッド

 ブレッド隊は、ソーサー隊に、高速で近づいてきた。それも衝突するのではないかというニアミスコース。そして、手の長い蛮槍が、ソーサーを切り裂いた。あるものは、ソーサーを壊され転倒する。ある者は、防弾防爆のスーツで受け止めたのだが、それが脛に当たって、衝撃で足を折られて、やはり転倒した。こうした者たちは、戦場を離脱するしかなかった。


 反射神経が優れたソーサー乗りは、これを、ちょっとした重心移動の方向転換でかわし、ある者は、前面のレーザー砲を撃ち、ある者は、斧や刀を振りかざした。


「敵は、こちらの半数」

「馬鹿もん、小隊をくめ」

「あの大型武器を持った歩兵にレーザー砲は効きません」

 ソーサー隊に怒号が飛び交う。

 敵はこちらの半数。敵と激突しなかった者が、攻撃をした。セオリー通り、同乗者を狙った隊員が、こんなのありえないと報告してきた。

「あの巨大な武器にレザー砲をはじかれました」

「転倒した者は、生きているソーサーで負傷兵を連れ帰れ」


 ブレット隊は後ろを任せられる相棒を得て、強気な攻撃をしてきた。動きの細かいソーサー隊に対して今まで取ったことのない接近戦を仕掛けた。

 ブレット隊のリンク隊長は、こんなことなら、半数の蛮槍隊を伏兵に使うんじゃなかったとひとりごちした。組み合わせは大成功だ。敵ソーサー隊は、二人乗りに慣れていない。それに、ソーサー特有の重心移動は、難易度が高い。同乗者は、覚えるのに時間が掛かるだろう。こちらのまねは当分できない。



「そごいな、あれじゃあ騎士だよ。ドンキホーテだよ」

「敵を褒めないの。グレンも刀を抜くのよ。こっちの二人乗りは、私たちだけなんだから」

「いいね、頼むよ。じゃじゃ馬ちゃん」

「もっと真剣になって。これって、私たちにとって、驚異なのよ」

「やるしかないんだろ。一騎打ちができそうな相手に突進してくれ。おれは刀に慣れていない。相手の攻撃を受けなくて済むようにしてくれ」

「やってみるわ」


 戦況は、どう見ても不利だった。元々ブレッドの前面は、レーザー砲を防御するような構造になっている。そのうえ、後ろの守りまで固くなった。それも、長い槍で攻撃してくるのだから、驚かされる。ローラは、今の戦力数でやっと対等なのねと、相手に脅威を感じた。


 どんどんやられていく味方。戦死者は出ていないようだが、多くの戦友が戦場からリタイヤさせられていく。


 ローラは、単騎でいるブレッドに猛突進した。

「ローラ、突っ込むな」

 中隊長だけでなく、複数の声が聞こえた。


 突っ込んだ者にのみわかる蛮槍の脅威。長くて幅広い刀。まったく近づける気がしない。その蛮槍の刃が、二人を襲った。横殴りに振り回されたその狂刃をかいくぐり、すぐに反転体制をとるローラ。その重心移動にグレンがよくついてきていた。


「さっきのは、上空で一回転したほうがよかったんじゃないか」

「ソーサーは、ファイターじゃあないのよ」

「おれたちならできる」

「あなた、狂っているわ。私もそう。わかった、やるわ」

 PK787なら、理論的に可能なのだ。


 また、一騎打ちになった。今度は、やり過ごして、後ろをとったが、相手のほうがスピードが速い。後ろにレーザー砲を撃ったが、蛮槍兵にはじかれてしまった。


「やっぱり正面が相手の隙だ。あの槍は、操縦者がいるから使えない」

「そうだけど、レーザー砲があるわ」

「急に上空に上がられたら使い物にならないさ」


 ローラを心配してソーサーが集まりだしたのを見て、ブレッドもそうなった。そのため、レザー砲の砲撃戦が激化した。なのに、一騎打ちの空間だけは、両軍ともキープしたままだ。


「みんな、私の援護をして」


「バカ、もう行くな」

「帰って対策を練ろう。ダニエル中将にそういわれただろ」

「行くんじゃない」


 しかし、ローラは、前面のレーザー砲を撃ちまくりながら、また、さっきのブレッドに突進した。敵も、レーザー砲を撃ちまくる。仕方なく味方は、ローラの援護に回った。レーザー砲を撃ちまくる味方に対してブレッドもそれに応戦した。


 2機が正面衝突するかと思われた瞬間、ローラのソーサーが、ブレッドの上空に舞い上がった。ローラには、空中に浮いた瞬間、一瞬スローモーションのようになった相手を見た。


 シャイーーーーン


 ローラのソーサーは、相手を攻撃して、なお上空に舞い上がった。そして、相手の燥者の腕が切断されて飛び散った。失速するブレッド。後ろの蛮槍兵が、自分の運転手を抱えて逃走する。早く治療しないとブレッドの燥者の命は長く持たない。それを守るように集結するブレッドたち。ローラは、敵ブレッド隊に囲まれたが、簡単にジャンプして、味方の中に隠れた。


「腕、切断しちゃったな」

「たまたま関節部分を切ったからよ。宇宙空間でああなったら、助からない」

「いや、いきなり切断面が凍っていたぞ。防護服の密閉処理をすればいいだけじゃないか」

「そうかも」


「二人ともよくやった。相手の動きが止まったぞ。接近戦は不利だ。レーザー砲で畳み込め」

 中隊長の指示で、たまたま密集していたブレッドにレーザー砲の雨が降り注いだ。


 リンク隊長の「散れ!」と、いう指示もむなしく倒されていくブレットと蛮槍兵。ここまでと思ったリンク隊長が「引け!」と、合図した。

 これに合わせるようにソーサー隊も基地にひいた。



 1時間後、ケレス軍陸戦軍総鑑ハウイ少将の指示により、揚陸艦ナターニエルから、1個大隊が進軍を始めた。歩兵800、ブレッド隊200、戦車6、重装甲車、10、軽装甲車20、輸送ポッド20、浮遊砲台30の大部隊である。揚陸艦のキャパシティが、歩兵1200なので、大分の兵力を外に出したことになる。揚陸艦ポーラ側は、ハウイ少将が監督できないので、従来通り地図製作と敵移動砲台の無力化に専念している。


 ハウイ少将は、敵移動砲台の抵抗があまりになかったので、移動砲台を無視して進軍する大隊をバーム軍側に放つことにした。移動砲台は、陸戦艦とブレッドと蛮槍部隊のコンビ40で十分であると判断したのだ。


 輸送ポットとブレッドで展開する歩兵団、これに対してダニエル中将の指示は、早かった。ダニエル中将は、後5日半、ここを持たさなければいけない。勝つことだけを考えた配備をしていては、不測の事態があった場合、負けの確率が上がるだけである。準備が大切だ。移動砲台を吐出させているその後方にすでに、もともと一個大隊を配備していた。


「敵、主力来ました」

「来たか、塹壕以内に移動砲台を下がらせろ。移動砲台がブレッド隊を嫌がっているのは敵も承知済みだ。地図もまともにできていないのに、追ってくるだろう。こちらは、一個大隊が伏兵だ。ブレッドが斥候に来たら殲滅しろ。規模を悟らせるな」


 3日目の地上戦は、地の利があるバーム軍の圧勝になる。敵が引き揚げ出した時に、勝鬨を上げる兵士たち。しかし、ダニエル中将は、敵の被害の少なさに、難しい顔をするしかなかった。相手は、こういう小惑星での戦闘に慣れている。まったく油断できないと、リチャード中将とオーエン特務、そして、参謀と中国軍陸戦部隊長を呼んで、作戦会議をするのであった。


 グレンは、ローラにコンビを組まないかと申し込まれたが、「ファイター乗りなんだ。非番の時に、連絡するよ」と、やんわり断った。


「PK787は、ローラに必要だ。戦争が終わって落ち着いたら、また、交渉していいかな」

「お互い、生きていたらね。敵は、小惑星の戦闘に慣れているわ。グレンも気を付けて」

 グレンが珍しく、彼女をデートに誘わなかった。尊敬できる相手にグレンは、軽い感じで話せない。おれのバカと、思いながら、絶対また会いに来ようと心に決めた。

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