第19話 パラスバイク戦

 小惑星パラスは、難解な惑星である。地質調査をしようと地面に振動を送った結果、その振動がなかなか止まらない。これが何を示唆しているかというと、内部が空洞になっているということだ。それは、地球の月も同じである。パラスは、月と同じ重力。しかし、月みたいにきれいな球ではなく、8角形をしている。その中でも特にへこんでいる部分が、プラークレーターで、ここに、バーム軍の基地がある。ここには古い小惑星型のコロニーがあり、民間人も住んでいる。

 パラスは、自転周期が8時間で、地球時間だと3日で1日と考えることができる。公転周期は、4.2年。約4年に一回、地球との近日点がある。重力は月と同じ0.16G。月と同じ環境のコロニーを建設することができるので、島宇宙では、最初にコロニーが建設された小惑星である。その、最古のコロニーであるブレーメンを巡って地上戦が開始された。


 ブレーメンの近くに降下して、戦いを優位に進めたいケレス軍に対してバーム軍は、超強力なイオン粒子法を撃って制空権を取らせなかった。ならば地上から侵攻しようと、ケレス軍は、ブレーメンがあるプラークレーターに降下して陣を張った。


 バラス開戦4日目

 ケレス軍は、揚陸艦のキャタピラを下して巨大な移動要塞に仕立てた。動く陣地である。これに対してバーム軍は、巨大な移動砲台を出して、これを迎え撃つ。


 地上戦の火ぶたが切って降ろされた。


 バーム軍の移動砲台は、強力なのだが、旧式で、動力部を破壊されると派手に爆発する。なので、逃げるのに間に合う3人しか乗員がいない。3人は、移動とアバターロボットのメンテナンスを担当する。これに対して、ケレス軍は、宇宙空間用のバイクを出して、電磁石付きの爆弾を移動砲台に投げるという人海戦術に出た。乗員3名しかいない移動砲台は、戦慄を覚えることになる。そこでバーム軍は、ケレス軍に対抗して、バイク隊を出すことになった。



 ケレス軍が使うバイクは、ブレッド。反重力エンジンを進行方向に対して推力が上がる角度にすることでスピードを上げる高速移動をする宇宙戦特化型のバイクである。敵に、強力な鉄槌を下して反転逃走するという、タッチアンドアウエイを得意としているバイク隊。二人乗りで、後ろの歩兵がブレッドの逃げ道を確保する伏兵となる。


 対して、バーム軍のバイクは、ソーサー。地球のバイクを踏襲したもので、とても小回りが利く。ケレスのブレッドに、スピードは及ばないが、機動性はソーサーの方が上。2人乗りにできるが、普段は1人。


 ともに、前方向に小型のレーザー砲が2門ついている。兵士たちは、防弾防爆できる外宇宙戦闘用のスーツを着ていて、ちょっとやそっとでは倒れない。しかし、ケレス側は、知っているかどうかわからないが、移動砲台が爆発するとき、その周囲1キロ以内だと歩兵は助からない。それ以遠で戦うことが必要だ。


 今回の戦闘は、ケレス軍が不利になる。ケレス軍は、これから、プラークレータの詳細地図を作る。それが、今回の戦闘の目的である。対して、バーム軍にとってプラークレータは、庭である。地の利はバーム軍にある。



 小惑星パラスは、3回自転して24時間である。プラークレーターに、今日2度目の朝がやってきた。


 プラークレーターがあるのは、パラスの北半球で北緯36°あたり。ブレーメンは、最西端にある。対して、ケレス軍は、最東端に降下して、陣を張った。プラークレーターは、広大だ。両軍の直線距離は、200Kmもある。


 このプラークレーターの真ん中には、ディープホールという直径12Kmもある深い穴がある。一番深いところで8Km、戦車が落ちたら、まず助からないであろう。ここにバーム軍が、ケレス軍に先んじて、前線基地を張った。それも2か所も。それは、西側の奥側に当たるが、移動砲台が穴の半分あたりまで吐出て移動。ディープホールの半分を占拠した形になった。


 それなら、ケレス軍は、このディープホールの東側に陣を張れそうなものだが、バーム軍の前線基地の一つが、ファイターの中継基地になっており、穴側から、戦車の弱い部分を狙われてしまうので、固定した基地を作れない。更にバーム側には、パワーグラビトンがいるので、制空権をとれない。ケレス軍パラス攻略艦隊のキリル提督は、やむなくプラークレーターの最東端に陣を張ることになった。そして、作戦を練るための詳細な地図製作。バーム軍と一戦して地上戦の感触をつかむ。


 2回目の朝日を背に、動く要塞となった揚陸艦が、地平線に姿を現した。


 移動砲台は、すぐさまプラズマ砲を撃った。プラズマ砲は、高速化されたプラズマを射出するいわば、実弾型である。高速化された雷交じりのプラズマが、朝日に向かって放たれた。


 ケレス軍に戦慄が走る。

「敵移動砲台から、プラズマが射出されました。7GP、威力は、7GPです」


 駆逐艦ナターニエルに乗艦している、ケレス陸上部隊総鑑ハウイ・ウイング・グラート少将は、元陸戦部隊の軍曹だった男だ。とても現場に強い。旧式とはいえ、未知の移動砲台に対して、痛烈な作戦をケレスのブレッド隊に命令した。2台出てきた移動砲台に対して1台につき40機ものブレッドを向かわせた。ブレッド隊は、電磁石付きの爆弾を手で投げるという人海戦術でバーム軍の移動砲台をつぶしにかかった。


 ブレッド隊に対して、ダニエル中将は、バーム軍のソーサー隊をぶつけることにした。



 ケレスのブレッドは、縦に細長く、前面のレーザー砲が飛び出したようについている。とてもカクカクしたデザイン。後ろ側には、人だけでなく機材もいっぱい詰めるようになっているの余計細長く感じる。運転手は、体を少し起こしたような姿勢でハンドルを握る。宇宙空間には、空気がない。風の抵抗など考えていない設計だ。

 対して、バーム軍のソーサーは、流線型で、大気がある惑星をメインに考えて製作されている。操作は、ハンドルさばきで方向を変えるだけでなく重心移動で細かく操作できる。

 どちらも、反重力エンジン搭載の、ホバリングタイプのバイク。

 スピードは、ブレッド

 操作性は、ソーサー

 で、ある。


 どちらもバリヤーはない。ブレッド乗りは、ケレス標準の外宇宙用防護服を着ているのに対し、ソーサー乗りは、地上に足をつくことができるように靴底が厚かったり、関節のブロテクターがやたら太かったりと特徴的な防護服を着ている。


 重力が月と同じだといっても、ここは、宇宙空間と同じで空気がない。

 酸素生成器なのだが、小惑星ケレス氷マントルの中にある巨木、化石化した世界樹からいくらでも取れる風の結晶石を使っているため防護服はとてもシンプルだ。ここには魔法時代の風の神殿遺跡がある。バーム軍も、ケレスと仲良くしていたこの10年間で大量に購入しており肉弾戦もできる防護服になっている。


 防護服は、防弾防爆なので、この時代、銃撃ですぐ死ぬことはない。外殻は、遺跡セラミックを織り込んだ甲殻でできており、軽いやけどをすることはあるが、レーザーもなかなか通さない。しかし、関節部分は、弱く、生命維持装置のマニアル操作盤部分も装甲が薄いので、これを壊されると、稀にセーフティが効かなくなり死に至ることがある。


 いくら、防護服が硬くても、衝撃は体に届く。レーザーが、10発も同時に当たると、全身打撲になり、息ができなくなり死に至る。当たり所が悪いと生命維持装置が壊れ、これも死に至る。実弾は、さらに有効で、強い衝撃で相手の体勢を崩し、隙を作ることができる。


 近接戦闘も有効である。この場合、弱い関節部分を狙うことになり、刀や斧が、主力になる。首の頸椎を強打するような打撃や関節技も有効。宇宙の地上戦は、中世の戦いの様相を呈する。



 ケレス軍駆逐艦ナターニエル所属のブレット隊。隊長のリンクは、初めて見る蛮槍部隊の、異様に大きな槍を見て、この部隊と、どう連携したものかと頭をひねっていた。彼らを後ろに乗せろと指示されている。槍と言えばそうなのだろうが、持ち手の柄と同じ長さのその刃の横幅は、人をほとんど覆えるぐらい広くて、まるで、盾だ。実際、この刃を盾のようにして、拳銃やレイガンを持っている相手に近づく。この蛮槍部隊を連れてきたのは、陸戦軍総鑑ハウイ少将で、古巣のレッドバックラーの上司、ケレス軍最古参のバベル中将から借りてきた。ハウイ少将も、この部隊にいたことがある。


 リンク隊長が、この部隊と、どう連携したものかと、頭をひねっているところに

「どうだ、使えそうか蛮槍部隊は?」

 と、ハウイ少将自ら声をかけられたときは、飛び上がってびっくりした。


「申し訳ありません。蛮槍部隊が戦っているところを見たことがないので、実力がわかりません」

 リンクは、正直に答えた。現場とはこういうものだ。


「貴官の言うことはもっともだ。レクチャーしたいが時間がない。いつものように伏兵として使ってくれ。実際は陸戦の最終局面に使う部隊だが、気が荒くてな、どうしても現場に出たいと、ほざきよる。貴官に・・リンク大尉だったかな。リンク大尉に従うなら許可すると言っておいた。こき使ってくれ」


「ありがとうございます。一つ質問してよろしいですか」

 ハウイ少将が、顎を上げてそれにこたえる。

「この剣は、高速移動しているソーサーを絶ったっ切れるのでしょうか」


「皆も喜ぶ」


「ありがとうございます」

 リンクは、敬礼してハウイ少将にお礼を言った。リンクの作戦は決まった。リンクのブレッド隊は、バーム軍のソーサー隊を震撼させた。

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