第15話 イオン粒子砲

 2日目。強制揚陸作戦から、地上戦に作戦を変えて練っているキリル提督の作戦会議室に、強制揚陸作戦をもう一度試したいと母艦マサラのクリストファー中将がやって来た。パワーグラビトンがいると言ってもファイター1機。中型戦艦の護衛で、揚陸艦をブレーメンに強襲させることが出来ると提案してきた。元々、やろうと言っていた案なので、キリル提督もこれを許可した。クリストファー中将は、意気揚々と作戦会議室を後にした。


 キリル提督とクリストファー中将が、ブレーメンに強力なイオン粒子砲があるのを知らないわけではない。そこで、クリストファーは、兵器開発部に依頼して、戦艦バリスクをサポートしている宇宙艇ルーツイアを5機、大鑑巨砲ハイアーチャーに帰属させていた。この宇宙艇は艦隊の数に入っていない。本作戦のためにバリスクより借り受けた宇宙艇である。ルーツイアは、宇宙艇のエネルギーをほとんどバリヤーにつぎ込んだ言わば、戦艦の盾のような宇宙艇で、バリヤーの範囲を自身の宇宙艇より大きく張ることが出来る。5機あれば、大鑑巨砲戦艦ハイアーチャーをルーツイアだけで覆えるような宇宙艇である。


 これを揚陸艦3艘に一機ずつ配備して、イオン粒子砲をしのぎブレーメンに降下させる作戦である。後ろには駆逐艦もそうだが、旗艦のハイアーチャー自ら後衛に付き、隙あらば、自艦の巨砲で、ブレーメンに強力な鉄槌を下すことにしている。

「これは、艦砲射撃戦での降下作戦である。ファイターの入る余地などない。パワーグラビトンなどどれほどのものか知れ」

 クリストファー中将は、必勝をもってこれに臨んだ。



 ブレーメンでは、特大の警報が鳴り響いた。ダニエル中将付きオーエン特務少佐が、中将の意志を全軍に中継していた。オーエン特務少佐は、中将と長い付き合い。中将以上に老齢で、中将の作戦すべてを補佐できる。


「ダニエル中将、敵が侵入してきました。まもなく衛星軌道に達しようとしています」


「よし、イオン粒子砲だ。100%で、撃ってみろ」

 これは、バーム軍の発電所だけの出力で撃てという命令である。


「イオン粒子砲、砲門開け」


「揚陸艦を狙え」

 中将は、一番の憂いを排除しろと揚陸艦にターゲットを絞った。


「宇宙艇が、揚陸艦を守るように前方に展開しています」


「死にたがりか、側壁の照射砲で威嚇してみろ」


「照射砲手に告ぐ、宇宙艇を追い払え」

 ブレーメンの後方には垂直に近い断崖絶壁があり、ここに小型のイオン粒子砲が多数設置してある。敵揚陸艦は、この絶壁から侵入することが出来ず、正面から現れた。小型のイオン粒子砲でも、3GPあり、宇宙艇を落とすことが出来る。側壁から大量に放たれるビーム。


 ところが、宇宙艇はびくともしない。よほど強力なバリヤーを展開しているのだろう。


「未知なる宇宙艇だ。どうせ、その先の揚陸艦を落とさなければならない。ここは、殲滅だ」


「主砲発射!」


 ブレーメンから、強力なイオンの光の滝が、宇宙空間に向かって放たれた。




「クリストファー司令官、敵、主砲撃ってきました」


「来たか、ルーツイアはどうだ」


「バリヤー出力58%。一面落とされましたが、まだ、行けます」 

 ルーツイアのバリヤーは、全部で6面。宇宙艇底部のバリヤーは消失したが、残りのバリヤーで補強。もう一撃耐えることが出来る状態だ。


「それで、敵、主砲の威力は?」


「ルーツイア1より入電、100GPと、推測されました」


「ふむ、開戦前に、旗艦クラスで、バトルロイヤルの演習をして正解だったな。あの時は、ハンスの奴の主砲。ハイベレオの90GPで、大破だった。これは、エレンの手柄だ」


 大鑑巨砲戦艦ハイアーチャーの艦橋は、湧いた。3機降下している揚陸艦の最前列にいた揚陸艦が最後尾に付くことで、2射目をやり過ごす予定だ。


「クリストファー司令官このまま推移すれば、揚陸艦は、三艘とも、ブレーメンに到達いたします」


「そうだな、今のうちに、側壁の高射砲の数を削っておけ」


「了解」


 そう指示を出している矢先に、もう、敵のイオン粒子砲の2射目が発射された。ルーツイア1は、やむなく撤退。盾を失った揚陸艦も、撤退した。

 その間、駆逐艦が、クレータ側壁の高射砲と、艦砲射撃戦を始めた。敵高射砲のバリヤーは、強力で、なかなか、高射砲の数を減らすことが出来ない。


「2射目の展開が早いな」


「推察で申し訳ありませんが、発電所の蓄電器の性能が高いと思われます。それが、ブースターの役目をしているのではないでしょうか」


「イオン粒子砲が1門な訳だ。それで、どうだ。行けそうか」


「駆逐艦が、高射砲の盾になってくれています。ルーツイアは、100%性能を発揮できると思われますので、1艘は必ず敵の懐に降下できます」


「よし、続行だ」




 ダニエル中将は、敵のしぶとさに舌を巻いていた。これは、予想外の展開である。

「あの宇宙艇、イオン粒子砲を2発も耐えよった。オーエン、出力120%」


「まだです。実際は1発で底部のバリヤーを消失させています。驚かされるのは、その一面のバリヤー範囲です。何とかこのまま出力を抑えて、攻撃することをお勧めします。今回は、地上に有る高射砲も全砲門開いて追い返しましょう。もう一度、このまま揚陸作戦ができると、敵に思わるのです。我々は、1週間耐えねばならないのですから」

 オーエンは、老獪な作戦を得意とする。


「では、地上の高射砲使用を許可する。係留している駆逐艦の主砲は使うな。向こうさんが、そこを狙わない限りはな。リチャードに、出力100%のまま、敵を追い払えと言おう。オーエンは、高射砲の現場に行ってくれ」

 リチャード少将は、パラス航路司令部の副官。現在、主砲の指揮を執っている。


 係留している駆逐艦の主目的は、負傷兵の搬送である為、出来るだけ敵のターゲットにされたくない。オーエン特務は、中将の名を受け地上の高射砲の指揮を補佐しに走った。特務の最たる役割は、中将の指示を現場に直接持って行くことだ。

「オーエン、地上の高射砲を補佐しに行け」

「ラジャー」



 この後、ものすごい射撃戦が展開された。ケレス側では、ある程度予想された展開である。しかし、このままでは、被害が拡大するので、ケレス軍は、出直しすることになった。


「クリストファー司令、地上にも高射砲が展開されました」


「そうなるか。これでは、こう、ちくちくやられては、ルーツイアが、敵の主砲1発で使い物にならなくなる。一度引いて作戦を立て直すとしよう」


「イエッサー」


 2日目の攻撃も何とか凌いだダニエル中将であった。

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