バラス戦役
第14話 パラスの戦い
パラスでは、バーム軍の敗戦が色濃くなっていた。宇宙戦は、善戦しているのだが、ブレーメンが陥落寸前である。初戦は、バックナーの奇策とダニエル中将の堅い守りで、ブルース中将が率いる月駐留軍が来れば、ケレス軍を追い返すことが出来るだろうと思われていた。
ところが、1週間たってもブルース中将が率いる月駐留軍は来ない。その上、地上戦の要だったファイターが守っていた制空権を昨日奪われてしまった。残るは、超強力なイオン砲のみ。発電所を破壊されたら後がない状態になってしまった。
地上戦では、敵の士気が上がり、戦闘は苛烈を極めた。
最初にパラス航路に進軍してきたのは、キリル提督。
ケレス軍の主要戦艦は、
大鑑巨砲戦艦 ハイアーチャー ハイベレオと双璧の主砲を持つ強力戦艦
母艦 マサラ やはり、イソラと双璧である母艦
探査型戦艦 キーサル 同じくランドスルーに投入されているイーサルと同等の探査戦艦
この旗艦クラス三隻を中心にした艦隊である。駆逐艦34 強制揚陸艦12 小型母艦7 ファイター204機 宇宙艇6 シャトル33機 病院船7の大艦隊である。キリル提督は、マサラに乗艦している。
戦力差は、バームを1とするなら、ケレスが3.当初想定していた戦力差より少なかった。それに、ブレーメンの民間発電所が、ターゲットにされていなかった。軍の発電所の守りは固い。
だからと言って、バーム、中国連合軍は、旗艦こそしっかりしているが、数では、全くケレス軍にかなわなかった。バームの要の戦艦は、小惑星パラスに駐留しているダニエル中将の戦艦が旗艦となる。
戦艦 ノース バーム軍、最古の戦艦。ケレスのレッドバックラー同様装甲が厚いのが特徴
戦艦 エバンジェリン 金星の主力戦艦 これに、バックナー大佐が乗船している
戦艦 黄光 中国軍フォンファン駐留軍の旗艦
いずれも超ド級戦艦である。しかし、駆逐艦やファイターの数ではケレスに圧倒される。駆逐艦12 強制揚陸艦3 小型母艦4 ファイター105機 宇宙艇11 シャトル14 病院船3である。ケレス軍の1/3の戦力しかない。
バックナーは、主要旗艦をフル活用することになる。戦艦ノースは、いざというときの盾役となるので、初戦では、宇宙軍に組み込まれていた。ブレーメンが陥落するときは、地上に強制揚陸して、残存兵を助けることになっている。その判断は、早く下され、もう、残っている民間人を収容するためにブレーメンに停泊している。ネビラに負傷兵を送還した駆逐艦もこの列に並ぶことになる。
初戦ケレス軍は、母艦マサラを先頭にして、強制揚陸戦を試みようとした。これが成功すれば、ブレーメンは1夜で陥落する。マサラから、ファイターが続々飛び立って、揚陸艦の支援に回ろうとした。
ここで、ブレーメンに駐留するバーム軍と中国軍のファイターが発進してこれを迎え撃った。ファイター戦は、ランドスルーの戦いで、ケレスが勝っている。ケレス軍は、制空権を制することが出来ると確信していた。
この中に、パワーグラビトンが混ざっていた。グレン少佐は、みんなと変わらないバルナックM型で出撃した。だから最初ケレス軍は、バーム軍のファイターをなめていた。
小惑星パラスは、島宇宙第2位の大きさ。球状ではあるが、やはり他の小惑星同様ジャガイモ型のいびつな形をしている。パラスは、原始惑星といわれ、魔法惑星バースより古い惑星とされている。太陽系が形成されたころの原形をとどめている小惑星でクレーターの数は、数限りない。最も大きかった小惑星との衝突跡があり、これが、小惑星の形をいびつにしていた。この、大きくへこんだところに、鉱床があり、ここにコロニーがある。ブレーメンの背後には、とても切り立った崖があるので、その前方からしか侵入することが出来ない。崖と言っても、実際は、巨大な衝突跡のクレーターの崖で、垂直に伸びた壁と言っても過言ではない。この崖の側壁に、小さなイオン粒子砲台が無数に設置されている。地上には、超強力なイオン砲があり、ブレーメン上空の制空圏を取れなくしていた。
当然ケレスのファイターは、この崖上空を低飛行して、いきなりブレーメン上空に現れるコースを取って、敵の虚を突こうとした。
グレン少佐は気楽な独身、艦橋補佐の女の子に声をかけまくっていた。もう出撃前だというのに、壁に寄りかかっている女性士官にかぶさるように壁に手を置き、帰艦後のデートの約束を取り付けていた。パワーグラビトンは総じて背が高い。グレンも華奢な感じなのに背が高くナイスガイである。
「じゃあ、帰艦後、二人っきりで会おうね」
「あなたが死ななかったらね。期待しないで待ってるわ」
女性士官は、軽いグレンに好意を抱いているようだ。グレンがパワーグラビトンだということは一部の上級士官しか知らない。
ダニエル中将は、オープンチャンネルにして、ブレーメンにいる全兵士に檄を飛ばした。
「ブレーメンを落とされてしまうと、元帥のいるフォンファンと敵の間に立ちふさがる惑星はない。ここが決戦の場だ。ここに来る敵をすべて蹴散らせ」
特に士気が高い中国軍の陸戦部隊が大声をあげてこれを受けた。
ケレス軍のファイター部隊は、42機の大部隊。4小隊に中隊長と副官までついてきている。その、後ろに強制揚陸艦3艘が控えている。更にその後ろには、小型の母艦2艘とそれを守る駆逐艦が5艘ついている。ケレス軍を指揮するのは、母艦マサラに乗艦しているキリル・ソコロワ中将である。キリル提督は、攻守ともにバランスの良い指揮官で、ここぞというときに強烈に駒を進める人である。最初は、ポーンを動かしたような手堅い戦略を押し進めた。
これを受けたダニエル中将は、ファイターを2小隊出しただけである。たった20機のファイターでケレス軍に勝てるわけがないと、現場は、騒然としたが、中将は、この方針を変えなかった。ダニエル中将は、それより地上戦の指示を厚くしていた。
この20機よりずいぶん遅れて、もう一機ファイターが発進した。ファイターのパイロットたちは、焼け石に水だと気にもしなかった。ところが、この1機が、もうすぐケレス軍とぶつかるであろうというときに、超高速で、2小隊のファイターを抜き、ケレス軍のファイター群の中に突っ込んでいった。このファイターの標識は、紅蓮。この赤い炎のマークをケレス軍は死神のように脳裏に刻み込むことになる。
グレンのファイターには、彼が特注したケレス軍のような、3連レーザー機銃が装着されている。これを撃ちまくりながら、突っ込んでいった。
「ありゃ。正面は固いか」
更にグレンは、急上昇し、敵機群に対して、縦方向の大回転をしながら、同じことを行った。
「そう言うことか」
一人ごちしながら、今度は後ろに回る。グレンが3連レーザー機銃をレーザーキャノンに替えて、戦場の風景が変わった。
大量に沈黙する敵機。しばらくして、パイロットは強制脱出された。爆発して大破するファイター群。後続部隊の強制揚陸艦のクルーたちは、信じられないという顔をして、この爆発を見守るしか無かった。
そこに、どこからともなく、バーム中国連合軍の主力艦が、急接近してきた。戦艦ノース、戦艦エバンジェリン、戦艦黄光である。
戦艦エバンジェリンは、この、駆逐艦の鼻先に出現したかのように見えた。ド級戦艦の主砲は30GP(ギガパルス)である。3メートルの厚さの甲板を打ち抜いてしまう。強制揚陸艦の装甲がいくら厚いと言っても3連掃射連弾されてはひとたまりもない。2艘が撃沈された。エバンジェリンは、それ以上攻撃せず、元来た方角に去った。残りの2艘は、超高速を止めることが出来ず、主砲を撃ちまくりながら進行方向に去っていく。明らかに、戦艦エバンジェリンには戦艦魔女が乗っている。それを戦艦ノースとニアミスを演じた小型母艦が、すぐさま、母艦マサラのキリル中将に連絡した。
「いったん引け、敵にパワーグラビトンがいる。後続のファイターにパイロットを殺されるな。拾って来い」
この指示は、大鑑巨砲戦艦ハイアーチャーのクリストファー・コンデント中将である。
この後は、脱出したパイロットを守るケレスと、それに乗じて駆逐艦に穴をあけたいファイターの戦いになった。初戦は、バーム軍の大戦果に終わった。
この後、グレンは、デートの約束を取り付けた女性士官と、一夜をともにした。グレンは、素早い。それにパイロットを殺さない。宇宙空間に放り出されたパイロットのせいで案の定、混戦になった。グレンの性格を火星で知っていたバックナーの読みが当たり、宇宙戦で、奇襲攻撃が成功した。これを聞いて、知っていたダニエル中将もグレンを大目に見た。
ブレーメンの制空権を取るのは難しい。ケレス軍のキリル提督は、ブレーメン攻略戦を地上戦に変えるしかなく、一から作戦を練り直すことになってしまった。
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