第13話 マナ2
翌日、ナオミから、ネクロのことを聞いたマークがやって来た。マークは、ゴウ宛にジョンの伝言を持って来ていた。マークからそれを聞いたアリスが、「ゴウには、私が話すわ」と、当時のことを思い出すのであった。
「あの時私ね、全然周りが見えていなかったのよ。だから、ネクロが・・いいえ、マナが消えてジョンの手元に有ったことを深く考えなかった。ゴウと、この話ができるのは、ジョンと私だけよ。マークも、ナオミもありがとう。ナオミ、大変だと思うけど、もう一度私をテレパシーで包んでね。マークも一緒に来て」
二人は、頷くしかない。これは、ゴウの奥さんと、お腹の中の赤ちゃんが亡くなった時の話だった。
ゴウは、アリスが呼んでライブラリーで待たせている。金冠石の張と海王の博司さんも立ち会ってくれることになった。
「アリス、おれは、ここが、好きじゃないんだ。なんだー、マークもナオミもぞろぞろと」
珍しくゴウが、腰の引けた状態で待っていた。
「ゴウは、勘が良いものね。博司さんと張にも立ち会ってもらっているわ」
「愛の告白ってわけじゃなさそうだよな」
「昨日、ネクロの声を聴いたのよ。ナオミが、あなたはネクロでしょうと聞いたら『私はマナよ』って答えたの。あの時、ネクロは、わたしの手から離れて、エナお姉さまの所にミナお姉さまを連れて行ったのよ。そして、最後はジョンの手に。今まで深く考えなかったけど、ジョンにいきさつを聞いて納得した。マナは、あなたの娘よ。本当にそうかどうか、ネクロにこれから聞くのよ」
「何で今更そんな話を・・・どうしてネクロがマナなんだ」
「お姉さまたちが名付け親だとしか考えられないからよ。他に、ネクロと話せる人なんかいなかった。あなたのマナの魂がネクロと一緒にいても不思議じゃない。ゴウ、思い出すのよ」
ゴウは、ズガンと、頭を割られたような気分になった。当時、それも、二人を亡くす寸前、ゴウは、エナのお腹に耳を付けてまだ生まれてこない我が子の名前をエナに告げていた。エナは、「他の名前にしない」と、言っていたが、亡くなる寸前は、「もう、マナでいいわ。そうつぶやいていたものね」と答えていた。
「ミナ姉が、島宇宙の反対側からアクエリアスコロニーに飛んできたのは、ネクロを使ったからだ。その話をおれたちは今まで避けて来た」
「そうよ、悲しい思い出が多すぎたからよ。でも、マナは、ずっと一人でそれを抱えていた」
「夜中に泣いていたのは、ネクロか」
「ネクロじゃないわ。マナよ」
マークとナオミは、見守ることしかできない。
「昨日、どうやって、エナお姉さまとミナお姉さまが、マナと話していたか分かったわ。二人は、無意識に自分たちをテレパシーブロックしあっていた。だから、マナと話せたのよ。私は、昨日ナオミに初めてテレパシーで守ってもらった。そして、初めて、マナの声を聴いたのよ。ゴウも、今からマナの声を聴いてちょうだい。マナに声をかけるのよ」
「分かる、わかるが、心の準備ができない」
「マナは、10年間この時を待っていたのよ。ゴウ、逃げないで」
ゴウ、慟哭の時である。今でも十分当時のことが、走馬灯のように押し寄せていきている。それも、フラッシュのように何度も。
ゴウは、膝をついて、うなだれて、拒否するポーズを取ったが、違うことを言った。
「いいぞ、マナと話そう」
「ナオミ、お願い」
ナオミが、マークの腕を取った。マークの腕を取ったナオミの魔力が膨らむ。これは、マークの騎士としての特質だ。マークに魔力はないが、魔力のある人の力を強くする。
アリスが、マークの反対の手を取る。そして、ゴウの肩に手を置いた。
・・・・・・・・・・おとうさん
「マナ。マナか」
お父さん、お父さん、お父さん
「マナなんだな」
うん
それは、とても幼い声だった。マナの時間は、10年前で止まっていた。
「名付け親は、エナか」
ミナもだよ
「ミナ姉はどうなった。なんで闇に飲まれた」
お母さんが死んで、ミナだけだと死んじゃう。でも、ミナがおじいちゃんの所に行きたがったの、でも、でも、その後は、分からない
「ミナお姉さまは、魔法時代に飛んでいたのよ」
ごめんなさい。ミナが死ぬと思った。だから、一生懸命そうならないようにしたの。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
「ミナ姉のことは分からないのか」
わからない ごっ・・・ごめんなさい、うっ、うっ、うっ
「ゴウ、マナを泣かさないで」
マナが泣き出し、その場にいる全員が押し黙ってしまった。
「泣くな、おれの娘だろ。ありがとうな。おれを助けてくれたんだ」
うん、うん、うん
「マナ、今日は、ここまでにしよう。今度から、いつでも話せるようになるから。二人とも落ち着くのよ」
「わるかった」
ごめんなさい
ナオミは、アリスのテレパシーブロックを解いた。張と博司は相談中。マークは、自分のボスの所に駆け寄った。ゴウの声はしっかりしていたが、見た目は、ズタボロだった。
「ゴウさん」
「おう、ありがとな。ちょっと帰って休むか。すまん、肩を貸してくれ」
ゴウは、マークに連れられて自室に帰った。
二人がいなくなって、博司が張と相談したことを教えてくれた。
「皆さんいいですか。ここに霊魂石のソウルがいれば、答えは早かったでしょうが、今はいません。そこで張と二人で結論を出しました。にわかには信じがたいですが、まだエナさんのお腹の中にいた赤ちゃんの魂とネクロが融合した。これは事実です」
それしかないよ、マナの思考は、アリスの影響をさほど受けていない。信じられないけど、持ち主がいるのに思考が真っ新なんて聞いたことがない
「ゴウさんのこと、お父さんって言ってた。ジョンおじ様のことをおじいちゃんって」
「そうね、ゴウは、全くマナのことを疑っていなかったわ。良かったね、マナ」
たぶんマナは、照れて喜んでいるのだろう。少し金の台座が光ったような気がした。ネクロは、黒い石でできているが金の台座があり、これが本体になる。ここには土の遺跡の紋章が刻まれている。
ゴウにとっても、マナにとっても、この10年を取り戻したような再会であった。
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