第11話 パラス戦暗転
小惑星パラスで戦端が開かれて1週間後、ネビラコロニーに負傷兵がいっぱい押し寄せて大変になっているときにアランが遅れてやってくることになった。バックナー大佐とダニエル中将は、1週間、ブレーメンを守り通したが、いまだに月からの援軍は、届いていない。
ナオミは、マークと違い、遺跡探査の修業が順調に行っている。なので、アリスの手綱も弱い。アランが1日遅れてやってくることが分かり、ネビラで、親友のあゆみとパンを焼くことになった。本当は、ちょっとお茶うけ用に少しだけ焼く予定であったが、何しろ、病院船として、てんてこ舞いしている最中だ。それを聞きつけたネビラコロニー代表のチュンメイ(春梅)から、お店を開くのではないかというぐらい、大量の注文が入ってきた。二人は、パン焼きを楽しむどころか、必死になってパンを焼くことになった。
マークに手伝ってもらいたいナオミだが、マークは、ジョンと打ち合わせ中。バーム軍、ケレス軍共に、パラスの戦闘にパワーグラビトンを投入。ファイター戦は、混沌としていた。ケレス軍のパワーグラビトンが、宿敵のゼニスであることが分かったので、マークは、バーム軍のグレンに肩入れすることになった。グレンのバルナックM型では、ゼニスのゼニスVに機能が及ばないことが初戦で分かっている。MG2も入って作戦会議中。結局翌日、アランの到着に合わせて、マークもネビラに来ることになった。
「やっぱり、この量のパン生地を作るのって、手作業じゃ間に合わないわ。あゆみ、ラウンジの厨房に交渉して」
「無理よ。ラウンジの厨房は使えない。まさか、500人近く負傷した人が来るなんて思わなかった」
「男手もないし、ネビラのメンバー分パンを焼くなんて無茶よ」
「256食分かー。でも、やらないと、明日の朝食ないよ」
あゆみは、のんびりした性格だ。しかし、2人とも手はとても忙しそうに動かしている。
「MG2が居たら、生地だけでも機械で作れたのに。MS2と、MR2は、どうしているの?」
「ジョンさんの注文で、ファイターの改造しているみたい。グレンさんが大変なんだって」
「聞いてるけど、私達も大変よ」
「そうだ、ゴウさん暇なんじゃない」
「そうだけど、ここ、壊されない」
「だめよねー」
ゴウは、強くなったのだが、物を壊すので、厄介者扱いだ。
「やっぱり、機械を作ってもらおうよ。今日だけのことじゃないんだから」
「あっ!」
「なに? いい案浮かんだ?」
「ニーナさん、暇なんじゃないかな」
「あゆみ冴えてる。ニーナさんに相談しよ。ニーナさんも、万能成形機と精密成形機使えるよ」
「私は、ニーナさんにパンを焼くのを手伝ってもらおうと思っただけだけど、ナオミに賛成」
二人は、ニーナが居るライブラリーに向かうことになった。
最近ナオミは、ずっと、アクエリアスのパイロットスーツを着ている。最初、触った感じ、ゴワゴワしていたので嫌がっていたが、着てみると、アクエリアススーツの浄化作用のおかげで、さらさらしていて、着心地満点なので、マークより愛用している。アクエリアスのスーツは、白地に青い線が入っている。しかし、巫女衣装としては、白地に赤い線なので、ガンゾに特別に制作してもらった。今では、このデザインがしっくりくると気に入っている。それに、このパイロットスーツは、ゴウを測定した後、ガンゾが改良した試作品でもある。最初、素っ裸にされて、ニーナに測定されてしまったが、プロトタイプだ。オートクチュールの様でなんだか嬉しい。
「わたしもナオミみたいなの欲しいな」
「それも、ニーナさんに頼も。ネビラのメンバーは、みんなこれになるみたいよ」
「色は青なんでしょ。赤いのいいな」
「これ?巫女衣装なのよ。私は、仕方ないの。でも、あゆみとお揃いかー、いいかも」
ナオミは、ガイア人の巫女になる人だ。しかし、現時点では、本人は、それほど意志が高くない。
「あゆみが、私の補佐をするということで、許可して貰おうよ」
「わたし、なにするの」
「う~ん、私も何するのかわからないの。だから助けて欲しいのかな」
「大丈夫かな、私達」
「とにかく、お揃いになろ」
この後、あゆみは、ナオミの巫女仕事に巻き込まれていく。
ニーナは、暇であると言われれば、暇である。と、言うのも、ゴウの身体検査の再検査待ちで、ナオミたち同様、今日一日、暇になったからだ。ニーナは、ガンゾの唯一の身内で助手のような存在だ。博学で、エンジニアの技術も身に着けている。ところが、最近やりたいことは、ナオミたち同様料理で、その為に、宇宙艇を新調するほどハマっている。マークの母親ジェシーと、ナオミの母親愛子に、地球で料理を少し仕込まれたのがきっかけ。今日は、暇になったので、少し料理のことを考えている最中だった。
「ニーナさーん」
「ナオミに、あゆみ、どうしたの、真っ白になって」
二人は、パン生地を仕込むために、小麦粉と格闘している最中だった。
「それが、大変なんです。チュンメイさんに、クルーの明日の朝食分のパンを焼いてって、注文されたんです」
「そのニコニコ顔! いいわ、私も手伝う」
あゆみが、ナオミをつつく。
「そうなんですけど、これって、毎日のことだと思うんです」
「厨房は、患者さんの食事で手一杯なんです」
「あー、そうね」
「ですから、オートのパン焼き器作れないかと思って」
「もちろん、イチからです」
「いいわ、でも、条件。二人とも、レシピを私に頂戴。あゆみベーカリーと、ナオミベーカリーのパンを焼きたいわ」
「私、ナオミベーカリーじゃないです」
「わたしはー そうです」
「ナオミのは、ジェシーさんと愛子さん仕込でしょう。とっても興味ある」
「あっ、です」
「ナオミのお母さんと、マークのお母さんって、そんなにすごいの?」
「すごいって、家庭料理よ」と、照れるナオミ。
「あゆみは、ジェシーさん仕込のパンケーキ食べたことないの。すごいわよ」
「食べたい!」
「じゃあ、決定ね。二人とも、レシピを出すのよ。学習機に入って、インプットしてね」
二人は、顔を見合わせてニコッとした。
ニーナが、ナオミのレシピを見て手を上げた。
「このデーターのどれが、一番おいしいパンケーキなの」
それは、膨大なデーターだった。その日の気温、湿度、小麦粉の出来、季節によって、微妙に焼き加減が違うのだ。
「大体同じぐらいに焼けると思います」
「何となくわかる」
あゆみは、ナオミに賛成だ。しかし、機械で焼くときは、標準さえあれば良い。
「ここは、温度や湿度が調節されたコロニーの中よ。ここの環境に合ったレシピを頂戴」
「一回焼いてみないと、ピンと来ないです」
「じゃあ、二人で焼いてみて。それまでに、パン焼き機を作っておくね」
「大型と、個人用をお願いします」
「たぶん大型のは、ネビラシティに置くことになるわ。天体観測所の1階。ここが、ラウンジに一番近いから。でも、最初は、レシピをインプットするために、ライブラリーに来てね」
「了解です」
ネビラは、コロニーとしては、変った形をしている。円盤形で、平べったい。重力は、円盤下部に向かっており一方に偏っている。円盤上部にネビラシティがあり、その上をエーテルフィールドと中性子バリヤーの2重バリヤーが覆っている。ネビラシティの天井は、バリヤーだけなので、普通のコロニーとは、比べものにならないぐらい軽量化されている。そしてコロニーなのに、戦艦並みの推進部を持っており、外宇宙に人類を進出させることが出来る。
円盤上部のネビラシティは、建設中なのだが、ずいぶん出来上がっており、クルーは、順次円盤内部から、引っ越しをしている。中でも天体観測所は、最初からあった建物。今は、ミーシャとユーナスが住んでいる。以前ここには、クルー代表のチュンメイや、薬学博士のキキョウが住んでいたのだが、新婚と一緒に住むのは勘弁と、別の建物に引っ越していて、閑散としている。
ナオミたちがパンを焼くために小麦粉と格闘している最中、アリスは、イオリに、パラスの戦況を聞いていた。
「やっぱり、エレン中将が来て、戦況が暗転したわね」
はい、それまでは、地上戦の負傷兵も少なかったんです
「地上の戦闘が厳しいのは、良く分かるわ。ネビラに運ばれて来た負傷兵の数がすごいもの。グレンは大丈夫?」
運が良かったです。ファイターが大破でしょう。オートの脱出装置が無かったら戦死していたそうです。グレンさん、最初、この装置を付けるの嫌がっていたそうです
「ジョンの判断は、正しいわ。全員一括だって、直接グレンに怒っていたものね。バックナーは無事?」
いつも通りです。でも、最近は、ブレーメンの戦況ばかり気にしています。地上戦は、ダニエル中将に任せれば安心だって言っていたのに
「何となくわかる。もしもの時は、ダニエル中将の救出に、ブレーメンに飛び込む気ね」
ダニエル中将も、そうんなんですが、ブレーメンの民間の発電所にいるサボさんって所長のことが気になるみたいです
「イオリ、珍しくバックナーの考えていることを覗いたわね」
ダニエル中将のことを聞いても、それほど気にしている様子がなかったから、変だなと思ったんです。サボさんが守っている発電所が、ブレーメンのアキレス腱みたいです。そこの守りを民間人にお願いしちゃったので、所長のサボさんのことをとても気にしていました
「いやな予感がするわ」
わたしもです
「バックナーに、ブレーメンに行くなって言っても無駄よね」
私たちの勘が鋭いと知っていてもそうです
「テレパシーガードは、ずっとしているんでしょう。絶対外さないでね。エレン中将には、ノクターンがついているわ。バックナーが、バーム軍の要だって絶対悟らせてはダメよ」
了解です
パラス戦役の戦端が開かれて1週間経つが、ブルース中将が率いる月駐留軍は、いまだに到着していない。エレン中将の破壊工作が功を奏して大幅な遅れを余儀なくされていたからだ。バックナー達フォンファンの中国バーム連合軍とブレーメンのパラス航路連合軍は、窮地に立たされることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます