第9話 バックナー大佐とアリス

 バックナー大佐とアリスは、仲が悪い。同じ金星の同郷なのに会えば、いがみ合っている。それは、二人の立場がそうさせる。アリスは、バックナーから見れば、自由人だ。だから忌憚のない意見を言ってくる。それに金星だと、旧家のバークマン家の分家で、顔が利く。アリスは、遺跡泥棒をした、ザンパや、フランケンを金星から逃がした。いまだにバックナーは、その件をきっかけに、アリスに小言を言っている。


 アリスは、ミーシャの結婚の件で、知り合いに連絡しまくっていた。金星の後輩で、水の遺跡省のキャリアだったイオリにも、結婚式に出席してと連絡していた。現在イオリは、バックナー大佐付き戦艦魔女をやっている。実際は、単身赴任しているバックナー大佐の世話をしてくれとバックナー大佐の奥さんに頼まれて、世話しているというのが本筋で、ついでに、戦艦魔女になったというの本音だ。バックナー少佐の奥さんは、イオリの恩師。魔力に戸惑っていたイオリを普通の人に導いた人。 


 イオリ、戦艦に乗っちゃったんだ


「アリスお姉さま? そうなんです。幸子さんに頼まれたんです。バックナー大佐は、このままだと、絶対体を壊すと思います」


 二人は念話で話をしている。


 あーー、そうかも。仕事のことしか考えていないから、あの頑固おやじ


「アリスお姉さまも心配してくれるんですか」


 するわけないじゃない。体を壊したら、恩着せがましく面倒を見てやって、それから、小言を言うつもり


「何でか、憎めないんですよねー」


 今日は、ミーシャの結婚の日取りが決まったから報告よ。2週間後に決まったってバックナーにも言っといて


「分かりましたけど、出席は微妙です。まだケレスと戦っていると思います」


 そうよね、こんな時期で悪いんだけど、二人は、17年も待っていたのよ。バーチャルでも無理かな


「私は、顔を出せると思いますが、バックナー大佐は、ああいう人ですから」


 そうよねーー



 そこに、バックナー大佐が、帰ってきた。ブレーメンから帰艦して、艦橋での作戦指示も終わり、やっと、ひと段落知多と言う感じだ。


「噂をすればです。バックナー大佐、食事は?」

「取った」

 うそでしょう

「うそでしょうって、アリスお姉さまが」


「食事ぐらい自分でできる」

「できないから、私がここにいるのでしょう。そうそう、ミーシャさんとユーナスさんの結婚式が、2週間後に決まったそうです」


「それは、めでたいが、もう少し後にずらせなかったのか。それでは、私は、出席できん」


 バックナーの都合でずらせるわけないじゃない

 イオリは、これをバックナーに伝えない


「やっぱり、一番大変な時期になりそうですか」

「これからの1週間が順調に行ってやっとな」

 じゃあ、今、祝福してよ、伝言するから

「アリスお姉さまが、それなら、今、祝福してほしいそうです」


「ふむ」

 バックナーは、急に上を向いて黙り込んでしまった。こういう時は決まって、先のことを考えている時だ。


「結婚はめでたい。二人は、どちらも、オールドブラッドなのだろう。いっぱい子供を産んでほしい。今は亡命しているが、二人は、宇宙時代を引っ張っていく人だと思う」


 あら、まとも

 アリスお姉さま!


「でも、そうならないかもしれないな。自由なのは今だけかもしれない。もしこの戦争で、バーム軍が勝った場合、ケレス連邦という国を解体しようとするだろう。それは、とても非効率的だし、ケレス国民の心情を思いやると、やってはいけないことだと思う。国の解体を止めようと思ったら、旧体制を維持することになる。その時、首長は、亡命している、ミーシャしかバームは認めないのではないか。その覚悟をしといた方がいいと言ってくれ。まあ、今を楽しめということだ」


 それって、祝福になってない


「それ、祝福ですか?」


 バックナー、他の道を考えてよ


「お姉さまが、他の道を考えてほしいそうです」


「でも、最良だろ。皇帝の血筋も絶えない。パワーグラビトンとは、ケレスや火星で言うオールドブラッドだ。ユーナスにもその資格がある」


 バックナー!

 怒るアリスに戸惑うイオリ。私をはさんでケンカされるのは困ると思う。


「選択肢が一つっていうのは、バックナー大佐らしくないです」


「そうだが、疲れているんだ。頭が回らん。ケエル総督の息子さんは、火星の当主ドリトル家の嫡男だとすることもできると思うが、幼すぎる」

 皇太子ケエルの皇太子妃マリアは、ドリトル家の長女で、現当主の姉に当たる。

「バース内親王殿下の成長を待っている間に、地球の資本主義に国をがたがたにされるぞ」


「アリスお姉さま。バックナー大佐の意見を時機を見て、二人に伝えるしかないです。ケレス国民が不幸になるのは嫌です」


 イオリ・・ しかたない、バックナーに、もっと考えるように言って


「分かりました」


「イオリ、アリスとおしゃべりしているのか。どうせ、私の意見に反対なのだろ」


「反対じゃないですけど、二人の気持ちも考えてほしいそうです」


「そうだな、難しいと思うが、主要な要人が、この戦争で、死なないことを祈るよ。そうすれば、また、違う局面もあるかもしれない。わはは、これから戦うというのに、我ながら、つじつまの合わないことを言った」


 覚えておくわ


「アリスお姉さまは、今の意見に賛成みたいです」



 苦笑いするバックナーは、これ以上この話をしなくなった。本当に疲れているのだ。イオリは、アリスに断って、食事の準備に取り掛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る