第6話 イーブンで充分

数日後


 マーク達は、これら、軍の機密に関わるファイターの戦闘データーを得ることが出来る。ニーナが開発した学習機は、バーム評議会のデーターバンクにつながっているだけでなく、バーム軍のデーターバンクとも繋がっている。身内のジョン元帥の指示でそうなった。


 現在、学習機は、3台ある。一台は、コロニーネビラ。それと、現在ネビラに停泊しているガンゾのM78宇宙艇。そして、ニーナが、この学習機を開発していた時期に乗っていたコロニー船をけん引していたバーム軍の戦艦柴火である。


 その戦艦柴火は、その後、ジブリコロニーの旗艦になった。最前線に行くことになったため、機密保持を優先して、学習機は、マーク達がいるレオコロニーのジョン宅に設置されている。


 マークは、ジョンと共に、このファイターの戦闘を学習機のシュミュレーターで、体験することになった。



 ジョンの出身は、ファイターのパイロット。がっくり肩を落としていた。


「まさかのう、わしらのファイターが敗れるとは・・・」


 まず、ジョンが、学習機に入って、この戦闘を体験した。納得は、できるのだが、何とかならなかったのかと首をふる。


「ジョン、ええですか?」

 MG2が、学習機の操作をしている。MG2は、マークが乗るファイター、アクエリアスFのメンテナンスロボット。AIは、ガンゾの意識で動いている。


「すまん、わしの個人プレーでしか、解決策が見つからんかった。マーク、替ってくれ」



 バーム軍のオレンジ隊vsケレス軍シガー隊は、力の拮抗した戦いをしていた。だが、バーム軍パープル隊vsケレス軍チェリー隊は、最初、パープル隊が一方的に撃墜された。最後は、パープル隊のルガー隊長が一機落としたのを機に、撤退した。

 パープル隊は、変形隊形を試す暇もなく一機撃墜され、そのまま、成す術もなく、3機落とされてしまった。ルガー隊長が、小惑星デコイを隠れ蓑に敵の虚を突き、決死のニアミス軌道からの攻撃で、敵機エンジンを沈黙させ、すぐさま、バリヤーの継ぎ目に攻撃して、一機落としたが、敵パイロットは脱出。バーム軍、オレンジ隊のバルトロ隊長は、パープル隊の状態を見て、全機に撤退を指示した。結果、パイロット数を減らしたのは、バーム軍だけとなった。

 

「そうですね。このまま、戦っていたら、オレンジ隊も敗れていたかもしれません。エンジン部分のバリヤー展開が、勝負を分けましたね。ケレス軍は、機動力もあるから攻守とも時間に余裕がある」

 マークもジョンと一緒で、オレンジ隊の隊長機に乗って戦場を見渡していた。


「そうじゃの、エンジンを撃ったところまでは、ええ。その後、継ぎ目部分を撃つのもセオリーじゃ。じゃが、撃つ場所を敵に誘導されとる。大破までの所要時間が、掛かり過ぎじゃ」


「そんなん、技術的なことやろ。同じことを こっちもすればいいんと違うん」


「その技術に見合った戦闘訓練にどれだけの時間がある。もう、戦端は、開かれているんじゃぞ」


「それですか」と、答えながら、そんなん、全自動で、戦場から、退避させちゃると、思う。


「レッドアローは、よくできています。宇宙戦に特化すると、こうなりますか。MG2、どう思う」


「そりゃレッドアローの方が、ええんと違うか。そんなん、アクエリアスFと比べられんわ」


「ばかもん、アクエリアスのエンジンをパルスエンジンにして、バルナックM型のシュミュレーションせんか」


「ええー・・・へえ、機動力だけならアクエリアスFの技術をバルナックM型に一部転用できそうです。それで、イーブン違いますか。敵に勝とう思うたら、後部座席の法撃手にも、一部航宇操作任せんと無理でっせ。それこそ、訓練の時間ありませんやろ」


「イーブンになるんじゃな。十分じゃ。マーク、バルナックM型の改造を依頼するぞ」


 マークは、死の商人やりたくないと、思いながら、首を縦に振るのであった。ただし、ジョンに内緒で、パイロットの延命処置を密かにMG2にお願いした。全自動で、強制だが、当然パイロットたちは、危機から脱出できたと、喜ぶことになる。




 ケレス軍、探査戦艦イーサルの艦橋で、チェコフ中将が、後続の母艦イソラのケンプ少将を呼び出して、今回のファイター戦を解説してもらっていた。ここには、イーサルの艦長や開発主任もいる。オブザーバーとして、戦艦魔導士のハインドも控えていた。


 チェコフ中将は、今回の勝ちに対して楽観視していなかった。そして、ケンプ少将は、敵のパイロットの操縦技術を評価していた。


「当方の勝ちですが、隊長機の腕は、拮抗していたと考えます。敵パープル隊の隊長が、ファイターの腕前を示し、オレンジ隊の隊長が、作戦の柔軟さを示したのです。ですが、技術力は、当方が上だったのでしょう。しかし、こんなにも時間が掛かった」


「それは、当艦でも、分析させているところです。それと言うのも、隊長機は、敵方も一人乗りでした。それなのに、当方は1機撃墜されています。向こうは、人材が豊富だと判断しています。パイロットを鍛えれば、一人でも我が軍のファイターの力に匹敵するということで、間違いないですか?」


「残念ながら」


「ご苦労様です」

 モニターのケンプ少将の映像は、ここで切れた。

「各自、現状を楽観視ぜず、研鑽お願いします」



 全員が持ち場に帰って行く中、戦艦魔導士のハインドが、チェコフ中将を諌めた。


「チェコフ、慎重なのは、良い。だが、士気を高めるために、褒めることも忘れるな」


「今回は、気を引き締めるだけで良いだろう」


「全体の作戦だったら、そうだ。だが、ファイターのパイロットは、少し変わっているんだ。とにかく、今からでもいい、ファイター隊を褒めてみろ」


「調子に載せない程度にだろ、そうするよ」


 めずらしく、チェコフ中将が、笑った。




 サイファス少将は、戦艦マルタの艦橋で、そのまま固まっていた。出張った駆逐艦3艘にも撤退を指示して様子見をする。少将は思う。敵の技術力が上なのは、ファイターだけとは限らない。戦艦にしても、駆逐艦にしてもそうかもしれない。もっと情報が欲しい。


 これは、全体の作戦そのものを見直さなければいけないのか


 厳しい思いで、この戦いの見通しに思いを巡らせていた。


 そこに、秘話回線で、元帥直々の暗号データーが送られてきた。それは、ファイターの翼部分に、前進後進が連動した推進を取り付けると言うものだった。技術開発部に、そのエンジンを解析させた結果、バルナックM型の機動力が、5%上昇すると報告された。それは、ケレス軍のレッドアローの機動力との間に有った格差で、これによって、両機は、機動力においてイーブンとなる。

 更に、隠された、データーを解析班が発見した時、サイファス少将は、小躍りして喜んだ。それは、後部メインエンジンがシャウトした時、ケレス軍と同じように、バリヤー展開し、後に、バリヤーの継ぎ目部分を攻撃されたのをトリガーに、パイロットを船外に脱出させるというものだった。その間の、マニアル操作はできないものの、これで、兵士を延命できる。


 サイファス少将は、ジョン元帥に心から、お礼を言うのであった。。


 ジョンは、最初、脱出装置のことを知らなかったが、マークめ、やりおったと、サイファスの礼を素直に受け止め、全軍にこのセーフティーを伝た。

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